『音のなかの小さな冒険』~ アルゴミュージック ~
Algo Lighter アルゴライター
プロローグ「扉のむこうから聞こえる音」
あの日、わたしは雨の音を聞いていた。
窓ガラスをポツポツとたたく、小さくてやさしい音。時々、風が木の葉を揺らして、さらさらと何かをささやいていた。外では鳥たちが雨宿りをしていて、いつもにぎやかな声が今日は聞こえない。そんな静かな午後。
わたしは、家の中のピアノのそばにしゃがみこんでいた。
別に練習をさぼっていたわけじゃない。ちょうど、ピアノの椅子の下に、ボタンを落としてしまったのだ。母がくれた青いカーディガンのボタン。カチッと床に当たる小さな音を残して、どこかへ転がっていってしまった。
「……あれ?」
ピアノの脚の陰をのぞきこむと、床の色が、そこだけ少し違って見えた。まるで、ピアノの影にだけ、別の世界がひそんでいるみたいに。
ボタンを探して手をのばしたそのときだった。
ほんのりと、音がした。
ポーン……と、どこかで誰かが、ひとつだけ鍵盤をたたいたような。けれど、ピアノは鳴っていない。耳元でなく、胸の奥のほうがポンと響いたような、不思議な感覚だった。
「……なに、これ?」
その音は、ひとつでは終わらなかった。まるで「こっちにおいで」と誘うように、ド、レ、ミ……と、七つの音がゆっくり順番に鳴りはじめた。
気づけばわたしは、床の下へ吸いこまれるようにして、身体ごとその音のなかへ落ちていた。
ふわりと風が吹いた。
目の前に、空があった。雲が歌っている。木々が踊っている。草がリズムに合わせてゆれている。
ここは……どこ?
「ようこそ、音の国へ!」
振り向いた先にいたのは――
ドレミファソラシ、七つの音を名前にもつ、小さな不思議な生きものたちだった。
こうして、わたしの音のなかの小さな冒険が始まったのだった。
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