詩「父」

金子よしふみ

第1話

父に介護が必要になって十三年になる

ある年には腰を打撲し

父はU字歩行器なしには歩行できなくなった

さらには、褥瘡になり歩行困難となって車いす移動になった

要介護三は要介護五へと上がり

いよいよそういう時期になったのだなと、何か覚悟のような心の弾みはずいぶん緩やかなものだった


予想外だったのは施設からの連絡の数々

嚥下がしにくくなりました!

入れ歯を外してミキサー食になっています!

食事は全介助で行っております!

吸引をしています!

栄養補助食品を使います!


そして一本また施設からの電話が鳴った

飲み込みが困難になっていて肺に誤嚥したら大変です在宅では無理なので施設での長期入所に切り替えます

それらを頭の片隅では冷静に努めながら聞き取り確認の反芻をした

メモを残すほどだった深呼吸は

電話を切った後

姉へのLINEで本当の落ち着きに変わった

かいつまんでの文面送信だったが

父が食事を摂れなくなってしまった、という事実に少なからぬショックがあった

焼き秋刀魚も鰤の刺身もカレーライスも

父はもう食べられない


この日から、スーパーで刺身や焼き魚に伸びる手が止まったのは一度や二度ではない

父の背中はこんなにも小さかったっけと思ったことを思い出すのだ

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詩「父」 金子よしふみ @fmy-knk_03_21

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