【西の森・奥地|暴走魔法陣の中心】






「こ、これは……魔法陣!? しかもこれ、ただの転送陣じゃない……!」


ノエルが目を見開き、思わず杖を落とした。


地面に浮かび上がったのは、直径20メートルはありそうな巨大な魔法陣。中心には不気味な紫色の魔力が渦巻いている。


「妙だな……この魔力、まるで“制御者が存在しない”ように見える。だが、誰かが意図的に設置したのは間違いない」


アリエルが剣を構えながら慎重に歩み寄る。


「もしかして……誰かが魔法陣を作ったはいいけど、制御できなくて逃げたとか?」


「その可能性は高いな。まったく、手のかかる輩がいたものだ……」


と――そのとき。


「――あ、あのっ! ちょっとどいてください!! そこ、私の魔法陣ですっ!!」


「……え?」


草むらから現れたのは、ボサボサの三つ編みを揺らした少女。年の頃はタクミたちと同じくらい。魔導書をかかえ、袖が破れたローブ姿。


その顔に、見覚えがある。


「って、学園にいた“落ちこぼれの魔法少女”じゃん!! エルナ!? なんでここに!?」


ノエルが叫ぶ。


「え、知り合い!? この子が作ったの!? このヤバそうな魔法陣を!?」


「ちがいます!! いや、ちがわないですけどちがいます!! これは私が研究してた“非接触魔導変換装置”のプロトタイプで、実験だけのはずだったのに、魔力が共鳴して勝手に成長しちゃってぇええええぇ!!!」


泣きながら地面を叩くエルナ。


「え、なにこの子、魔法使えないってウワサだったのに……装置とか作れる系の天才タイプ!?」


「逆に一番ヤバいやつ!! 科学サイドの魔法少女かよ!!」


タクミが叫ぶが、状況は刻一刻と悪化していく。


魔法陣の中央が輝きを増し――


**ズオオオォォォ……ッ!!**


巨大な咆哮とともに、魔法陣から**謎の生物**が召喚された。


「えっ、なんか出たッ!? おいおい、これ完全にボス戦の流れじゃん!!」


現れたのは……タヌキ。


ただし――


**体長約5メートル、背中に巨大ミサイルを装備し、目がサングラス型のレンズになっている近未来風タヌキロボだった。**


「……タヌキ!? っていうかなんで兵器なんだよッ!!」


「う、うそぉ……失敗作のはずだった“マジカルタヌキMk-II”が、召喚されちゃった……!? 魔力が暴走して、自己進化しながら、再起動してるぅぅ……!」


エルナの声が震える。


「ええい! 意味はわからんが、とにかく暴れる前に叩くぞ!!」


アリエルが地を蹴る――


だがその瞬間、またしても頭に声が響いた。


【スキル《他力本願》が発動しました】


「あ……また俺、なにもしないのに……!」


アリエルの動きが閃光のように加速する――


「ヌンッッ!!!」


ドゴォォォォォン!!!


マジカルタヌキMk-II、**ワンパンで空に消し飛ぶ。**


しばしの静寂。


「……タクミって、なんか、もう……逆にズルくない?」


「俺もそう思う」


「でも! でもでもでも! 制御不能な暴走を、止められたんです! 皆さんのおかげです! ありがとうございます!」


エルナが深々と頭を下げる。


「……ところでさ、そのマジカルタヌキMk-IIって、まだ量産型とか残ってないよね?」


「え……プロトタイプMk-IIIまで設計済みですけど?」


「やめろぉぉぉぉ!!」


こうして、西の森調査は――予想外の科学力とマジカル要素により幕を閉じた。


だが、これは始まりにすぎない。


後に“異世界最大の発明事故”として語られる――


\*\*《エルナ事件》\*\*の、プロローグだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最弱スキル『他力本願』だけで異世界を蹂躙する @ikkyu33

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る