第13話
爆風が背を押した。まるで神の背中に喧嘩を売るみてぇに、俺の体が空中を滑る。焦げた匂いと火薬の味が口内に残ってたが、それがむしろアドレナリンを加速させる。肉体の限界を超えて、俺の神経は一点に集中してた。
神の胎児――いや、もう“神性存在”って呼んだ方がしっくりくるあの異形が、俺の突撃に対してようやく防衛反応を見せた。空中に無数の輪が展開され、その輪から数十本の触手が伸びてくる。
それが意味するのはひとつ。“殺す”って意思表示だ。
「来るか……こっちも迎撃の準備は万端だ」
ジャッジメントを両手で構える。右肩の関節が軋む。いい音だ。戦争が始まる音ってのは、銃声じゃねぇ。自分の体が壊れ始める音から始まるんだよ。
触手一本目、目測で六メートル。先端が鎌状に変化して、俺の右肩を狙ってくる。躱す。左へスライド。反射で引き金を一発。通常弾。弾け飛ぶ。
二本目、三本目、連続で迫る。弾道視覚が軌道を解析し、脳に直接ルートを送ってくる。回避、回避、そして撃破。三発。命中。速度が落ちる。
「流れはこっちだ。止まんじゃねぇぞ」
重力弾を構える。跳躍の最中に下方向に発射。自分の体を押し上げる反動を利用して、神の頭上へ回り込む。神性存在の目が俺を見上げた。初めて表情らしき動きが浮かぶ。
“困惑”だ。
「この程度で動揺か? だったら、もっと困らせてやるよ」
残弾はあと三発。通常弾二、呪詛弾一。スキャンを再起動。神の胴体部にある模様の歪みを捉えた。中心点。心臓に相当する構造。存在情報がまだ読みきれねぇが、あれは“破壊しても差し支えない場所”って直感が告げてる。
そこに向かって一発。通常弾をぶち込む。弾が当たった瞬間、空間が振動した。反応があるってことは、効いてる。
「よし、効くなら重ねるだけだ」
二発目。同じ箇所に命中。だが、今度はバリアが形成された。空間が歪み、熱を帯びた膜が俺と神性を隔てるように発生する。これは“拒絶”じゃねぇ、“範囲制圧”だ。空間ごと、存在を削りに来てやがる。
「なるほど、頭使い始めたか。じゃあ、そろそろ俺も全力で行く」
最後の一発、呪詛弾を込める。バリアの内側に狙いを定める。ジャッジメントのスライドを引く指が、自然と笑ってた。殺意に笑みを浮かべるってのは、昔からの癖だ。
「お前の“構造”が神のものでも、“存在”が残ってる限り、引き金は正義を通す」
トリガーを絞る。
発射。
呪詛弾がバリアに衝突する。衝撃。跳ね返りじゃない。中へとねじ込む。物理法則を凌駕して、神の中へと食い込む。呪いが内部から爆ぜた。
瞬間、神の胎児が絶叫した。音じゃない。空間そのものが震えて、鼓膜が圧で破裂しかけた。だが俺の神経は、まだ生きてる。壊れかけた体でも、“撃つ”って行為だけは続けられる。
神性存在の体にひびが走る。背中から血のような光が溢れ出し、床に流れて地形を侵食する。だが、死んでねぇ。まだ目が動いてる。こっちを認識してる。
「しぶといな……ならもう一回、殺すまで叩き込むだけだ」
だが、弾がねぇ。ジャッジメントのマガジンは空。ポーチも空。爆薬も使い切った。俺の体も限界。だが、それでも“まだ撃てる”。
「銃がねぇなら、拳で撃つ。弾がねぇなら、牙で殺す」
神の目が収束していく。瞳孔が開き、俺の動きを見逃さねぇ構え。だが、その視線こそが隙だ。
「注視ってのはな……視界を固定するってことだ。つまり、動けねぇってこった」
俺は地を蹴った。拳を握る。銃は構えねぇ。こいつは“弾じゃなくて意志”をぶち込む戦いだ。目の前に広がる神の胎児の胸に、俺の拳が触れた。
“拒絶反応”。瞬時に指が焼けた。皮膚が剥がれ、骨が見える。だが止めねぇ。拳を押し込む。関節が軋む。骨が折れる。だが、そのまま貫く。
「死ねって言ってんだよ、クソ神」
その瞬間、俺のスキルが自動で反応した。“引き金が正義:覚醒段階1”──強制スキャン。
強制的に存在情報を上書き、脳内に構造データが流れ込んだ。視界が真白になって、内臓が逆流しそうになる。だが止めねぇ。
神の核構造を捉えた。位置は脳の中心。物理的に到達不能。だが、これだけ近けりゃ“届かせる方法”がある。
「構造を知ってるなら、軌道を作れ」
俺は自身の折れた指を引き裂き、骨を抜いた。それを即席の“貫通弾”として、折れたジャッジメントのマズルに突っ込む。火薬はねぇ。でも、“引き金を引く意思”があれば、スキルが代替する。
「これが最後の祈りだ。届いてみろや、俺の引き金」
トリガーを引く。音はしなかった。代わりに、白光。世界が一瞬“止まった”。存在そのものが、撃ち抜かれた。
神の胎児の頭部が爆ぜた。無音で、静かに、花が咲くように。
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