第13話
素材を集めを始めて数週間、すっかり週末には異世界へ行くのが日課になっていた。
現代に居る間は術式持ちが超能力者としてSNSで有名になっていないか調べてみたけれど特に見つからず、進展が無い日々が続いている。
共通しているのはテレホンカードを手に入れた後に一人残らず音信不通で行方不明になっている事くらいだ。
亀に関しては、やっぱり狩った分だけ頭数が減っているようで段々と発見しづらくなっていた。
紗英と別々のに探しても見当たらないあたり絶滅の可能性も検討していた。
そもそも怪物に性別が概念があるのか疑問だし、人工的に核と融合して生まれたのなら、繁殖は不可能だ。
結果的に倒せずに甲羅を削ったり、割れた破片を素材として集めていたのは今思うと正しかったのかもしれない。
結果的に生態系を破壊した事になるのだろう。
現代でも過去に素材目的で生き物を絶滅させた人間と同じ事をしてしまったのなら怪物相手とはいえ中々に業が深い。
幸いな事に素材をインゴットにして大量に貯蔵しているので暫く素材不足で困る事は無いけれど、代替の確保手段も考えなければいけない。
そんな風に考えていた時に、今まで感じた事のない違和感があった。
それに気付けたのは偶然に近い。
単独行動する時は不意打の事故防止の為に、術式を自分の周囲に発動している。
負担にならない出力で薄っすらと、それこそソナーのように。
だから背後からの一撃に反応出来たのは術式
の範囲内に違和感を感じたお陰だった。
咄嗟に武器を抜いて振り向くと同時に横薙ぎに振るう。
硬質な物と接触したような感触が武器を通じて伝わる。
それは蜥蜴と人を融合させたような姿だった。
それこそゲームに出てくるようなリザードマンとでも言うのが一番近いだろう。
二足歩行する鋭い爪と尻尾を持った怪物。
爪による不意打ちを弾くと一撃離脱で距離を取られる。
今まで見た事もない怪物を目の前にして一気に緊張感が高まる。
紗英とは別行動の為に自分一人で未知の怪物相手に対応しなければならない。
大切なのは、相手を倒す事よりも、生き残る事、些細な一撃も命取りになる状況で初見の攻撃に備えて武器を構え直す。
「最近この辺りで狩りをしているのはお前か?」
些細な動きも見逃すまいと未知の怪物に集中していたけれど俺に怪物の方から不意打で話しかけられる。
初めての言葉を話す怪物に動揺を悟られないようにするが驚愕は抑えられなかったようだ。
「そんなに驚く事でもねえだろ」
相手の表情はわからないが、なんとなく呆れているような感じが伝わってくる。
蜥蜴と話した事は無いからわからないけど。
「喋る蜥蜴を見るのは初めて見たから驚いたよ」
素直にそれを認めると蜥蜴は鼻を鳴らす。
「喋る蜥蜴ね。お前には俺がそう見えるのか、って事はこのところ頻繁に現れる外の人間だな」
「俺の他にも、似たような人間を見た事があるのか」
戦いの最中でありながら俺は蜥蜴の話す内容に興味が惹かれる。
「見た事あるぞ」
「その人間達はどうしたんだ?」
不意打ちで襲ってきた事からなんとなく顛末は想像出来るけど、念の為に確認する。
「例外なく、みんなこの爪でスッパリだ」
そう言って爪で首を刎ねるジェスチャーをする蜥蜴に益々警戒感を高める。
もう少し情報を引き出したいところだけど、これ以上悠長に会話を続けてくれないだろう。
「一応の確認だけど、このままもう少し話をして帰ってくれたりしないか?」
「残念ながら、それはないな。俺も仕事なんだ悪く思うなよ」
途端にお喋りは終わりとばかりに蜥蜴が砂を蹴り飛ばして目潰しを仕掛けてくる。
そのまま距離を詰めて鋭い爪で襲ってくる。
蹴り飛ばされた砂を重力操作で叩き落とす。付与術で強化した筋力を駆使して爪を弾く。そのまま勢いで力いっぱいブレードを振り抜いた。
ノックバッグで強引に距離を取りながら、斬撃を放出するも、初見の斬撃飛ばしをノックバッグの反動を利用して後ろに転がって躱わされる。
体勢崩したところに追撃で撃鉄を跳ね上げて蜥蜴に向けて引き金を引いて連射する。
放たれた弾丸は体勢を崩した蜥蜴の右腕と胴を貫く。
その状態でも蜥蜴は尻尾で周囲に砂を巻き上げて視界塞ぐと追撃を防いで体勢を整えて距離を取る。
更に連射しても体勢を整えた蜥蜴は損傷してもなお軽々と躱してみせる。
「これでその銃は弾切れだろう?」
この蜥蜴は撃たれながらこっちのリボルバーの口径と空いているされる装弾数を数えていたらしい。
普通に会話を行えたことからもわかっていたけど、今までの怪物と違い確かな知性を感じる。
「さあな、そう思うなら試してみるといいんじゃないか?」
リボルバーの弱点は相手からも装弾数がバレてしまう事だ。
蜥蜴はリロードするまで射撃無いと踏んで距離を詰める。
爪と尻尾を振り回して手数で攻めてこちらにリロードの隙を与えずに倒す腹積りのようだ。
逆にこちらは至近距離で攻められると、大型ブレードの小回りが利かずに受け身になってしまう。
術式で動きを止めようにも、付与術による身体強化と防御を並行で行いながら術式を発動する余裕が無い。
蜥蜴もそれを理解しているから手数で圧倒しようと爪に蹴りなどの体術を合わせて時折、死角から迫る尻尾を捌くだけで精一杯だ。
右腕と胴の銃創から血が流れているように見えるが、それでも致命傷には至らないようで攻撃の手は衰えない。
人間相手なら既に行動不能の筈だけど、怪物の耐久性は想定以上だ。
それでも負ける訳にはいかないので、どうにか距離を取る為に蜥蜴の回し蹴りをブレードの腹で受けるて同時に後ろに跳ぶ。
着地と同時に手元のセレクターを切り替えてリボルバーの撃鉄を跳ね上げて蜥蜴を狙う。
蜥蜴は弾切れだと確信して跳躍すると躊躇いなく爪を振り上げて俺の首に目掛けて振り下ろす。
同時に俺もリボルバーの引き金を引く。
銃口から弾丸が発射されて蜥蜴に着弾すると同時に弾丸が放電する。
その結果を確認する事なく、ブレードで蜥蜴を両断する。
蜥蜴が絶命したのを確認すると、張り詰めていた糸が切れてその場に倒れ込んだ。
どうにか作戦が上手くいって良かった。
最初に持ち手側の通常弾倉からの連射でリボルバーの装弾数を撃ち尽くしたと思わせて特殊弾頭を装填したリボルバーに対する警戒を解いて確実に当てられるタイミングで使用する。
相手に知性があるからリボルバーの装弾数という目に見える弱点を利用して罠に嵌める事が出来た。
格上の未知の相手に対する騙し討ち。
小賢しくてもこれが俺がこの世界で生き残る為に考えた戦い方だ。
当然ながら課題も山積みだけど、今くらいは生き残った事を誇ってもいいだろうと思えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます