10話 初Sランクダンジョン
「いっちばーん!!」
ダイバーの1人が路地へ入る、その瞬間陽気な声が途絶えた。
ダイバー達はただ敵に突っ込む馬鹿じゃない、危険察知能力も長けているのだ、そういった物を兼ね備え無かったただの馬鹿から、ボスの片手に掲げられる生首となるのだ。
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
俺含め全員その場から距離を取る、現れたのは灰色の包帯でぐるぐる巻きにされた体、それを覆う黒いマント、図体と剣もスキャンされた通りの大きさだ。
「あいつ、レンガのボス位には強いか?」
「それくらいかな、もしかしたらLランクかも」
「あのさ、一応聞くけどさっき聞いた軍の報告の奴もそうなのか?」
「そうだけどまあなんとかなるっしょ」
キスカはそう言うものの俺達と同じように距離を取った、心無しか恐れているように聞こえる。
“倒せるのか、ここの人達で”
“今回は逃げた方がいいんじゃ…”
コメント欄もやばそうな気配を感じている、だがここを引けば町から死人が出る、その中にも今この配信を見ている人がいるのかもしれない。
「やるしかねえだろ、なあお前ら!」
「「「「「「「「おうよ!」」」」」」」」
全員弓に銃の飛び道具を向け発射する、だが全て骸骨が盾になり防がれる。
「クソ、まだ雑魚が隠れていやがったのか」
ボスは炎をばら撒き視界を奪い、かつ目にも止まらぬ速度で剣をぶん回す物だから中々踏み込めない、それどころかどんどん怪我人と犠牲者が増えていく。
骨の大群に皮膚を開かれ内臓を掻き出されたり剣で真っ二つにされ命を失った者、腕や足を切られ泣き叫ぶ者。
唯一俺だけが弾かれたものの奴にまで剣が届いた、これは紛れも無く
“1000000¥ 絶望的状況だ”
「だがそれが面白い!ひひっ」
片手の銃で骨の壁を撃ちながら進む、ボスは切りつけようとするが炎魔法を地面に勢いよく放ち一気に上昇し避けつつも手薄になった背後を取り一太刀浴びせる、エレナの波動を参考に新しい戦いを覚えたのだ。
「ギエエエエエエエエ!!!!」
ボスが炎を放射する、俺と同じ炎、どちらが強いか見ものだ、こちらも炎を出し拮抗する、少しずつ近づき剣の間合いに入ればボスはその巨大な黒剣を振りかざす。
「やっべ」
何とか剣で受け止めるも奴の力が強すぎる、どんどん刃を押し込まれ、首元に押し寄せてくる。
「武雄っち大丈夫!?」
雑魚骸骨を片付けたがキスカがボスの背に銃を打つがビクともしない。
「だいじょばねぇ!」
「離れて!」
「おう!」
俺は炎を曲げ剣先から逃げ、キスカは四角い何かをボスの背中に投げ付けると引っ付き猫型カメラが高速で上へ回り込む、するとキスカは足裏のスラスターで空を飛びヘルメットを外しウィンクダブルピースを決める。
その瞬間ボスのいた場所から無数のつららが飛び出し氷山が生まれた。
「流石は広報担当、敵を倒す時もばえるな」
氷を爆発を背景に美女がカメラ目線で猫のポーズを取り片足を上げている、後でショートに編集してアップするのか、こりゃぜってーバズるだろうな。
骸骨はその場で動きを止めカタカタと揺れ始める、ボスがやられた事によって消えるタイプか、次第に骸骨が地面に埋まっていく。
「やったのか?」
“かわいい、この娘のチャンネル行こ”
おい。
“こいつボスを倒したぞ”
”7024¥ Sランク級ボス討伐おめでとう”
「いや俺じゃねえよ!」
静けさを取り戻した街、だが負傷を負ったダイバーや兵士達は処置や搬送に大忙しだ。
「痛えよ…クソ、まじかよ」
倒れている人を見つける、足首から……では無く太ももから血を流している。
「大丈夫ですか!」
肘を掴みホバーボードに乗せ救護班の方へバトンタッチした。
「あんちゃん助かったよ、ハァ…」
「どういたしまして」
再生スキルの無いダイバーは傷を負うと基本的に元に戻らない、だからちらほら義手や義足を身に付けている者がいる、まあ補助だけでなく武器としての機能もあるが。
煤まみれのボスは煙を巻き、焼けた包帯のみが残った。
「さてと、次行くか」
――
「諸藤くん知らない?」
「どうだっていい」
「そう……」
さっきのおなら野郎が搬送された場所、ボスが槍を構える前エレナとツルギは呑気に話している。
骸骨達が槍を投擲する、それを全て大剣が切り捨て篭手の波動で吹き飛ばす。
「ほい」
エレナが距離を詰めボスの腹をぶん殴り真上に打ち上げ、ツルギが建物の壁を蹴り上へ飛び切り刻んだ。
「終わった」
落ちてくるコアを掴み剣を背中に納める。
「ありがとうツルギちゃん、助かったよ」
「お安い御用、それじゃサラに呼ばれたからお先」
地面を蹴るとどこかへまた飛んで行った、余りの速度に突風が生まれ、エレナの髪が掻き乱されぼっさぼさにされる。
「お、エレナいたー」
「あっ諸藤くん」
連絡を取って合流する俺にエレナはクシで髪をとかしながら振り向く。
「軍は入口を制圧したようだ、サポセンが契約とかするまで入れないと思うが一応どんな見た目か見てみるか」
