第14話 絆情離脱

 その後に続けて、ダルトンが


「俺も……運営から話を聞いて、責任を問われるシステム課より、育成相手の方が、世話好きのマーカスには楽だろうと思ったんだ。元々分析を主とするプログラマーだったし……。」


 マーカスの異動について、ボビーとダルトンは相談をしていたようだった。ダルトンは話を続けた。


「それで彼を教育課に転属させようとしたんだけど……まさかヒューイとセットだったとはね」


 と言った。それを聞いたリカルドが、一言


「教育課か……じゃあヒューイも、再教育すればいいんじゃね?」


 と軽い口調でいった。


「再教育プログラムでも使ってさ」


 リカルドの言う『再教育プログラム』とは、通常の訓練プログラムに加え、再教育などを"担当者"を付けて行う、〈育成指導に特化したカリキュラム〉のことだった。


「じゃあ、育成指導の担当者はボビーってことで」


 リカルドの案に便乗し、デニスが提案した。


「はぁ?」


 唐突な展開に、思わずボビーが声を上げた。


「なるほど、お前がヒューイたちの教育係になればいいんだ。あいつに秩序を教えろよ。」


 二人の案にウィルも賛同した。最後にはダルトンまでもが、ボビーに向かって言った。


「ヒューイは問題を起こしたし、当分SISには戻れない。責任取るんだろう? ボビー。だったら再教育プログラムを実行するしかないよ。指導者はお前ってことで。」


 ダルトンの出した結論に、思わずボビーが


「ヒューイのこと……許すのか?」


 と尋ねた。


 すると、むっとした顔つきでダルトンが言った。


「許すわけないだろう! 犯罪者だぞ」


 とキッパリと否定してきた。


「来期、ここの担当が外れたら、一緒にバディを組もうって思ってた俺の相棒を、SISから追い出した罰だ」


 ダルトンはボビーの方を向いて言った。


「俺がここにいる間は、SISの敷居はまたがせないからな」


 それはまるで宣戦布告さながらであった。


「お前がしっかり教育しろ。納得できるような状態になったら 、ヒューイをSISに戻してやるよ」


 まくし立てるダルトンに、呆気にとられたボビーだったが


「わかったよ、ダルトン」


 と苦笑いを浮かべつつ、了承した。


 ◆


 その日の午後、ダルトンに呼び出されたヒューイは、ダルトン室長室に姿をあらわしていた。


「ヒューイ、処分が出た」


 室長のダルトンがヒューイにそう告げた。


「SIS退去と教育課への異動だ」


「……はい。ダルトン室長」


 あれ以来、ヒューイはまるで別人のように口を閉ざしていた。

 そんな彼などお構いなしに、ダルトンは淡々と今後の流れを説明した。


 結局、ヒューイはマーカスと共に、教育課へ転属となったのだ。そして


「―― 以上だ」


 と話を終わらせた。だがヒューイは、その場を動こうとはしなかった。


「どうした? さがってもいいぞ」


 ダルトンがうながすと、ヒューイはその重い口を開いた。


「ダルトン……俺……マーカスと一緒には行きたくないです」


『なにがあっても二人一緒』と言っていたヒューイの、思いもよらない言葉だった。

 思わずダルトンはヒューイの顔を凝視した。

 ヒューイは続けた。


「あいつを……俺から外してください」


「お前は、その為に改ざんしたんじゃないのか。」


「俺……なにも考えてなかった。誰が俺に、どう関わってきてるかとか……」


 あの件以来、ヒューイが人を避けていることは、マーカスから聞いて知っていた。

 それでも、そのマーカス迄も避けようとするヒューイの言葉は予想外だった。

 ヒューイは続けて言った。


「いままで俺、利用される方だったから、どうでもいいやって思ってて……」


 そう言うとヒューイは、ダルトンを見たまま自嘲した。


「だけど……それじゃだめだったんだ」


 ダルトンは黙って彼の話を聞いていた。


「マーカスが……あいつ……俺のせいで、友達をなくしたんです」


 ヒューイは言葉を選ぶように話し続けた。


「ボビーもここに居られなくなった。みんな、俺が勝手なことをしたから……」


 ヒューイはダルトンと目を合わせて言った。


「これ以上、誰かを巻き込む訳には行かないんです。俺、これ以上後悔したくない」


「自覚はあるんだな。だから、マーカスと別れて、独りになるというのか?」


 ダルトンがヒューイに念をおすように聞いた。ヒューイは答えた。


「巻き込むくらいなら、俺は独りでいい」


 そう言ったときだった。


「ふざけるな。ヒューイ」


 ダルトンの低く重い声が響いた。



 ----

(本文ここまで)


【あとがき】

 ・絆情離脱 -ばんじょうりだつ-

 深く結びついていた感「情」的な「絆」からの「離脱」を表した回となります。平たくいうと世捨て人の覚悟を表した回です。たまに(?)おもいますよねぇ。全てに縁を切りたいって…。

 ・徒雲の回帰線 -あだぐものかいきせん-


【予告】

 ・徒雲の回帰線 -あだぐものかいきせん-

 ヒューイの迷える決断は何処に向かうのかを書きます。

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