第3話 空鳴の時刻
「よぉディック。久しぶり」
ヒューイが振り返って、後ろに立っているディックに声をかけた。
そのヒューイを見下ろしてディックは言った。
「……やっぱヒューイか。お前らいつも一緒だから、そうかなとは思ったんだが」
ディックはそう言いながら、ヒューイが引いてくれた彼の隣の椅子に座った。
「お前とは距離をとれって言われてる」
そうディックが言うとヒューイは
「なんで?」
と理由が分からずに聞き返した。
「お前って、PCの知識はあっても、なんの常識もないだろう。だいたいフロアのPCにいたずらソフトを仕込むとか、ありえない」
そう言いながら、ディックはパンを口に頬張った。
「やって良いことと悪いことの区別もつかないのかよ?」
あきれ気味に言ったディックにヒューイは
「なんで? お前のに仕掛けたって訳じゃないだろ? データが壊れた訳でもないし、迷惑かけてないし」
と悪びれることもなく答えた。
ディックは横目で、きょとんとした顔をしているヒューイを見て、通じていないことを悟り、ため息をついた。
「そんなんだから、フロア中で噂されてんだぞ」
「なんて?」
「情報の異端者」
ディックがそう言うと、いままで二人の成り行きを見ていたマーカスが口を挟んだ。
「何? それ?」
「常識から外れた考えの持ち主。平たく言えば、なにするかわかんない」
そう言って、持っていたスプーンをヒューイの鼻先で軽く上下に振りながら
「優秀なトラブルメーカー。ってな。触らぬ神に祟りなし。ほかにもいろいろ言われてるぜ」
と相変わらず無下のない言い方だった。
ディックの説明に少し心外そうな顔で、ヒューイは尋ねた。
「お前もそう思ってんのかよ」
その問いにディックが
「だったら一緒にメシなんか食わねぇよ」
と答えた。しばらくはそんな軽口を交わしながら、やがて食事がおわり、それぞれに自分の班に戻ることになった。
別れ
「マーカス。俺がなんとかするから」
とだけ告げた。
◆
「 ボビー、アラートだ」
翌日、分室へやってきたボビーに、室長のダルトンが速攻で異常を告げた。
「なに?」
「信じられんだろうが、お前の研修チームのPCからだ。確認をたのむ」
二人はボビーの班長室に入り、立入禁止のロックを掛けた。その後にPCを立ち上げる。
しばらく画面を確認していたボビーが、
「……改ざんされてる」
とポツリと呟いた。
「嘘だろう?」
俄には信じられないといった声で、ダルトンが聞き返してきた。
そのハッキング操作は、教務システムに〈なりすまし〉てログインをしたあとに在籍情報を一点だけ書き換えると言う
「……マーカスの転属予定が消えてる」
ボビーは続けて言った。
「消されたのはマーカスの転属予定の一件のみ……? じゃあ、やったのはヒューイか?」
ダルトンが
「ログの書き換えまでできる奴といえば、そういないだろう」
口惜しそうにボビーが答えた。
「このレコード……参照先まで完璧に
「それなのにアラートが飛んだのか?」
不思議に思ったダルトンが聞いてきた。だがこのミスは、不思議と言うよりも不自然だった。
「ああ、ここまで完璧にリカバリして通知だけが飛んでいた。つまりこれは “わざと飛ばさせた” ってことだ」
完璧な処理の一点のミスが逆に怪しかった。 だからこそボビーはその原因を探し続けた。そして……
「時間だ……削除操作のタイムスタンプは、定時バックアップの直後を選んで行われている。しかも通知メールが発信される処理の直前だ」
言われてダルトンもそのバックアップログを覗きこんだ。
「わざと通知メールの発信を狙ったってことか? 逆に数秒ずれていれば、なにも残らなかった……」
「あの野郎……」
そして二人は、すぐさまヒューイのもとへと向かった。
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(本文ここまで)
【あとがき】
・空鳴の時刻 -あくなりのとき-
専門用語多くてすみません。噛み砕いたつもりですが…雰囲気を出す為に入れてあります。
【予告】
・無垢なる罪 -むくなるつみ-
空しく鳴り響いたアラートが何だったのかを書いてます。
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