元建築家ですが、今日も普通に異世界で構造設計しています。

@mitsuyama_keiji

プロローグ

―ざあああっ……


 耳元で鳴り響くのは、風の音だった。


 揺れる葉のざわめき、聞き慣れない鳥のさえずり。


 そして、鼻先をくすぐるのは土と木、それから苔の匂い。


「……う、うぅ……」


 ゆっくりと目を開ける。


 目の前に広がっていたのは、見渡す限りの深い森。


 空を覆うほどに高く伸びた木々。


 足元には、乾いた落ち葉と雑草が絨毯のように広がっていた。


「ここは……どこだ……?」


 そのとき、自分の口から漏れた声に、思わず動きが止まった。


「……ちょ、ちょっと待て。今の声……?」


 違う。完全に、違う。


 記憶にある自分の声はもっと低く、しゃがれていて、いつも疲れていたはずだ。


 だが今の声は、透き通っていて柔らかく、どこか品さえ漂っていた。


 慌てて身体を起こし、自分の姿を確認する。


——服装は、変わっていなかった。


 少しくたびれたシャツにスラックス。そして、現場でいつも身につけていた作業用のヘルメットまでちゃんとある。


 それだけで、ひとまずは胸を撫で下ろした。


 まさかパンツ一丁で目覚めたり、中世の甲冑なんかを着せられていたりしたらどうしようかと…… そういう最悪な事態は、ひとまず免れたようだ。


 だが、安心も束の間だった。


 近くの木の根元に、小さな水たまりがあるのが目に入った。


 何の気なしに、そこを覗き込む。


 静かな水面に映ったのは——


「……誰?」


 思わず、声が漏れる。


 そこにいたのは、見覚えのない男の顔だった。


 何度目をこすっても、角度を変えても、そこに映るのは知らない誰か。


——いや、これは……


「これが……俺、なのか?」


 額に手を当てた。


 心臓の鼓動がどんどん早くなっていく。


 夢じゃない。


 身体が、それをはっきりと感じ取っていた。


 ここは——


 「俺の知っている世界じゃない。」

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