第28話 第十六章:“家族”の境界線(後編)
結婚式当日。
美咲と優は、少しフォーマルな装いで会場へ向かった。
親戚たちの視線、気配、言葉の間に漂う“察する空気”。
美咲はそれを、久しぶりに肌で感じた。
「隣の方は……お友達?」
そう聞かれたとき、美咲は一瞬、呼吸を飲んだ。
でも、優が先にやわらかく笑って答えた。
「いえ、大切な“パートナー”です」
その一言に、周囲が少しだけざわめいた。
けれど、美咲の手を握る優の手は、微動だにしなかった。
その夜。
帰りの電車のなか、美咲は小さく呟いた。
「今日、あなたが“パートナー”って言ってくれて、うれしかった。
言葉って怖いけど、時々、救いにもなるんだね」
「うん。名前がない関係だって、名乗っていいんだよ。
私たちが選んで、育ててきたものなんだから」
ふたりの間に流れる時間は、言葉を超えて“生きた実感”になっていた。
第十七章予告:「選んだ未来を語る日」
“ふたりの関係”が、少しずつ周囲に理解されていく一方で、
職場でのカミングアウト、人生設計、両親との再対話といった、
さらに踏み込んだ選択がふたりに求められていく。
「自分たちの未来を、どう語っていくのか」――
その答えを見つける時間が、やってくる。
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