【王城・謁見の間】






「緊張してきた……!」


 荘厳な扉の前で、俺はそっと呟いた。天井が高く、床はピカピカに磨かれた大理石。壁には豪奢な装飾と歴代の王たちの肖像画。まさに“ファンタジーな王城”そのものだった。


「気を楽にせよ、タクミ。我がいる。仮に王が失礼を働いたら、その時は――」


「いや、王様に喧嘩売る気!? やめてやめて!!」


 護衛というか、もはや爆弾を抱えているような気分で、俺はアリエルに引き連れられて謁見の間に足を踏み入れた。


「入れ」


 重厚な声とともに扉が開き、中に進む。玉座の上には、堂々とした佇まいの初老の男が座っていた。威厳はあるが、どこか温かな目をしている。


「そなたが……異世界より来たという、神崎タクミ殿か」


 王様が俺に向かってそう尋ねる。俺は緊張しつつも、なんとか頭を下げた。


「は、はい。神崎タクミです。突然この世界に現れて……よく分からないまま今に至っております!」


「うむ、話はアリエルから聞いている。――スキル《他力本願》、実に興味深い能力だ」


「えっ、もうその話まで!?」


 なんか知らんが、すでに俺の個人情報が王に筒抜けだった。どうやらアリエル、朝のうちに報告を済ませていたらしい。優秀なのか暴走気味なのかよく分からない。


「この国では、近年“戦えぬ者”に価値を見出すことが難しくなっておる。だが、そなたのスキルは“誰かの力を引き出す”……つまり、戦力を最大化する可能性を秘めている」


 王は立ち上がり、ゆっくりとこちらへ歩み寄る。


「神崎タクミ殿。そなたは今、王国の庇護を受ける形となるが……もしよければ、この国のために、共に歩んでくれぬか?」


 うおお、なんか……重っ!


 いや確かに、異世界転移して王様に頼られる展開、テンション上がらないわけじゃないけど! こちとらチートでも勇者でもない、ただの一般人なんですが!


「え、えっと……でも、俺一人じゃ何も……」


「うむ、それは分かっておる。だからこそ、アリエル殿のような者をそばに置いているのだろう?」


「当然だ。我がタクミを守る。命に代えてもな!」


「お、おう……ありがと……?」


 こうして――


 異世界人・タクミは、“最弱スキル所持者”ながらも、王の信任を受け、王国と共に生きる道を選ぶことになった。


 まだまだ右も左も分からない世界だけれど。


 ……でも、少しだけ希望が見えた気がした。

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