双子の家へ
長かった授業がようやく終わった。午後からの部活は無い。荷物をまとめて帰ろうとする。お兄ちゃんは無事だろうか。
「奈美、顔色悪いよ?」
「うん、大丈夫…」
璃羽ちゃんが私を心配している。璃羽ちゃんはあまり人に関心が無いように見えるけれど、私に声を掛けてくれた。
学校から出て、スマートフォンを取り出す。お母さんとお兄ちゃんにメッセージを送って、アプリを閉じる。すると、璃羽ちゃんが隣に来て、スマートフォンを取り出した。
「今から家に来ない?お母さんには話つけとくから」
「璃羽ちゃんの家に?私は良いけど…」
私はアプリをもう一度開いて、お母さんに連絡した。それから、一旦璃羽ちゃんと別れて、家に帰った。
家に戻ると、お母さんが先に帰っていた。机には紙袋が置かれている。下校中に送ったメッセージを見てくれたのだろう。私服に着替えた私は、紙袋を手に持った。
「ありがとう、お母さん」
「
私は私服に着替えて、家を出た。
それから、璃羽ちゃんの家に入ると、璃羽ちゃんのお母さんが、待ってくれていた。
「こんにちは、お邪魔します」
私は、持ってきた紙袋を璃羽ちゃんのお母さんに渡して、手を洗って二階に上がる。
二階にある部屋に入ると、璃羽ちゃんと、
「お菓子、一緒に食べよう」
璃羽ちゃんは紅茶を用意していた。二人のお母さんが用意したお菓子を、三人で食べる。
「『ふじみ様』の話って、本当なのかな…」
スマートフォンを取り出して、お兄ちゃんの名前をタップする。私のメッセージは受信済みで、既読マークは着いている。今のところ、お兄ちゃんは無事のようだ。
「奈美ちゃんが気にする事無いよ」
「そうだよ、心配するだけ時間の無駄だよ」
一緒に心配してくれる瑠維ちゃんに対して、璃羽ちゃんの方は反応があっさりしている。双子なのに、二人は性格が全然違う。そのせいで喧嘩になった事もあったそうだけど、今はそうでもないようだ。
「そうだ、あれ使えるかな」
瑠維ちゃんは立ち上がって本棚の本を取った。璃羽ちゃんが普段読んでいるような、辞書のように分厚い本だった。けれど、表紙の雰囲気が全然違う。ファンタジーの魔術書のような神秘的な絵が描かれていた。
「これはビブリオマンシー、書物占いに使っている本なんだ。私は困った事があるとこの本に聞くようにしてる」
そういえば、瑠維ちゃんは、占いが好きだと璃羽ちゃんから聞いた。他のクラスの子が瑠維ちゃんに占ってもらったという噂も耳にした事がある。占いの先生に色々な占いを教えてもらったそうだけど、これもその一つなのだろうか。
私は、瑠維ちゃんから本を受け取り、真ん中辺りのページを開いた。すると、禍々しい絵が描かれている。そこには、こんな事が書かれていた。
『小さな不安は人に伝わり、大きな厄災に変わる。それを鎮めるのもまた人の役割だ。困難は時に人を成長させる、神からの試練だ。』
この本はところどころページが捲れていたけれど、このページは新しかった。瑠維ちゃんが占う時には、このページには当たらなかったのだろう。
「このページ初めて見た。こんな事が、書いてあったんだ」
どういう意味なんだろう。これから厄災とも呼ばれるような大きな災いが起きるのだろうか。それが、『ふじみ様』とどう関係するのだろう。
「奈美ちゃんを安心させるつもりが、かえって怖がらせてしまったね、ごめんなさい」
瑠維ちゃんはページを閉じて、本を本棚に片付けた。
「璃羽は、奈美ちゃんの悩みにどう答える?」
璃羽ちゃんは、紙を取り出して、机の上に置いた。
「まず、状況を整理しようか。この町で行方不明者が出たのは本当だよね」
璃羽ちゃんは、今起きている事を紙に書き出した。
「でも、それが『ふじみ様』のせいとは断言出来ないよ。単なる事故かもしれないし、人が起こした事件かもしれない」
璃羽ちゃんは事実を書き出した隣に、可能性の案をいくつか書いた。それから、パソコンを開いてニュースサイトを開く。そこには、地元ニュースでこの町の男子高校生が行方不明になったと書かれてあった。
「あくまで噂の段階だから、今は何とも言えない。でも、男子高校生も見つかっていないし、用心するに越した事はないよ」
瑠維ちゃんも、璃羽ちゃんも、目の前の問題に対して、解決しようとする手段を知っている。それは、それぞれ違うやり方だけど、二人はそれを私に教えてくれた。
「二人とも、ありがとう」
「奈美の力になったのなら、何よりも嬉しいよ」
私は二人にお礼を言って、部屋を出た。それから、二人のお母さんに挨拶をして、家に帰る。お兄ちゃんはもう帰っているだろうか、今は早く会って話をしたかった。
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