第16話 交渉
リュバンは私たちに少々の苦労をさせながらも牧場をやっていける方法を思いついたようだ。
「いいですか。お嬢様。少人数で牧場をやっていく方法を考えました」
「そう? あなたの魔法が牧場の仕事をしてくれるのね。どの仕事をしてくれるの? 乳搾り? 掃除?」
「いいえ、違います。魔法でそんなことは致しません。お嬢様が動物と話せるような魔法をかけます。」
「えっ! なんですって!」
私は驚いた。そんなことができるのかと・・・もしそんなことができれば楽しいに違いない。だがそれが牧場の仕事に大きな役に立つのか・・・
「お嬢様が牛などの家畜に命じてください。家畜の方がこちらの思い通りに動けば牧場はうまく回るでしょう」
「それはそうだけど・・・」
私としては自動的に乳しぼりをしてくれるとか、寝藁の掃除ができているとか、そんな魔法を期待していた。私が微妙な顔をしているとリュバンは思ったのだろう。
「お嬢様。ここでがんばってこそです。では魔法をかけて差し上げます」
リュバンは呪文を唱えて魔法を私にかけた。
「今回は特別な魔法です。12時にリセットされますが日の出とともに魔法が自動的にかかります」
「つまり日が昇っている間は動物と話せるのね」
「そういうことになります。話せる動物は牛や馬や犬などの賢い動物で・・・鶏は微妙ですね。ではお嬢様。がんばってください」
リュバンはそう言ってまた洗濯に戻った。
(まあ、この魔法だけでも助かる。まずチャオにでも話しかけてみようか・・・)
私は犬小屋の方に歩いた。すると私が行く前にチャオが飛び出して来た。
「チャオ。私の言葉がわかる?」
【わかります。何か御用ですか?】
チャオは「わんわん」吠えているだけだが、頭の中で言葉が聞こえる。
「牛たちに協力してもらうために話をしようと思って」
【あいつらお嬢さんを馬鹿にしていますよ。ここの仕事がろくにできないって】
「そう。でも話してみる。チャオも来て」
私はチャオを連れて牛たちのところに行った。
「さあ、みんな集まって!」
私が声をかけるが牛が集まる様子はない。
「聞こえているんでしょう! チャオ! ちょっと驚かせてきて!」
【わかりました!】
チャオは「わんわん!」と吠えて駆けまわり牛たちを連れてきた。
【うるさいわね!】
【何の用よ!】
【偉そうね!】
牛たちは口々に文句を言っている。
「みなさん! 私はあなたたちの言葉がわかります! あなたたちもそうでしょう?」
すると牛たちは驚いていた。
【人間が!】
【本当にわかるんだわ!】
私はかまわずに話を続ける。
「牧場が大変なのよ。みんなに協力してほしいの。簡単なことよ。決まった時間に小屋に来て乳搾りをさせてくれればいいの。あと牛舎を自分たちで掃除したり・・・」
【えー! どうして私たちが?】
【今のままでいい】
牛たちは協力する気がないようだ。確かにこちら都合を押し付けられると牛たちも迷惑だろう。だがどうしても協力してもらわねば牧場は存続できない。
「お願いよ。そうでないと牧場がなくなるわ。そうなったら困るでしょう」
牛たちは牧場から逃げ出して大変な目に遭ったことは知っている。辺りにうまい草がなく、ひもじい思いをしていたのだ。
【まあ。それはそうだけど・・・】
【そうなったら困るわね・・・】
私はもう一押ししてみた。
「ここなら安心よ。牧草はいくらでも生えてくる。雨にもぬれない寝床もあるわ。乳しぼりに協力してくれる?」
【まあ、そういうことなら・・・】
【あなたの言うとおりにするわ】
牛たちは協力してくれることになった。朝、起きれば牛舎の掃除だ、牛自身が寝藁を片付け、新しい寝藁を敷いていく。そして時間になれば乳搾りの小屋に来る。終われば牧草を食べに牧草地に出かけていく。そこでたらふく食って、夜になれば牛舎に戻る。
私は乳搾りだけすればよかった。最初はどうすればいいかわからなかったが、ララが教えてくれた。彼女は田舎の出だけあってこの牧場で必要なことは何でもできる。
私が言い含めているので、牛たちはおとなしくしている。2つの乳首をもって右、左、右、左と搾っていく。これにはコツがいる。最初はうまくいかなかったが、しばらくやっているうちにそこそこできるようになった。
搾った牛乳はミルクタンクに集めて荷車に載せておくだけでいい。チャオが運んでくれる。散歩がてらに私が牛乳屋に売りに行ってもいいのだが、チャオがどうしても仕事をさせてくれという。手が十分足りていないからチャオにお願いすることにした。
犬が荷車でミルクタンクを運び、代金を受け取って帰る・・・そんなことが珍しいようだ。チャオは村ではよく働く勤労犬として人気者になった。今日もチャオは村人が見つめる中、誇らしげに荷車を引っ張っていく。
牛の方はうまくいったが、鶏の方が手間取った。私が協力を頼むと鶏たちは、
【いいですよ。やりましょう】
二つ返事で応じてくれた。だがすぐに忘れてしまうようだ。卵を所定の位置で産まないし、エサの準備もしなければ藁の掃除もしない。ただ鶏舎を歩き回って出されたエサをついばむだけだ。だからここはあきらめてララに頼むことにした。鶏舎の掃除と餌やりと・・・。私は昼前にそっと鶏舎に入って卵を取るだけだ。
「今日もありがとう」
鶏たちにお礼の言葉は忘れない。でも鶏たちはいつもエサを食べるのに忙しそうだ。私に見向きもしない。まあ、卵を産んでくれるからよしとするか・・・。
とにかく牛と鶏の方は何とかなりそうだ。
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