四人の子供とお父さん
@arz6sk
長男と父
◇鷹家長男・鷹 青雲(よう せいうん)
青天の霹靂、とはかつての人々も上手いことを言ったものだ。
今の私は、正しく雲一つない青空の下、突然雷に打たれたような衝撃を受けている。
いや、衝撃、驚きよりも、悲しみの方が強いかもしれない。
鷹家は、この国における祭事を司る一族である。
国の長である龍家、武の頂点たる獅家、霊術師を束ねる亀家と合わせて「四家」と呼ばれる国の要。
その鷹家の長男に生まれた私は、いずれ敬愛する父上の後を継ぎ、この国を支える礎の一つとなるべく、研鑽を続けてきた。
……それがまさか、何の意味も無い行いだったとは。
己が、父上の実子ではなかったとは……。
だが、私が悲しみを覚えているのは、父上の血を継いでいない事ではない。
例え父上の実子ではなかったとしても、私は父上から愛情をもって育てられたと胸を張って言える。
病弱が故に、実家へと戻り療養を続ける母上の分も、我々四人を育て上げてくれた父上の愛を疑う余地などあるわけが無い!
故に、例え私が養子であろうとも、真に父上の子である他の三人を支えるため、如何なる努力も厭うことは無い、と、心に決めていたのだが。
まさか、己の身の上故に、それすらも叶わないとは……。
これ程の悲しみは、そうは無いだろう。
あぁ、それでも、
貴方を父と呼び、貴方の三人の子を弟妹と心の中で呼ぶことだけは、どうか、許して欲しい。
それだけが、貴方の本当の息子になれなかった私の、唯一つの願いなのです。
◇鷹家当主・鷹 荒天(よう こうてん)
青雲、我が鷹家において最も賢く、広い視点で物事を視る事の出来る自慢の息子。
君が私の息子となった日は、雨の降る冬の日だった。
産まれて一年と経っていない君と共に、私は夜の街道で馬を自分の領地へ走らせていた。
君に雨粒の一つでも当てるものかと、毛布に包まれる君の体を片手でしっかりと抱えながら。
当時、君の家は混乱の只中にあった。
当主の突然の死による御家騒動。
言ってしまえばそれだけの事だが、当事者にとっては、地獄の顕現に他ならない。
強い権力を持つ家が故に、起こる事態は凄まじいものばかりだった。
跡目争いによる派閥の形成、その派閥同士による謀略合戦。
賄賂や讒言など可愛いもので、酷いものでは誘拐に洗脳、果ては暗殺までもが罷り通る事態となっていた。
そんな中、一族で最も幼い君が、鷹家の当主となったばかりの私に託されることになった。
君を託したのは、君の祖父。
亡くなった当主の父親。
即ち、一族の正統な後継者である君を守って欲しいと、先代の当主に頼まれたのだ。
断るという選択肢など無かった。
仮にあったとしても、私は君の祖父の頼みを受けただろう。
毒殺された君の乳母が、君のために織った毛布に包まれた君を見た時に、必ずや君を守り抜くと誓った。
必ずや君を立派な一人の男へと育てて見せると、
君の乳母であった、私の妹に誓ったのだ。
あれから、どれ程の時が経っただろうか。
我が鷹家や他の家の尽力もあり、君の家に巣くっていた膿は粗方取り除く事は出来たが、予想以上に長い時間が経ってしまった。
まさか、君が成人するまで時間が経ってしまうとは。
あの世の妹に怒られてしまうな。
《三家が揃っていながらなんたる体たらくか!》
きっと、角を生やしてそう怒鳴るだろう。
まぁ、それでも。
君を、貴方を、ようやく元の家へ、
本来の立場へと帰す事が叶いました。
鷹家が長男、鷹 青雲改め、
我が国の長たる龍家が当主。
龍 光鱗(りゅう こうりん)様。
御身の即位、鷹家が当主、鷹 荒天が祝いの儀にて、ここに成りまして御座います。
どうか、御身が末長く、この国を健やかに導かれます事を我ら三家は願い、この身を賭してお仕え致します。
……泣きそうな目で見るのは、やめて欲しいなぁ。
この後、言わなきゃならない事があるんだが、どうしたものか。
暇を頂戴したい。
なんて、言える雰囲気じゃないなぁ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます