第13話 俺が選ばなきゃ全部壊れる。それでも——
陽乃の言葉が胸に残っていた。
音楽室で交わした静かな対話。
彼女は何も強要せず、何も期待せず、それでも俺の“決断”を見ていた気がする。
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夜風が肌を撫でる。
俺はベランダの手すりにもたれながら、空を見上げていた。
眠れそうになかった。頭の中が静かすぎてうるさかった。
(命令を使わずに、誰かと向き合う……それだけのことが、こんなに難しいなんてな)
自分の力を封じたら何も残らないんじゃないか。
でも使い続ければきっと何かが壊れる。
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「……バカみたいだな、俺」
誰に聞かせるでもなく、呟いたそのとき——
「ほんと、バカみたい」
思わぬ方向から返事が返ってきた。
驚いて隣を向くとベランダの柵の向こう側から、ひょっこりと顔を覗かせている少女がいた。
「……陽乃?」
「うん。こんばんは、綾城くん」
彼女はまるで今日一日の流れがすべて当然だったかのように微笑んだ。
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「……なんで、そこに……?」
「言ってなかったっけ?私、隣の部屋に住んでるの」
「は?」
「まあ、引っ越してきたのは最近だけどね。
でもずっと声とか音とか、聞こえてたんだよ。薄く、壁越しに。
……今日やっと直接話せたって感じ」
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俺は何も言えなかった。
偶然か?
それとも……全部、最初から?
そんな疑念すら彼女の笑顔はすべて包み込む。
「変な子って思った?でも話しかけたのは初めてだからセーフでしょ?」
陽乃はそう言って小さく肩をすくめた。
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夜風がまた吹いた。
彼女の髪が少し揺れて、
それを見つめながら俺は思った。
(次、誰かと向き合うとき……俺はどうする?)
今度こそ“自分の言葉”で決めなきゃいけない。
そう思いながら俺は隣のベランダで笑っている少女から視線を外さなかった。
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