第2話 古賀由衣
「いや、ぜったいみたよね!?」
「まあ...見ましたけど」
その女の子はあっさりと認めた。
ぼさっとした長い黒髪に隠れて表情はあまり見れない。
「君、こいつらのお友達?」
俺はそう聞いた。
周りに他に誰もいないのだから、こいつらの仲間である可能性は高いと思った。
もしそうならば、いやそうでなくても見られてしまったのであれば...
「いえ、べつにそういうわけでは......」
「じゃあなんでこんなところにいるの?」
「車の中に隠れてたら急に動き出しちゃって...」
恥ずかしそうに彼女は言うが、何を言ってるのか俺にはよくわからなかった。
「そんなことより!」
「あれ!どうやったんですか!?」
そう言って俺の後ろにある血だまりを指さす。
「いつから見てたんだ?」
「最初からですよ!お金を渡すところから...急に人が膨らむところまで!」
俺がこっちに帰ってくる前から見ていたらしい。
...というか
「なあ、体調悪かったりしないか?」
「体調ですか?うーん、特に普段と変わらないですけどねえ」
そう言って体を少し動かしている。
「まさか!?」
「私もあれ見たいにパーンってなっちゃうんですか!?」
...そうなってるはずなんだよな。
あの世界の病気はウィルスやバクテリアによって起きるこちらの世界の病気とは少し異なる。
基本的に感染経路は病気によって異なる。
風船病は感染力が強く、感染者、または感染した者の亡骸を視認できる範囲に入っってしまうと感染するとされている。
だからここまで近い距離にいてなんの変化も見せないのはおかしい。
「いや、君は大丈夫そうだな。」
「え、詳しいんですね!やっぱりあなたが起こした現象なんですか!あれ。」
「まあ君の想像に任せるよ。じゃあ僕はもう帰るから。」
「もちろんだけど今日ここで見たことは誰にも言わないようにね。」
そう言って返事を待たずに去ろうとした...が。
「どうやって帰るか知ってるかな?」
帰り方が分からなかった。
ここにどうやって来たのか、あまり記憶がなかった。
もしかしたら車か何かに乗せられて無理やり連れてこられたのかもしれない。
「いや、私あなたのおうち知りませんよ」
「あ、でも高校までだったら分かりますよ!それでいいですよね?」
「ああ。それで頼む。」
高校から家までの道は無意識に覚えているだろう。
「というか、俺の高校を知っているのか?」
彼女に道を案内してもらいながらそう聞いた。
「知ってますよ!というか、同じ学校です。」
「
「やっぱそういう感じなんだ」
あっちの世界とのギャップに少し落ち込む。
「そんな顔しないでくださいよ!私九君のこと尊敬してましたよ!」
「それに今日すごいかっこ良かったです!あれ何なんですか?どんなトリックがあるんですか?」
そう言ってこっちをじっと見てくる。
「なあ、なんで君はそんなに平然としていられるんだ?目の前で人が死んだんだぞ?それもよくわからない方法で。」
正直気味が悪かった。
「"君"じゃないです!私は"
「じゃあ古賀さん、俺が怖かったりしないのか?」
「由衣でいいですよ。私後輩なので!」
「全然怖くはないですよ!だってあいつらは死んで当然でしたから。」
「やるべきことをした!それだけですよね。人を殺すことに興奮を覚える猟奇殺人者ならともかく、九君を怖がる理由なんてないですよ。」
「そういうものか。」
いや、絶対そうじゃないと思うが...
やっぱり彼女、少しずれていると思う。
今回の件を見られてしまったからには少し警戒する必要もありそうだ。
これからこの世界で生活していくにあたって大きな障壁になりそうだったため、あのいじめっ子たちは殺してしまったが、あまり積極的な行動はするべきではないだろう。
これからは目立たないように過ごすことにしよう。
古賀由衣には見られてしまったが、少し変わり者であることは幸いだったな。
そんなことを考えながら、彼女の背を追いかける。
―――
「あそこが学校ですよ。」
そう彼女が指さす先には確かに見慣れた学校があった。
「ああ、あれか。確かにあんなところだったな。」
「?どういう意味ですか?それ。」
「いや、こっちの話だ。」
「ここまで送ってくれてありがとうな。」
「いえ、全然大丈夫ですよ!面白いものも見せてもらいましたし。」
「それより、明日からどうするんですか?あんなに派手にやっちゃって。」
「現場の場所的に発見は結構遅れるとは思いますが、いなくなった事はすぐにばれますよ」
「正直あまり考えてはないな。」
「俺を呼び出したことを奴らが周りに話してたら警察が話を聞きに来たりするんだろうか...」
衝動的に起こしたことだったので後処理のことに気が回っていなかった。
せっかく平和な世界に来たのだからゆっくり過ごしたいと思っていたが、しばらく心労のかかる日々が続きそうだ。
「困ったことがあったら何でも頼ってくださいね!では私はここで!」
そう言って古賀由衣は去っていった。
彼女についてもよくわからないことが多い。なぜ病気にならないのか、あの場にいた理由、本当に謎だらけだ。
色々なことを考えながらおぼろげな記憶をもとに家への道を歩いていた―――
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