2018年にわたし宛に送られたDM

ごめんなさい、夜分に……。

もう少しうまくまとめてからにしようと思ってたんですけど、今、ちょっと変な夢から起きて、記憶がゆれるまえに書きます。


さっきの会議で言いそびれたことなんですけど、

リリッカって、ただの都市伝説じゃなくて

その、

何かの呪い、というか「記憶の形をした呪術」なんじゃないかって思うようになりました。


もちろん、証拠とかはぜんぜん足りないんですけど、

八代リリカの資料、あれを読み返していて、なんだか妙に引っかかったんです。



まず、八代家の「抹消」が不自然です。

住民票の写しも残ってないし、母親の記録すらない。

あそこに本当に“家族”がいたのか、もうわからなくなっていて、

まるで何かを 隠すために家が存在していた みたいです。


それと……仮虫文庫の文献班が調べた「夜の虫歌」。

あれ、メロディがないって言われてるけど、わたし、

歌ったことがある気がするんです。


小さい頃、押入れの中に入って、

暗くて、畳の匂いと、埃と、あまいような木の匂いと一緒に、

誰かが歌ってたのを真似した記憶がある。


「くるりリリッカ くるりとね」

「てのひらのほこりに羽根がさく」


このフレーズ、思い出したんじゃなくて、思い出させられた気がしてて……。

ごめんなさい、言ってること、おかしいですよね。



それで、八代家に残ってた“押入れの声”の話。

「返事が返ってくる」っていうの、

たぶん、自分の声を返してくる“何か”なんだと思います。


真似してるようで、違う。

ちょっと遅れて、でもちゃんと語尾の息づかいまで似てくる。

「返事」じゃなくて、「複写」してくる。

わたしたちの記憶の奥を、“後から”なぞるもの。


それって、呪い、ですよね。

あるいは、ずっと続いている“再生”のかたち。



わたし、正直に言うと、最近、ちょっとずつ記憶があいまいで……

机の引き出しに入れてたはずのノートが、

見たことない場所から出てきたりするんです。

そのノートの端に、鉛筆で「リリッカ」って書いてある。


わたし、そんなふうに書いた記憶ないんです。

それに、文字のかたちが、自分じゃない。

でも、知ってる——見たことある文字なんです。八代リリカの古い文献の、あの文字に似てる。



ここからは、もっと個人的な憶測です。


もしかしたら、リリッカは「八代リリカが残した呪術的情報体」で、

それが場所や人間を伝って、“情報感染”してるのかもしれません。


羽根とか、甘い匂いとか、記憶の改ざんとか、

それって全部、「身体を持たない存在」が

わたしたちの知覚に染み込んでくる方法なんじゃないかなって。


ねえ先輩、

わたしたちが記録を残して、研究を続けることで、

むしろリリッカが「形を取り戻す」ってこと、ないんでしょうか?


“忘れられていくことでしか、消えられないもの”って……あるんでしょうか。



変な時間に、こんなメッセージ、ごめんなさい。

でも、わたしはこれを誰かに言っておかないと、

きっと、どこかに吸いこまれてしまう気がして。


また明日、部室で。


— 凪川(仮名)

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