第12話

地下都市周辺で手当たり次第に亀を見つける      と先制で斬撃を放出して一方的に屠っていく。

最初の頃は怪物相手でも屠る事に罪悪感を抱いていたが、ゲーム感覚で繰り返し屠る事ですぐに慣れていく。

本来は物理武器だと硬い甲羅に覆われて満足にダメージを与えられないが、斬撃を放出して飛ばす事で物理耐性を無視して一方的に屠る。

試作機能の実践データを集める為とはいえ、現状で一番防御が高い相手に殆ど一撃で屠れると、斬撃放出に頼りきりな戦闘に慣れてしまうので、気をつけないと変なクセがつきそうだ。

それでも、術式に依存しない戦い方の実践データが集めれる意義は大きかった。

周囲の亀が粗方片付けくと素材を回収していく。

回収と言っても倒した亀を紗英が影の中へ放り込んでいくだけなので殆ど手間はかからない。

周辺の亀を殆ど狩り尽くしてしまったので、今後の素材回収が心配になるけれど、その辺りの事も確認しないといけない。

もしこれっきり亀が現れないようならカートリッジの素材の安価な供給手段の算段が崩れてしまう。


地下都市へ戻るとアイゼンの所へ回収した素材を持って行って精錬してもらう。

今回は精錬する過程を見学したいので、紗英と別れて鍛冶場に残る。

不純物を取り除いてインゴットにする作業を横で見学させてもらいながら考える。

亀の甲羅は、あの砂地に含まれる鉱物が亀の体内で凝縮された物だという。

わざわざ亀と狩らなくても、多少非効率でも安全にこの辺りの砂から鉱石を取り出して精錬して同じ事が出来ないだろうか。

日本だって昔はたたら製鉄で砂鉄から金属を作って金属製品を作っていたのだから不可能ではないはずだ。


「なあ、アイゼン、作業をしながらで聞いて欲しいんだけど、この辺りの砂を大量に集めて精錬したら多少非効率でもそのインゴットと同じ物が鍛造出来ないか?」


「それは無理だな。効率の問題じゃない、亀の体内で凝縮される事が大切なんだ」

隣でアイゼンの顔を見て続きを促す。

アイゼンは作業の手を止める事なく、説明を続ける。


「砂を集めて微量でも鉱石を手に入れる。そんな事は、初期に亀に勝てなかった連中が散々試した」

アイゼンの横顔には、哀愁のような垣間見れる。

恐らくアイゼンもそれを試行錯誤して試したのだろう。


「それでも、膨大な砂を地道に精錬して鍛造した金属はなんの変哲もない普通の金属だった。術式を込める事なんて不可能な代物だったよ」


「亀はこの砂地から鉱石を食べて体内で凝縮するんだろ。何が違うんだ?」


「この世界の怪物はみんな例外なく同じ核を持っている。そもそも考えてみろ、あの巨体を砂を食べるだけで維持出来るものか、砂地の中の微生物を食べるにしても限度がある」


現代でも鯨は小さなオキアミなどを食べて生きているが、それだって一日辺り莫大な量を摂取している。


「それは確かに思ったけれど、それを可能にしているのが、その体にある核だと?」


「あの核は生き物を怪物に変貌させるだけでなく核自体がエネルギーを供給しているか、核を持った生物が極少量の物質でも大量のエネルギーに変換する能力を与えているんじゃないかと考えている」


それは確かにこの生き物が怪物以外には存在しない終末世界で必要な機能だ。


「その結果が体内で凝縮された鉱石と人間が精錬して作った金属の差だと?」


「それ以外には考えられん。そもそも術式やそれを使う力自体が未知のエネルギーだ。なんの変哲もない鉱石に術式を込める事を可能にするのなら、あの未知の核以外にはないだろう」


「だから怪物を倒す時は弱点になるあの核を狙うんだな」


「理論上はな。ただそんな戦い方が出来る奴は殆どいない」


「そうなのか?」


「当たり前だ。初見の怪物は尚更だが、何度も戦った経験のある怪物でも小さな核を狙うより集団で大きな的を狙った方が安全だし確実だ」


最初にこの世界に来た時に紗英から怪物と戦う時は核を狙うように言われたが、地下都市のノウハウとは違うようだ。


「”サンドワーム”みたいな怪物相手でも核を狙ったりしないのか?」


「それこそ自殺行為だ。砂に潜る相手にわざわざ核を狙うなんて逆に飲み込まれかねない」


「ところで、”サンドワーム”飲み込まれた人間はどうなるんだ?」


「それは、以前に飲み込まれた人間を助けようとして、腹を裂いて助けようとした事がある。だけど飲み込まれた人間は出てこなかった。せめて助けられなくても、弔おうとしたんだがな、怪物の腹の中には跡形もなかった」



「その時に助けようして戦っていた人間は今はどうしてるんだ?」


「さあな、今は現代に居ると思うが、ある程度戦える人間は俺たちみたいな生産系術式持ちと違って、外を自由に出入り出来るから現代と異世界の行き来も単独で可能だし、異世界にある程度満足したら現代に戻るんだろうさ、現代で術式を使えるなら色々金儲けも可能だろうからな」


この地下都市には生産系術式やインフラを支える術式を所持する人間以外を見た事がない。

更に地下へ降りると現代から機材と土や種子を持ち込んで野菜の生育をしている。

水は砂地に降る雨を濾過して利用しているらしい。

この地下都市の生活は殆ど自給自足に近く、確かに最初の頃は異世界サバイバル的な非日常感があるけど、長期間になれば、娯楽も少ない中では現代に帰還する人間も多いだろう。

戦闘向きの術式持ちを見ない理由がそんな理由だったのかと思うけど、自分に置き換えるとすんなり納得する。

ただ、現代で術式を使えるのなら超能力者として有名になるなりして異世界の事が有名になる筈だけど、都市伝説の赤いテレホンカード以外の話は出てきていない。

素材だけでなく、この世界の事以外にも色々と情報を集めた方がいい事は確かだった。










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