「うん」
――
ダンジョン付近、兵士達が紫色に光る巨大な錫杖を両手に忙しなく周りの地面に突き刺している、相当重いのか兵士がヘルメットを解除し額を拭い上を見ると、四角いシールドが覆って行った。
「これでモンスターは外に出られないね」
「君達!絶対にこのシールドに近づくなよ!Sランク程度のモンスターなら軽々消し飛ぶぞ!もちろんダイバーでも同じだ、プリズムブレイクの子たちにも言ったけど」
「おいおいめっちゃ物騒だな、ダンジョンを見るだけならいいか?」
「いいけど気をつけろよ」
俺はホバーボードで上に飛ぶ、すると
「ほう…」
丸い大きな石造りの塔が出迎えた、それを囲う壁に東西南北にそれぞれ門が開いている、近くでスーツ姿の男がペコペコしながら兵士と話している、既にサポセンの人が契約をしているのだろう。
「早速このダンジョンを攻略する準備をするか!」
「うん!」
――
「今回のダンジョンはSランクです、制圧の際に想定以上の犠牲者が出たという事でダイバーで編隊を組むことにしました」
俺達はサポセンへ来て開けたロビーに出る、ケイラの前に数人のAランクダイバー達が集まっていた、どれも強そうなごつい武具を持っている。
「おい、パーティなんて初めてなんだけど」
サラとツルギの2人と一緒に居たが今回は上手くやれるだろうか、少し不安だ。
「私もSランクダンジョンは潜った事ないから初めてかな、あっ!ホタルちゃん!」
エレナが金髪ショートヘアの女の子に声を掛ける、内気な性格なのか赤い目をぱちくりさせている。
「あれ、久しぶりだね?」
街灯のような強く青い光を照らす耳飾りが特徴的だ、周りに何か……虫が飛んでいる?
「あっどうも俺諸藤 武雄、この子の編集者兼ダイバーやってます」
「ホタル・ファイアフライです、えっと…エレナの彼氏さん?」
「ちょっ違うって!ただのチャンネルの仲間だから!」
俺とホタルが握手する間エレナは吹き出し早口で喋り出す。
「そういえばその虫、蛍?」
「私?バグズソルジャーと言ってこの子達が戦ってくれるんです、私は雷耐性Aと身体強化Cしかありませんから…」
「よく言うぜ!Sランクの癖に!」「そうだ!お前の虫から横取りするなって躾とけ!」
周りのダイバーの飛び交う言葉にホタルは恥ずかしそうに後頭部に手を当てる。
「おい君達落ち着なよ」
周りのAランク達が騒ぐ黄金に輝くスパルタの兵士みてえな鎧を着た男が現れる。
「あっあんたは!」
彼はピカキンTVというチャンネルを運営していて登録者数は3億人を超えていてしかもLランクダイバーでダンジョン総攻略数は数百にも登ると言われている凄腕ダイバーなのだ。
「いやー久しぶりにSランクダンジョンが緊急で現れて面白い事が起きてるもんだからおじさん張り切っちゃおうと思ってさ、しかも再生数も稼げるだろうし」
「ピカキンさんが直々に戦ってくれるなんて勝ち確だろ!」
この人はフロンティアの高難易度ダンジョンをクリアする動画を投稿するバケモンで他にもダイバーのなり方など大まかなダンジョンの攻略解説動画なども上げている超有名人だから、Aランクダイバー達にとっては胸熱展開なのだ。
「待ってえええ!」
焦る声と共に入口から現れたのは買い物カート、の上で逆立ちをしながらこちらに滑るサンダルにTシャツ姿の男。
「いってて」
案の定ずっこけて何事も無かった様に立ち上がり前に立った瞬間、全員が彼に指を差した。
「うしらーめんカイ!!!??」
うしらーめんカイ、前にレンガでボスドラゴンを吹き飛ばしたあのイカレ爆弾野郎だ、どうやら登録者数1000万人の有名チャンネルらしく、主にダンジョンで誰もやった事ないような奇想天外な実験をする動画を投稿している、ぷよぷよボールでダンジョンとモンスターを圧殺したり溶岩や水銀を流し込んだりしていた、少し前に火薬の量をミスってダンジョンを跡形もなく爆破し大炎上したらしい。
「おいあんた!俺のTシャツ代返せ!」
「え?なんの事?」
俺が前に出て大声を上げるもカイはキョトンとした顔で首を傾げる、どうやら本当に覚えてないみたいだ。
「君は?」
ピカキンも驚いた顔で前に出る。
「諸藤 武雄です」
「あ!君のチャンネル見た事あるよ、エレナちゃんとコラボしてるんだよね?」
エレナは動くこと無くなんかそっぽ向いてる。
「一緒に活動してます、それより俺前のダイブで彼に顔中モンスターの肉まみれにされたんですよ」
「なるほどね、今度はダンジョン粉砕しないでね?」
「アイアイサー」
この爆弾男、絶対反省してないだろ。
「それじゃあこれで全員って事で行こうか、みんな準備はいいかい?」
「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」
俺達は大声と拳を上げるとピカキンの周りに金ピカリンのカメラが飛び腕のテレポーターを起動させ全員光に包まれた。
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