第9話 女神の占い

「うんうんなるほど。つまり私が初ちゅーを邪魔してしまったと、そういうわけですね。」


俺の目の前に座っている女神はまるで人ごとのようにそう言った。


「あのなぁ...」

文句の一つでも言ってやりたかったが、何を言っても彼女の心に響く気がしない。


「というか」

「今日はどうしてそんな服装なんだ?」

女神はこっちの世界の高校の制服を着ていた。


「ああ、これですか?そっちの世界の服なんですよね。」

「どうですか?かわいいですか??」


女神は立ち上がるとクルッと回って見せた。


「ああ、そうだなー。」


俺は軽く、冗談めかした風に答えたが、実際かなり可愛かった。

肩にそろえて綺麗に切られた黒髪は正に優等生というような感じで制服によく似合う。

前にここで会ったときはあっちの世界の服――ローブとマスクで体の大部分を覆った服だったのでちゃんと顔を見たのは初めてだが、女神というだけあってかなり整った顔立ちだった。


「実は私たち神はこの世界に実体がないんです。」

「だから、服装とかは見るひとに馴染みがあるものになるようになってるって感じです。」


「なるほど...」


よくわからないが、なんかすごそうだ。


「それで、あっちの世界で会ったこと教えてくださいよっ!」


たしかここに来るのは定期的にあっちの世界の存在である女神と話して

つながりを保ち、記憶を失わないようにする為だったか。


「たった一週間だったが、いろんなことがあったぞ」


俺は帰還直後にあったこと、古賀由衣の事、さっきまで起きていたことを女神に話した。

女神は一つ一つの話に笑ったり、驚いたり、とにかくリアクションが良かったからか話している方も楽しく話せた。


「へぇ...まさかこの世界を救ったあなたが、あっちの世界ではいじめられっ子だったなんて本当にびっくりです。」


「ああ。俺もはじめは驚いたよ。まさか、って感じだな。」

自嘲気味にいった。


「でも、だからこそ世界を救えたのかもしれませんね。」

「あの世界ではみんな病気は当たり前の存在で、それによって滅ぶとしても仕方ないと考えていました。それが理不尽なことであるなんて思いもせず。」

「別の世界で理不尽に耐え、抗ってきたあなただからこそ、救えたのです。」


そう口にする女神様の顔はとてもやさしかった。

普段少し抜けたところもあるように思えるが、こういう表情ができるのは流石女神様だな...


「それで、どうですか?あっちの世界には馴染めそうですか?」


「...どうだろうな。そうしたいとは思っているが、正直自信はない。」

「あの世界で生きていると"病気"とそれを持つ"自分自身"がいかに異質であるか嫌でも感じさせられるよ。」


「そうですか...」


女神様は俺が思っているよりも深刻に考えてしまったのか、少し考えこむようなそぶりを見せる。


「よければ、私が占いましょうか?」


「占い...ですか?」

少し訝しがるような顔をしてしまった。


「あ、今怪しいって思いましたね!?」

「確かに占い師なんて大半がでたらめ言ってるだけですが、私女神様の占いは格が違います!言っちゃえばほぼ予言です。予言!」


「わかった!お願いするよ!」


ほとんど押し切られる形で言ってしまった。

でも、確かに神様の占いなんて相当すごいものに違いない。

受けといて損はないのかもしれない。


女神様は椅子に深く座り、目を閉じる。

ピクリとも動かないその姿はまるで彫刻のようでとても美しかった。


「ヴェルギン...」


女神様はそう言うと目を開けた。


「ヴェルギンという地を知ってますか?」


「ヴェル...いや、知らないな。」

「どっちの世界の地名だ?」


「あなたの出身の方です。知らないですか...」


「どういうことですか?そのヴェル...なんとかって場所に何かあるんですか?」


「そうですね。そこから説明しますか。」

「あなたがあちらの世界に"馴染む"ためには3つの地を訪れるのが一番早いということが分かりました。」

「そのうちの一つが『ヴェルギン』という地です。」


「ヴェルギン...そこに何かあるのか?」


「いえ、そこまでは分かりません。誰かがいるのか何かがあるのか、あるいは何かが起きるのか...」

「とにかく、その三か所を巡ればあなたは世界に適応できます。」

女神様は自信満々に見える。


「でもな...俺は一応学生で毎日学校に行かないといけないし...」


その場所がどこにあるのか、それは戻って調べればすぐわかるだろうが現実的な問題としていくのは難しい。

名前からして恐らく外国だ。費用も時間も、足りるのだろうか。


「まあ、一つの方法として覚えておいてください。普通に生活しているだけでも、時間はかかりますがいつかは慣れますから。」


それもそうだな。とりあえず『ヴェルギン』という地名を脳に刻んだ。


「さて、時間はもう少ないですが、最後にこっちの世界での記憶を思い出しましょう。」


「そんなことが必要なのか?」


「はい。少しこの世界のことを思い出してみてください。」


そう言われて思い出そうとしてみるものの、記憶が少しぼやけて思い出すことが出来ない。


「少しずつ忘れてしまっていますよね?」


たしかに、その通りだ。今まで平気で思い出せていた事が頭からすっかり抜け落ちたことに恐怖を感じる。


「これは、どうすればいいんだ。」


「私と対話しながら、こっちで起きたことについて思い出していきましょう。」

「何か話したい事柄はありますか?」


「そう言われてもな...思い出せないんだ。」


「そうですね...では、『ギルア』と『ウェンティ』のことは覚えていますか?彼ら、最近結婚したそうですよ。」


「あいつらが!?まあ確かにそんな気はしたが...」

「あいつらと言ったら『ローグライン』でのことが印象的だな...」


「ではそこでの事について、話しましょうか。」

女神様は足を組み、話を聞く体制に入った。


「そうだな。あれは確か―――」

俺は思い出しながら語り始める―――







―――

※本作に登場する地名はすべてフィクションです。



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異世界救ったら死ぬ直前に帰されたんだが、なんで俺こんな奴らに殺されたんだ? 新世界秩序 @endofworld

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