第27話 第十六章:“家族”の境界線(前編)

夏の入り口。

美咲は数年ぶりに、実家からの連絡を受けた。

母からだった。電話の内容は、従姉の結婚式への出席依頼。


「……パートナーの方も、よければご一緒にどう?」


受話器の向こうの母の声は、どこか探るようで、遠慮がちだった。

“パートナー”――その言い方が、妙に胸に引っかかる。


美咲は返事を保留したまま、通話を切った。


その夜、リビングで美咲は優に打ち明ける。


「行こうか迷ってる。……なんか、“招待”じゃなくて、“容認”って感じがして」


「でも、美咲が行きたいなら、一緒に行くよ。

どんな関係って聞かれたら、“美咲の大事な人”って答えるだけ」


優のまっすぐな声に、美咲は心がほどけるのを感じた。


「ありがとう。……でも、やっぱりちょっと怖いな。

“家族”って言葉の外に、私たちはずっといる気がしてたから」




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