9話 もじもじくん

「それで、これは?」


目の前に現れたのが緑色の細長い腕を綺麗に盛られたどんぶりだ、俺はラーメンを頼んだつもりなんだが。


「君があのピラミッドを攻略したんだろ?オマケしといたぜ!」


てことはあのゴブリンの腕じゃねえか。


「え?どもっす」


太ったおっさん店主が俺を見てはニコニコしながら気前良く話しかけてくる。


エレナとツルギのは1本だけだが、俺のだけ6本近く敷き詰められている、恐る恐る指を1本齧ってみる。


「美味っ」


味もよく染みていて、肉も骨まで柔らかくなるくらい煮込まれている、見た目がキモイことを除けば最高の食材ではないか。


「これ油が少なくて食べやすい」


ツルギはもう腕を全部食ってスープを飲んでいる。


「そういえばサラは?ダンジョン?」


「かな、サラはタコスしか食べないから、私が切り刻んだモンスターの肉を焼いて持参したトルティーヤと野菜を挟んで食べてる、完全食なんだってさ」


「ははは」


忘れていたがサラもだいぶヤバいやつだった。


「ここはモンスターを食材にする店でこの間のダンジョン攻略で店主さんが買い取ったんだよね、ドラゴンの肉でも料理を作ってるよ」


エレナはすごい早口で説明しているようで彼女は食べるのが好きなようだ。


「うちじゃ冷凍庫にスポーンコアを置いてるから新鮮だよ!」


「お金持ちだよね」


「は?どゆこと?」


「店主さんも元ランカーダイバーでね、地下の大型冷凍庫にトラップを設置してスポーンした瞬間に糸で体がバラバラになるから外に出る事は無いだろうね」


スポーンコアは基本的にスポーンさせるのを止める事が出来ない、そのためモンスターを倒せる資格を持つ者である事は勿論、スポーンしたモンスターを四六時中監視や管理し続ける責任があるのだ、もしもモンスターが外へ出てきて街に被害が出たら?考えたくも無いよ。


「はえ〜ぶっとんでますね」


「いやはやそれ程でも!」


店主は手を後ろに回しガハハガハハと笑い飛ばす、まじでこの世界やべえ奴しかいねえな。


「そういえばエレナちゃんお父さん元気?」


「ぁ「捕まりました…」


俺が説明しようとするがエレナが先に答える、俯き、箸が止まった。


ツルギはその様子を無表情で見つめる。


「店長替え玉〜」


「ツルギお前空気読めよ……」


――


現在モロエレチャンネルは登録者数500人程、再生数も1万行くのも現れエレナの登場でだいぶ伸びた、元々女ダイバーが少ないせいもあるがやはり美少女が物を言うのか、ちくしょう。


だがどんなチャンネルも伸び続ける訳では無いらしい、この間Aランクの木造の山賊が住んでそうなアジトが山に張り巡らされたようなダンジョンでひたすら武器を持った茶色いムキムキオークの大群をツルギが切り刻んでる動画は5万再生しか行っていなかった、いつもは100万再生くらいはいってたくせに。


ツルギがただ無双しているだけのせいなのかは分からないが視聴者に飽きられてしまったようだ、殺し合いである事に変わりねえのに、随分と目の肥えたこった。


キスカのチャンネルもあるらしいが軍の広報用のダンジョン攻略動画(主にキスカの自撮りが大半)が目的のはずなのだが、勝手に投稿したネイルアートの説明動画で500万再生行っていたようでメモリアルはダンジョンでの戦いが全てでは無いみたいだ。


「あっ武雄っち」


噂をすれば空飛ぶオープン卵に乗ったキスカが変なEDMの音が大きくなると同時俺の横に現れ手を振った、隣にもクウコがヘルメットを装着したままお行儀よく座っている。


「今日もパトロールかよ」


「そ、めんどいよ〜」


上半身を外に投げ出しへたり込む、アーマーでつぶれてたせいでよく見ていなかったが意外とでかいんだな。


「お気楽そうに見えるけど、案外大変そうだな」


「全然お気楽じゃないよ〜」


「分かったよ、俺達ダイバーも大変だしお互いがんばろう!」


キスカがガッツポーズする後ろ、骸骨がこちらに走ってくるのが見えた。


「武雄っち?」「危な


骸骨が掌を向けると炎が飛び出した、咄嗟の判断で俺はキスカの背に手を当て車から押し出す。


車は炎の勢いで歩道まで吹き飛ばされる、クウコは座席から飛び退避したので俺が手を出すまでもないだろう。


「良かった、ウェルカムバリアはもうこんにちわしてたみたい」


車は建物へ叩きつけられたが、緑色に輝く結界で止まった、モンスターが町に入り込むことで自動でこの保護バリアが展開するのだ、だがこの段階にあるという事はDランクのモンスター程度なら粉砕出来るという自動迎撃タレットやドローンが突破された事になる。


