第2話 見知らぬ森

意識が浮上した時、ワタナベ・タクミは硬い地面に倒れていた。最後に何を見たのか、思い出せない。ただ、強烈な光と、耳をつんざくような音だけが脳裏に残っている。

転生前はいじめられっ子で引きこもりな少年(16歳)は信号無視のトラックにひかれ、交通事故死した直後ここへ転生した。


(僕はもしかして死んだのか?……なぜここに?)


ゆっくりと体を起こすと、そこは見慣れない森の中だった。高い木々が生い茂り、じめじめとした空気と土の匂いが鼻をつく。周囲を見渡しても、人工物らしきものは何一つない。


「ここは……どこだ?」


呟いた言葉は、やけに乾いていた。喉はカラカラに渇き、全身が鉛のように重い。立ち上がろうとした瞬間、背後からガサガサという音が聞こえた。


振り返ると、そこにいたのは緑色の肌をした、小さな生き物だった。尖った耳、ギザギザの歯。間違いなく、ゲームやファンタジー小説で見たことのある「ゴブリン」だ。


ゴブリンは、タクミを見るなり、手に持った棍棒を振り上げて襲いかかってきた。


「うわっ!」


咄嗟に身を引いたが、恐怖で体がすくむ。どうすればいい? 戦う? 逃げる? そんな考えが頭の中で渦巻く中、ゴブリンの棍棒がタクミの肩に直撃した。


「ぐっ!」


激痛が走った次の瞬間、信じられないことが起こった。ゴブリンが悲鳴を上げ、自分の棍棒で吹き飛ばされたのだ。


何が起きたのか理解できず、タクミは目を丸くした。倒れたゴブリンはピクリとも動かない。


その時、脳内に声が響いた。


『スキル【反射】が発動しました。受けた攻撃をそのまま相手に跳ね返します』


反射……? それが自分のスキルなのか?


周囲には、いつの間にか数匹のゴブリンが集まってきていた。彼らは仲間が倒れたことに警戒しながらも、ジリジリと距離を詰めてくる。


再び、一匹のゴブリンが棍棒を振り上げた。タクミは身構える。来るなら来い、と。


棍棒がタクミに当たる。その瞬間、またしてもゴブリンは自分の攻撃によって吹き飛ばされ、地面に転がった。


「こ、これが……反射スキル……!」


何度攻撃を受けても、その度にゴブリンたちは自滅していく。タクミはただ立っているだけでよかった。まるで、透明な壁に阻まれているかのように、ゴブリンたちの攻撃は彼に届かず、そのまま跳ね返っていくのだ。


( 神様が召喚した……スキルレベルを上げて戦う……?)


混乱する思考の中で、神の声が聞こえたような気がした。この世界は、複数の神々によって召喚された人間たちが、それぞれのスキルを競い合う場所らしい。そして、生き残った者には更なる力が与えられるという。


ぼんやりとした記憶が蘇る。誰かの声が、頭の中で響いたような気がした。


周囲のゴブリンたちは、仲間が次々と倒れていく異常事態に戸惑っているようだった。タクミは、恐る恐る立ち上がった。


内向的で、慎重で、臆病な少年は、思いがけないこの力に震えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る