第33話 百日目

 桜も散り、直樹は花粉症に苦しまされていた。

 今日も柊木が運転する車に乗って、除霊の仕事だ。

 それ自体はいい。直樹を憂鬱にさせているのは、目的地が杉林だからだった。


「杉が沢山生えているとこに、仕事で行くとか嫌だー」

「仕方ないじゃんっ。あの日、東京の霊を除霊しまくっちゃったから、地方の仕事が多くなってるのっ」

「朱霞だって、花粉症なくせに」

「ウチは薬飲んでるから平気でーす」

「なんで俺は薬飲んじゃダメなんだよっ!」

「説明したっしょ? 体の感覚が鈍って、霊力のコントロールが下手になるからだってば」


「それより朱霞。都内の霊を除霊し過ぎた件で、各方面からクレームの嵐なんですが」

「熨斗つけて返せばいいじゃん。一件あたり、三千円でいいっしょ」

「しょぼい香典かよ……」

「おにーさんが、あん時に陽祓いの太刀に刃こぼれ作ったせいで、五千万の借金ができたからなんですけどー?」

「その件は土下座しただろっ」


 直樹のズボンのポケットでスマホが振動する。

 画面を確認すると、柚からのメッセージだった。


「松下さん?」

「また孤独死の物件が出たから、見に来てくれってさ」

「付き合い直したらいいのに」

「この前会った時に、除霊師とだけは付き合いたくないって言われた」


 朱霞が腹を抱えて爆笑する。


「それなのに、ロハで霊視手伝ってんのウケるっ!」

「いいんだよ。俺は、俺の出来ること、したいこと、すべきことをするって決めてるんだから」


 直樹は窓の外を見ながら答えた。

 陽葵。俺は、俺の人生を生きてるぞ。


「そろそろ着きますよ」

「じゃ、お仕事と行きますか」

「任せとけ」


 人生は続いていく。これからも。



 了

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キミ色の四十九日間 天海 潤 @Amami_Jun

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