「皆逃げてー!まじやばみだからー!」


キスカが市民に避難を促す、ヘルメットを装着する事でスピーカーも使えるみたいだ。


骸骨のような奴が左手に剣を持ち、右手で逃げる逃げ惑う市民に火を吹いている、俺は刀を抜き骨共を斬りつける。


「なんだこいつら」


今まで鱗だろうと皮だろうが切った物は切った場所へ分断されたはず、この骨は1部分と言うより関節ごとしか分解されていない。


「不死身持ちか、めんどっち〜」


散らばった骨と骨がくっつき形を取り戻していく。


「不死身?」


「再生の究極系、条件をクリアしない限り無限に蘇生し続ける」


「分霊箱をぶっ壊すまでか」


クウコは両腕を振り、拳から紫色に輝く鉤爪を三本ずつ伸ばす。


「こちら第1警備隊、キセキ市にて推定Aランクダンジョン出現、至急コリックポイントを設定し応援部隊のテレポートを要請する」


クウコが無線を掛け合い無数の兵士達が現れ骨共に武器を構える。


「キスカちゃんコリックポイントって?」


「軍用語なんだけどダンジョン付近にテレポートする地点の事ね、現れてすぐの制圧してないダンジョンはモンスターがうようよ出てくるから秒で駆けつけないとリームーよ、まあハヤっちが居るからだいじょぶっしょ」


「第1機動隊隊長ハヤセ・ライトメア少佐よ」


「りょりょー」


「りょは1回」


クウコが高速にモンスターをばらばらにしながら訂正し、キスカも頭蓋骨を次々撃ち当てながら返す。


制圧って多分モンスターを倒してピラミッドみたいにバリケードや扉を付けてダンジョンの登録にランクの設定する事までだろう、街に被害が及ぶ可能性があるからサポセンや会社に売ったりするまで必ず全てのダンジョンにやっているのだ。


しっかし災害と言えるような存在に対して赤子の夜泣き程度の表現をするとはイバラ軍の心意気は改めて凄いものだ。


「Aランクだろ?んじゃそんなやばくねえって」


Aランクなら前にもクリアした、大丈夫だ。


「そゆこと、秒で終わらせてタピろ?」


「だな」


俺は隊列を組み銃を構える兵士の前に立ち武器を構える。


――


「こちら屁こきチャンネルです!今急遽動画を回してまして、町の人は逃げたみたいなのでおならをぶちかまして行こうと参ります!」


“急上昇に出てたから見たけどこいつきもすぎwww”


この変わった戦闘スタイルで登録者1万人稼いでいる小太りのおっさんは迫り来る骸骨に向かって町のど真ん中でパンツを下ろす、すると。


“うわあくさそう”


“このおならでモンスターを毒殺するらしい、でもおなら臭くなるから素材の価値を下げているらしい”


“臭”


骸骨に向かって黄色いガスが噴射される、だが骸骨はビクともせずそのまま持っていた槍を尻の穴にぶっ刺され更に雷撃をぶち込まれる。


「いああああああああああああああ!!!!!あはああああああああん!!!!!!!!!」


“課金勢トラウマ確定だろ”


“ポカポカキット行き決定”


メモリアルでは目も当てられない程凄惨な事故が起こる時がある、この様な映像は何者かに買い取られポカポカキットというグロサイトに投稿されるのだ、今日もまた1つ蜂型のカメラがその様子を終始捉えていた。


――


『コリックポイント周辺にて重症のBランクダイバーを1人保護しました、こちらも依然モンスターを制圧出来ておりません』


無線が耳に届く、雑魚でもBランクを倒す強さ、もしかして現れたダンジョンはSランクレベルなのではないか?


「キスカ、何かスキャンしたらしい」


クウコが画面を共有しキスカが「どれどれ」と覗き込む。


「なんか建物の裏におっきいもじもじくんがいるね」


そこに佇むのは明らかに骸骨より一回りも大きなモンスター、恐らくこいつがボスだろう。


「モンスターの大群から一定の距離を保ってる、多分ボスの討伐が条件だと思う」


「よし、やってやろうぜ!」


「今回のボスは歯ごたえあるだろうなぁ!」「ぶっ潰してやるから逃げんじゃねえぞ!」


血気盛んなダイバー達は兵士の射線をくぐり抜けながら一目散にボスへと飛び込んだ。

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