第14.5話 摂氏4.5℃

「おかーさん。おとーさんはどうしてねてるの?おとーさんのまわりにお花さんがあるけど」


「…そうね…お父さんはどこか遠くへ旅に行くの」


「たび?じゃあしばらくかえってこないってこと?」


 四歳の子供にとって人の死というものは簡単には理解できない。自分が大人になるということすら人音はこの時理解していない。


 人はいつか死ぬ。


「しばらく…ええそうね。しばらく会えないわ」


「え〜!かなしいかなしい!どうやったらまたあえる?」


 子供というのは無邪気である。悪意などこれっぽっちもない。その気持ちが大人を苦しめてしまう。


「…人音が勉強を頑張ったら、また会えるかも…」


「べんきょー!うん!ひとねがんばるね!がんばっておとーさんにじまんするんだ!」


 大人の善意も、現実という嘘にしたいことを嘘で塗りつぶす。いつかはバレるというのに。傷つけないための嘘も、結局は傷つけてしまう。


 誰も悪くない。誰も悪くないのに、誰もが不幸になる。


「まってろよ〜おとーさん!」


 

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