第3話 黒幕登場
『もしもし、佐藤さんですよね。ツイッターとかインスタで見ましたよ。高齢者向け自宅リフォーム業者らしいですね。』
『はい。うちの祖母がお世話になっております。』
『いえ、請求額に疑問がございまして、どのような金額配分かお伺いしてもよろしいですか?』
『警察庁のHPによりますと、こちらはいささか違法な契約内容だと見受けられるんですが。』
『はい。わかってますよ。天台さん。偽名なんか使っても無駄ですよ。IPアドレスから住所は特定しました。思ったより近くてこの前足を運ばせていただきました。』
『そうですね、四人家族だそうで、あ、そうそう。ツイッターのFF内に自身の別垢は入れない方がいいですよ。』
『マッチングアプリなんて使ってるの、父親としてどうなんでしょうかね。別に脅してるわけじゃないですよ。』
『要求ですか、そんなの決まってるじゃないですか。−...』
ものすごい振動を感じた。まるでナパーム弾でも目の前に落ちたかのような衝撃だ。目を覚ますと歴史科教師の...何某先生がいた。机を叩いて起こされたようだ。名前が寝ぼけて思い出せない。どうやら4時限目の歴史総合で眠りこけてしまったらしい。中学の頃の夢を見ていたような気がするが、思い出せない。うつ伏せの体を起こし、軽く背伸びをした。周りからは、くすくすと笑い声が聞こえる。隣の席の蘇我恵茉(そが えま)が鏡を見せてきた。なるほど、みんなが笑う理由はこれかと、頬を人差し指でなぞる。どこかの民族にありそうな赤い寝跡が作られていた。
4時限目が終わり、昼休みが始まった。クラスメイトが一斉に席の移動を始める。机や椅子を引きずるノイズ音の中、道元善一はA子とどのように接触しようか考えていた。その時、隣から声をかけられた。先ほどの鏡を常備している女子だ。
『昨日のラインなんだったの?気になってる子?』
ニヤケ顔で尋ねてきた蘇我さんは本物のA子のありかを教えてくれたクラスメイトの女の子だ。身長は160後半はありそうでスタイルがいい。サッカー部のマネージャーをしていて、同じサッカー部の摩多羅礼太とは幼馴染らしい。
『あー。そーゆーわけじゃないわ。なんというか。その子に聞きたいことがあったからさ。』
蘇我さんはショートカットの髪をかきあげ、胸を張った。
『同じ部だし、恵茉が話通してあげるよ!』
A子はサッカー部の人らしい。マネージャーか。あの容姿でマネージャーとか、どこのヒロインだよ。サッカー部に対しての悪態を抑え、感謝を伝える。
『まじ、蘇我さんあざす。礼太も連れてきたいから、一緒に来てくれると助かる。』
『今日サッカー部オフだから、一緒にいけるよ、放課後でいい?』
『うん、もちろん。』
蘇我さんは教室窓側後方の、陽キャグループの元に走っていてしまった。俺も昼飯を食べようと、弁当をカバンの中から取り出した。礼太の元に行こうと、あたりを見渡したが姿が見えない。教室後方は女子のグループが陣取っている。窓の外を背景にダンスを踊っている。TikTokだろうな。顔は皆お世辞にもいいとは言い難い。前方は男子が横2列で綺麗に並んでスマホゲームをしている。電車の座席を彷彿とさせる。
善一はどうにも、こういった非生産的な道楽に時間を割くような人々とは壁を作ってしまう。いわゆる隠キャというやつかもしれない。善一はどこか、人よりも達観していると思っている節があるからだ。物思いに更けていたところ、休み時間はどうも終わってしまっていたらしい。各々が自分の席へと戻っていく。その時、礼太が教室前方の扉から姿を表した。そういえば、礼太は放課後空いているのだろうか。
放課後になり蘇我さんと礼太の三人でA子のいるE組へと向かった。A組からE組へ行くには、A組教室の前の扉を出て、左手方向に一直線だ。その間礼太は、聞いてないぞと言わんばかりに不満を漏らしていた。当たり前だ。言ってないんだから。断らないあたり、彼の優しさが伺えてくる。蘇我さんに連れられ、E組についた善一たちは、スライド式のドアを開け中へ入る。
教壇正面の席にA子は座っていた。定期テストに向けて、自習しているようだ。その横顔は、ポートレートで撮ったかのように、視界が吸い込まれ周りがぼやけて見える。写真通りの美人だと思った。しかし、その奥にもう1人、窓辺の席からこちらを睨むように、視線を飛ばしてくる男がいた。恨みを買った覚えはない。なんとなく睨み返してみると、その男は目をそらした。複合フローリングでできた床を見つめる男は、どこかで見覚えがある気がした。E組教室内には俺たち含めた、五人のK高一年生しかいない、異様な空気に包まれ始めた。
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