第9話

地下都市を出るとアイゼンに鍛造してもらった刀の試し斬りを兼ねて討伐する怪物を相談する。


「とりあえずお試しだし、公衆電話近くの”サンドワーム”を討伐するか?」


「それだと普通の刀でも斬れるからあんまりわからないでしょ」


「あんまり気は進まないけど、亀を探す方がいいかもな。強度と耐久性という意味では理想的だし」


自分で提案しながら昨日亀の硬さが身に染みているせいか積極性に討伐したいとは思えない。


「良いかもね。ダメならすぐ逃げたら問題無い訳だし」


「最悪、刀が折れてもすぐに鍛冶屋に駆け込めるからな」


「それめっちゃ怒られるよ」


「いや、文句は言いつつ最速で打ち直してくれると思うぞ」


無愛想だけど、なんだかんだで面倒見の良い鍛冶屋が怒りながら直してくれる姿を想像して笑う。


「早速、移動するか」


「うん」


付与術で強化した脚力で砂地を高速移動しながら隣を並走する紗英に愚痴をこぼす。


「それにしても、毎回徒歩で移動っていうのがな」


「不満なの?」


「何か乗り物的な物が欲しくないか?」


「それは最初の頃に思った事あるけど、学生が乗れるのって自転車くらいじゃない?」


「車とか、せめてバイクとか欲しくないか?」


「免許持ってないでしょ」


「そもそも異世界で免許いるのか?」


「要らないかもね。ここに道交法があるかもわからないし」


「それなら近いうちに要検討だな」


そんな軽口を叩きながら亀を見つける。


「どっちが行く?」


「先に私が試しに斬ってもいい?」


「構わないぞ、それなら俺は後ろで待機だな」


「まあ、一応ね。何もないとは思うけど」


紗英はそれだけ言うと、”紅椿”を鞘から抜くと上段に構えて跳躍と同時に亀の首目掛けて刀を振り下ろす。

何の強化も施していない状態で紅椿の刃は深々とした傷を亀の首筋に刻む。

亀が悲鳴のような咆哮をあげて首を甲羅の中に縮めて防御体勢になる。

それを見て紗英の方も今度は刀に術式を流して刀身を強化すると、垂直に跳躍して全体重を載せた一撃に付与術も上乗せして放つ。

上から振り下ろされた刃が甲羅を斬り裂き振り抜いた刃から放出された斬撃が中の亀の本体を両断する。


最後に弱々しい断末魔をあげて鳴くと亀はそのまま絶命した。


それを確認すると、刀身に付着した体液を振って落として鞘に仕舞った紗英に話しかける。


「なんというか、思った以上に簡単に斬れたな」


「本当にね、刃毀れもないしこれ中々の業物よ」

刀を見ながら紗英が畏れを込めて呟く。


俺はそれを聞きながら、自分の背中にある”グラディウス”を見る。

試し斬りさえまだなのに今の光景を見て空恐ろしいものを同等の性能かそれ以上の力を秘めた背中の”グラディウス”に感じる。


「それで、この亀どうする?」 


「もう、当面の間の素材は要らないけど、念の為に甲羅だけ回収する方がいいかもな」


「でもここにはハンマーないけど」


「刀で斬れたんだから甲羅を持ち運びしやすいサイズにカットして持ち運べばいいだろ」


まるで野菜を切るような感じで話していると紗英が俺の背中に目を向ける。


「背中の銃剣の大型ブレードで砕いた方が早くない?」


「一理あるな」


紗英の指摘に背中の”グラディウス”を抜いて構える。

この”グラディウス”には申し訳ないけど、最初の仕事は亀の甲羅の粉砕だ。

そう思って心の中で銃剣に謝ると甲羅を粉砕する為に”グラディウス”を振り上げた。


「待った。そこにもう一匹いる」


「わざわざ倒すか?」


「粉砕するにしても音が出るしこっちに向かって来られたらせっかくの素材の回収が面倒でしょ」


「それもそうか」


亀に気付かれる前に付与術を使って跳躍すると亀の甲羅を両断する為に”グラディウス”に術式を発動して振り下ろす瞬間に合わせて重力操作を最大出力にする。

振り下ろされた刃に付与される重力が増大して重力加速度に応じて威力が増幅した刃が亀に叩きつけられる。

金属同士がぶつかる鈍い音が響いたのは一瞬でそのまま”グラディウス”の刃が甲羅を粉砕して中の亀を絶命させる。

絶命した亀から”グラディウス”を引き抜くと刃はべったりと血に濡れていて鉄臭さが鼻につく。

さっき紗英が亀を絶命させた時は何も感じなかったのに、たった今自分の手で甲羅を砕き肉を両断した感触を思い出して手が震える。

思えば、この世界に来て自分の手で怪物を倒したのは初めてだった。


「お疲れ様、どうかしたの?」


呆然とする俺に紗英が声をかけてくる。


「いや、初めて怪物を倒したら怖くなったというか、怪物だと思っていたけど、普通の生き物と同じように血を流すんだなって」


「そういうことね。あんまり深く考えたらダメ。今回のは偶然私たちの知ってる亀に似た生物だったけど、相手は怪物なんだから」


「そうだけどさ」


「とりあえず、一度深呼吸をして落ち着いて」


言われた通り深呼吸しても落ち着かない。

それどころか、段々と呼吸が早く荒くなっていく。


「ちょっと、大丈夫?」


紗英が何か言っているけど、上手く頭で処理が出来ない。

「少し痛いけど、ごめん」


耳元で紗英が囁くと首筋に衝撃があって意識がぼんやりとして視界がブラックアウトした。



















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