落城と対価


視界が白一色に染まった。

上空から迫るレオニスは、もはや人間ではない。一筋の雷光だ。

俺の本能が、かつてない音量で警鐘を鳴らしている。

『死ぬ』『砕ける』『消滅する』。

あれは、俺の《硬質化》や《竜鱗装甲》で防げる次元の攻撃ではない。概念ごと俺を両断し、消し飛ばすつもりだ。


避けられない。逃げられない。

なら——「支払う」しかない。


俺は刹那の思考で、亜空間(胃袋)の中にある「在庫」を全て検索した。

ギルドから奪った数千の武具。金貨の山。宝石。伝説級の魔道具。

俺がこれまでのミミック生で積み上げてきた、全財産。


(持ってけドロボウッ!!)


俺は蓋を限界まで開き、亜空間のゲートを反転させた。

攻撃(射出)ではない。防御壁としての「物量放出」だ。


ドバババババババッ!!!!


俺の頭上に、即席の山が生まれた。

ミスリルの鎧、オリハルコンの盾、魔法障壁のスクロール、ドラゴンの頭蓋骨……。

それらが何重にも重なり、俺とレオニスの間に物理的な障壁を作る。


だが、剣聖の奥義天覇・雷光断は無慈悲だった。


ギャリンッ! パリーンッ! ズガンッ!


国宝級の盾がバターのように切れ、魔法のスクロールが紙屑として散る。

俺の愛すべき財宝たちが、次々と光の粒子に変わっていく。

身を切られるような喪失感。だが、その一瞬一瞬の抵抗が、雷光の威力をわずかずつだが殺(そ)いでいく。


そして——刃が俺の本体(黒檀の箱)に届いた。


『ぐ、オオオオオオッ!?』


激痛。

俺の外殻、レベルアップで城壁よりも硬くなっていたボディが、真っ二つに裂かれる感覚。

魔力で形成した影の脚が霧散し、アビス・イーターとしての巨体が崩壊する。


だが、俺は「核(コア)」だけは守り抜いた。

切断される寸前、俺は自身の中身をパージし、爆風の反動を利用して、その身を後方へと弾き飛ばしたのだ。


ズドォォォォンッ!!


城壁の上で大爆発が起こる。

俺の巨体だった残骸と、身代わりになった財宝の破片が、花火のように王都の空へ散らばった。


* * *


——ガシャン、ゴロン、ゴロン……。


静寂を取り戻した王城の中庭。

美しく手入れされた薔薇園の中に、黒焦げになった「小さな箱」が一つ、転がっていた。


「……ッ、い、てぇ……」


俺は蓋を数ミリだけ開け、生存を確認した。

HPは残り1。

巨体は失われ、貯め込んだアイテムの9割が消滅した。

アビス・イーターとしての威容も失い、ただの焦げた木箱に戻ってしまった。


「はは……やってくれるじゃねえか、英雄」


だが、俺は生きている。

そして見上げれば——そこは、王城の結界の内側。

目の前には、堅牢な扉で閉ざされた『王家宝物庫』の入口があった。


レオニスの一撃の衝撃を利用し、俺は壁を越え、結界をすり抜け(あるいは破壊された隙間から入り)、目的地へと「着弾」することに成功したのだ。


「勘定は合わせてもらうぞ」


俺は黒焦げの身体を引きずり、宝物庫の扉へと這い寄る。

失った財産は、ここで取り立てる。

王家の至宝。建国の聖剣。竜の心臓。

全部喰らって、あのクソ強い騎士に「お返し」をするまでは死ねない。


扉の鍵穴に、俺の身体から伸びた細い触手(解錠ツール)が侵入する。

カチャリ。

厳重なはずの王家の扉が、呆気なく開いた。


中から溢れ出すのは、ギルドの倉庫とは比較にならない、濃密で神々しい魔力の光。


『——いただきます』


王都の空では、レオニスが俺の残骸を見て勝利を確信している頃だろう。

だが、本当の悪夢は、この城の心臓部で密かに再生を始めようとしていた。


俺は残りの力を振り絞り、光の中へと飛び込んだ。

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