第4話 無垢なる罪
システム開発分室の作業フロア。
そこにいるヒューイに向けて声をかけた。
「人事異動データの改ざんがあった。お前がやったんだな、ヒューイ」
室長のダルトンが尋ねると、まわりは一瞬にしてざわついた。PCから顔を上げたヒューイは涼しい顔をして
「そうだよ」
とあっさりと事実を認めた。
「マーカスの異動予定が消えていた。異論があるなら、口で言えば済むことじゃないのか」
今度は班長であるボビーが問い詰める。
その問いに、ムッとしたヒューイは、
「俺に知らせずに、なにが異論だよ。
騒ぎを聞きつけ集まる人々をよそ目に、
ヒューイは
「見え見えなんだよ。〈約束〉を
ダルトンは、ヒューイの〈約束〉の意味が理解できず、尋ね返した。
「なんのことだ?」
だが、その言葉が彼を余計に苛立たせる結果となった。ヒューイはさらに続けた。
「マーカスだけを教育課に組分けしたのはあんたたちか? 俺は〈マーカスと一緒〉だって条件でここにきたんだ! 絶対にマーカスは外させない。 俺、ずっとあいつと一緒だったんだから!」
その悪びれる様子も見せない彼に、 ダルトンが
「だから、
とたずねた。
この室長の質問に、周りのメンバーたちはぎょっとなった。 「改ざん」「SIS」それだけで充分、罪に問えるからだ。
「SISのサーバーにはアクセスしてない。必要ないから」
ヒューイはさらりと言った。
「俺が入ったのは分室のメインサーバーだ。報告のデータをひとつ消すだけだし。ほかをさわると影響も心配だから。それに、分室データの保管はここだから、書きかえるならこっちだけでいい。」
「じゃあ、分室サーバーを狙ったってことか」
ダルトンが念を押すとヒューイは頷いた。
「SISは侵入事態が無理だし、アラートさえ飛べば……」
「ヒューイ!」
ボビーの怒鳴り声と共に、“バシッ!”と激しい音がフロアに響いた。
「!!」
次の瞬間には、ヒューイの頬に熱い痛みが走り、同時に、弾かれたように、彼の体は椅子から転げ落ちた。
「ボビー! よさないか!」
ダルトンがとめに入った。
「お前……なにやったのか、わかってないのか!?」
ヒューイは無言のまま体勢を立て直した。
だが、その目はいつになく、ぎらついていた。
「このくらいやらないと、俺がどれくらい
ヒューイは低い声で訴えて来た。
騒ぎを聞いて、駆け付けてきた班長のデニスが、その尋常でない様子に気づき、
「誰か、ケント。お前マーカス呼んでこい!」
と指示を出した。ケントは言われるがまま、すぐにマーカスのもとへと向かった。
「サーバーに踏み込むのは、規律違反になることくらい、わかってるんだろう? ヒューイ」
ダルトンが念を押した。しかし、その問いに答えることもなくヒューイは立ち上がり、話を続けた。
「あんたらこそ……なにがわかんだよ!? 俺たちがどうやって生きてきたか……マーカスが……!」
「ヒューイ!」
遠くからマーカスの声が響いた。
ヒューイはその声を合図に言葉を飲み込んだ。
その顔色は、少し血の気が引いたようにも見えた。
少し青ざめたヒューイを見たデニスが、
「ヒューイ。いまマーカスがくるから。ここは安全だ。俺もいる。」
と、彼の傍まで来て、小声で
「うん……大丈夫……大丈夫だ、大丈夫……」
ヒューイは、なにか呪文のように口の中で唱えていた。
「デニス」
ようやく駆けつけたマーカスが、ヒューイの傍にいたデニスに気づいた。
デニスはマーカスの肩を軽く叩き
「まだ、大丈夫だぜ」
と短く告げた。
今度はマーカスがヒューイの肩に軽く触れた。そして
「大丈夫だよ。僕はここにいるから」
と
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(本文ここまで)
【あとがき】
・無垢なる罪 -むくなるつみ-
「
【予告】
・無明の咎 -むみょうのとが-
彼が犯した罪の追求をします。
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