第22話 赤組白組戦線異常なし?

晴天の下、校庭に集まった生徒たちは赤と白に分かれ、いつもとは違う高揚感に包まれていた。


「はい注目〜! これから第二種目『リレー』を行います!」


アナウンスの声とともに、拍手と歓声があがる。


そんな中、悠真はというと、赤組のたすきを手に困惑していた。


「……なんで俺がアンカーなんだよ」


「だって一番足速いでしょ?」


と当然のように言ったのは、クラス委員の男子。

実際、事前のタイム測定で悠真は誰よりも速かった。けれど本人としては、できるだけ目立ちたくないというのが本音だった。


「俺、そういうの得意じゃないって……」


「でも、七瀬がすっごい頼りにしてたよ?」


「えっ」


その一言で、悠真の脳裏に昨日のひよりの顔が浮かんだ。


──「先輩が走るなら、絶対応援しますっ!」


……断りづらい。


「……わかったよ」


しぶしぶ了承すると、ひよりが満面の笑みで駆け寄ってくる。


「わあ、先輩、本当に出るんですね!」


「お前が応援するって言うからな……」


「じゃあ、がんばってください!」


と小さな手で差し出されたのは、手作りの応援お守り。折り紙で丁寧に折られた星形だった。


「お守りって……お前、こういうの器用なんだな」


「ふふ、私、先輩のためなら何でも頑張れますから!」


その真っ直ぐな笑顔に、悠真は一瞬だけ視線をそらした。


(……なんだろうな、この感じ)



そして始まったリレー本番。


白組のアンカーは、サッカー部のエース・速水。運動神経には自信があると評判の人物だ。


スタートからレースは白熱し、徐々に差が縮まっていく。


そして、たすきが悠真の手に渡された瞬間──


「いけぇぇーっ、天城先輩!!」


ひよりの大声援が飛んだ。

その声に応えるように、悠真の足が加速する。

軽やかに、滑らかに、そして正確に地面を蹴るその姿に、周囲がどよめいた。


「……速くない?」「誰、あの人……?」


ゴールラインまで一気に駆け抜けたその瞬間、赤組の大逆転勝利が決まった。


歓声と拍手のなか、悠真は膝に手をつき、息を整えていた。


「先輩、お疲れさまでしたっ!」


ひよりが駆け寄り、タオルとペットボトルを差し出す。


「サポート完璧だな……ありがとう」


「えへへ、今日はこれもありますよ〜!」


と差し出されたのは、手作りのお弁当。小さな二段重ねに、彩りよく詰められたおかずがぎっしりだ。


「朝から頑張って作ったんです。先輩、ちゃんと食べてくださいね?」


「……お、おう」


そのやり取りを、少し離れた場所から見つめていた理央と美羽は、微妙な表情を浮かべていた。


「……あれ、もう恋人じゃない?」


「違うと思うけど……でも、ああいうのは反則よね」


理央は口元をきゅっと引き結ぶ。


(私だって、彼のそばにいたはずなのに……)


それでも──

「今の彼」と向き合うためには、目を背けずにいなければならない。


理央も、美羽も、心の奥でそれを理解していた。


──戦いは、学力でも運動でもなく、きっともっと身近なところにある。


そう思わせるほどに、この日の悠真は“目立っていた”。

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