戦えない俺と、スキルに振り回される女騎士





「というわけで、アリエルさん。どこに連れていこうとしてるんですか、俺を」


「うむ、まずは腹ごしらえだ!」


「いや、それより俺の今後の生活とか、身分証明とか……」


「異世界人にそんなものはないから、まず腹を満たして思考を回復せねばなるまい!」


「うわー、脳筋だこの人」


 


アリエルに引きずられるようにして王都の大通りを進む俺。

そして、ひと気の少ない裏通りに入ったところで――事件は起きた。


「おいおい、お嬢ちゃん。いい鎧つけてんじゃねぇか。売ってくれよ、その身と一緒になァ」


ギラついた笑みを浮かべた三人組のゴロツキが、行く手をふさいできた。

テンプレすぎて逆に安心するタイプのチンピラである。


「ほぅ……。この我に手を出そうとは、いい度胸だな?」


「ま、まぁまぁアリエルさん! 言葉で解決する道もありますよね? 異世界だし、警察とかあるかわかんないし……」


「ふむ、確かにタクミは戦えぬのだったな……」


「うん、スキル《他力本願》はね、戦闘が一切できないの。誰かの力を借りないと何もできない」


「……なるほど。つまり、我が全力で戦えば、タクミのスキルが何か作用するということだな?」


「えっ、そういうこと……になるのか!?」


と、そのときだった。


【スキル《他力本願》が発動しました】


「えっ」


突如、頭の中に響く機械的な声。そしてその瞬間、アリエルの体が一瞬だけ光に包まれた。


「な、なにこれ……? 体が軽い!? 動きやすい!? なんか……力が湧いてくる……!」


「えっ!? 俺、なにもしてないんだけど!?」


「つまり! これが《他力本願》の力かッ!!」


「なんか納得しちゃってるけど、絶対ちが――」


「ぬんッ!!」


アリエルが地を蹴った瞬間、まさに“音速”だった。


「ぎゃあああああッ!!?」


三人組が風圧で吹っ飛び、壁にめり込む。地面にヒビが入る。完全にギャグマンガのノリである。


 


「ふぅ……すまんな、タクミ。汝が我に力を託してくれたおかげで勝てたのだ」


「俺、見てただけなんだけど!?」


「いやいや、見守るというのもまた立派な戦術! なにより我が“強化状態”になったのは、間違いなくスキルの力だ!」


「……《他力本願》、とんでもねえな……他人が強くなるスキルってことか……?」


そのとき、もう一度、声が響く。


【スキル《他力本願》効果:対象の潜在力を一時的に引き出し、最適化します】


「え、ガチで強化してたのかよ俺のスキル!? なんだこの便利仕様!!」


「ふふっ……これで我とタクミの最強コンビが成立したな!」


「えっ、そんな軽率にバディ決定!?」


 


こうして――


最弱スキルと最強女騎士(?)の、ノリと勢いだけで進む異世界旅が、本格的に始まったのであった。

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