『ふじみ様』
目覚まし時計のアラームで目を覚ました。一階に降りると、お兄ちゃんが朝の支度をしていた。
私が所属する園芸部の朝は早い。朝食を済ませてジャージで家を出る。園芸部は、学校の花壇の手入れや、菜園の管理の手伝いをする部活で、生徒からは『隠れ運動部』と呼ばれている。その名の通り、肉体労働が多く、私も以前、重たい肥料の袋を持って全身筋肉痛になった。
今日は花壇の水やり当番の日で、校門の前の花壇に水やりをしていた。8時を過ぎると、生徒が次々登校して来る。その様子は微笑ましく、水やりの時の楽しみでもあった。
一仕事終えた私は、制服に着替えて教室に向かった。すると、廊下で女子生徒の話し声が聞こえる。
「『ふじみ様』って知ってる?」
私はそれを初めて耳にした。もっと聞こうと意識を女子生徒の二人に向ける。
「さあ、知らないなあ」
「不死身の女の人なんだけどね、実は人食いの化物らしいよ」
『ふじみ様』、都市伝説の類いだろうか。人食いの化物とは信じ難いが、本当だろうか。
「最近、行方不明になった男子高校生が居るでしょ?実は『ふじみ様』に連れ去られたらしいよ」
話していた女子生徒は教室に入っていった。私も、自分の教室に入る。
教室に入ると、
「おはよう、璃羽ちゃん」
璃羽ちゃんは分厚い本を読んでいた。私の気配に気づくと、本を閉じて私の方を見た。
「
私は璃羽ちゃんの隣に立った。
「璃羽ちゃんは、『ふじみ様』って知ってる?」
「知らない」
璃羽ちゃんは、本を再び開いて読み始めた。
「璃羽ちゃんは都市伝説とか信じなさそうだもんね」
私は、自分の席に荷物を置いた。
すると、教室の扉が開いて、中から男子生徒が入ってきた。クラスメートの
「
「母さんが今日は同じ時間に家出るって言って、早く家を出たんだよ」
璃羽ちゃんは月島君の横に来た。
「そっか、遅刻しなくて良かったね」
璃羽ちゃんと月島君は、小学校の頃からずっと同じクラスだ。二人は腐れ縁だと言っていたけれど、仲は悪くない。
「そうそう、近くの高校で行方不明になった生徒が居るらしい。この調子だと部活無くなって集団下校になってもおかしくはないよな…」
月島君はそう言って自分の席に座った。他のクラスメートも次々に登校してきて、席はどんどん埋まっていく。
『ふじみ様』の噂は本当だろうか。月島君が嘘を付いているとは思えないから、行方不明になった生徒が居るというのは本当だろう。そうなると、『ふじみ様』のせいで、男子生徒は消えたのだろうか。それは分からない。
けれど、『ふじみ様』が本当に居るとするなら、男子高校生と歳が近いお兄ちゃんは、無事でいられるだろうか。わたしはどうしようもない不安を抱えながら、教室の時計を見ていた。
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