閑章第B話 ×ひとごろし〇ひとめぼれ
「へえ、ここが都会かー。懐か・・・は、初めて来たなー。」
「なんだお前、田舎モンか?そんなんでこの仕事大丈夫なのか?」
私同じクズ仲間に素性知られたくないだけなんだけど。こいつ言い方ちょっとムカつく。
予定されていた通り、早起きして朝の4時に村を出発して7時にここに着いた。
お嬢様はどうやら9時に到着予定らしいからしばらく暇になる、朝ごはんでも食べようかな。
「ねえ君、ちょっとお金持ってない?」
「あ?まあそりゃあるが、お前の分はないぞ?」
「へえ・・・なんで君が私のサポートなのか今教えてあげようか?」
少し殺気を出して脅してみる。するとやっぱり私よりも全然弱い人間のようで、すぐにビビり出して銀貨を何枚かくれた。
強いって~さいこー!!
普段は一般人にこんなことしないけど、同じクズなら心置き無く金を巻き上げることができる。なんであいつもクズなのかって?あのおっさんの仕事受けてる時点でまともじゃないでしょ。
貰ったお金でしばらく街を散策しているとあっという間に時間がすぎて、もう計画始動時間になった。
私もあいつも急いで所定の位置である屋根の上の煙突の影に隠れ、あとはあのお嬢様が来るのを待つだけだ。
きた!!多分あれだ、明らかに豪華絢爛って感じ。
ほかの馬車に比べて明らかに派手な馬車が街の入口をくぐるのが見えたため、私は戦闘準備に入り、魔獣使いは魔獣を放つ準備を始めた。
私の予想は的中みたいで、あの豪華な馬車から明らかにお嬢様っぽい可愛い女の子が見える、当たりだ。
そろそろ真正面に来るな、後ちょっとか。
じっとターゲットを見つめ、最高のタイミングを待つ。まだ全然早い、そう思っていると後ろから唸り声がして、次の瞬間には視界を巨大な魔獣が横切った。
「はっ!!ムカつくやつめ!!お前ごとき使ってまどろっこしいことしなくても俺一人で十分なんだよ!!」
あいつ、調子に乗って血迷ったか。感情に任せて仕事を適当にこなすやつは私以下だね。とにかく今はあの魔獣を何とかしないと、距離的にまだ護衛も気づいていないっぽいし、このままじゃ無関係な人に被害が出ちゃう。
仕方ない、本気出すか!!。
屋根を思いっきり踏み込み、お嬢様の馬車に向かって一直線に跳んだ。
計画はちょっと狂ったけどやることは変わらない、この子を守って雇われること。
単純なことだ、なんて考えながら魔獣を追い越し、すごい勢いで馬車の近くに着地した。
「お嬢様!!お下がりを!!」
すかさず後ろから護衛のそんな声が聞こえてくる。たしかに手練と言われてるだけあっていい反応速度だとは思う。でも、私が跳んできてる時点で気づけないなら大したことはないかな。
「君たち下がって!!危ないよ!!」
「なんだ貴様!?このお方をグランヴィル家のお嬢様と知っての・・・」
「うるさい!!下がれって言ってんの!!」
私の剣幕にさすがに護衛が少し下がり、その瞬間魔獣が私に向かってきた。
護衛のせいで少し余裕がなくなっちゃった、かっこ悪いや。
「君は雑魚なのにあんまイキらないでね、えい!!」
初撃をギリギリで躱し、すかさずカウンターを入れて魔獣を一撃で粉砕した。
返り血が唯一の服であるぼろ布に思いっきりかかってベトベトだ、本当に不愉快。
「あー、危なかったー。ねえ君たち?怪我は・・・」
「き、貴様なんだその強さは。それにあんな強力な魔獣がこんな都会に出るなんて・・・貴様は、いや、あなた様は我々の恩人だ、なんとお礼を言ったらいいか」
「いやいいって、可愛い女の子を助けるのは当たり前でしょ?」
「いえ、それでは我々グランヴィル家護衛団の恥でございます。何卒何かお礼をさせて頂けたい」
多分護衛団のリーダー?っぽい騎士が返り血でベトベトのぼろ布を羽織った見知らぬガキに跪いている。
この光景、はたから見たらかなり異質で異常なんじゃないかな、冷静に。
「うーん、じゃあ出来ればお屋敷のお風呂貸してくれない?あと服1着だけ欲しいかも、ほらこんなんだからさ。」
「なんと、その程度ならお易い御用でございます。では早速向かいましょう、馬をお貸ししましょうか?」
「じゃあお願・・・」
「いえ、アーサー。その方には私の馬車に乗っていただきましょう。御客人をただの馬に乗せるなんて、それこそお家の恥ですわ」
「お、お嬢様。承知しました、ではそのように」
馬車の中から聞こえてきた幼くも凛とした雰囲気を感じる、そんな鶴の一声で私の馬車入りが決まった。声的には年下だろうか、まだ13歳くらいのように思える。
それにしてもいきなり馬車入りか・・・あれ?もう殺せるんじゃない?
まさかおっさんの計画がこんなに上手くいくなんて思ってなかった。というか、魔獣使いが調子に乗ってくれたおかげで結構派手な倒し方ができたのも大きいのかもしれない。
1ヶ月なんていらないじゃん。もうやっちゃってトンズラしよ。
私は基本嫌なことはさっさと終わらせる主義である。もうこんな後味悪そうな仕事はさっさと終わらせよう。
「あら、あなたがわたくしの命の恩人のお方ですか?この度は本当にありがとう、感謝いたしますわ」
「・・・・・・わーお」
「?どうしました?」
「い、いやなんでもないよ」
ほんの数秒前まで、そう思っていたはずだった。殺そうって、もう終わらせようって思ってた。でももう無理かもしれない、この依頼、失敗かもしれない。だって、この子があまりにも私のタイプすぎるんだもん。最初に話聞いた時はナンパして落とすつもりだったのに・・・逆に殺せなくなっちゃった。
「そうですか。あなた、お名前はなんといいますの?」
名前か・・・さすがに偽名しかないよなぁ。
「そ、ソフィア!!そう、ソフィアだよ」
「ソフィア、覚えましたわ。あなた、良ければわたくしの屋敷で働きません?強いですし、何より気に入りました」
本当に作戦成功しすぎじゃないだろうか。ここまで気に入ってもらえるなんて私何かした?いや命は助けたけどさ。
・・・でも、どうせこいつだってあいつらと同じ貴族でしょ。女の子だけど、根は一緒に決まってる、一緒に過ごしてその顔を暴いて心置き無く殺そう。
「わかった。私行くあてもないし、むしろ願ってもない話だよ」
「本当ですの?ではあなたは今日から私の側近ですわ、早速今日から同じ部屋で寝ましょう?」
「ん?い、一般兵とかじゃないくて?」
「だってあなた一番強いじゃないですの。わたくしの側近にふさわしいですわ」
そんなこんなで結局押し切られてその日からこの子の側近になった。
大丈夫、目的は忘れてない。もう信頼はされてる、あとは私の決意だけだ。
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