十五日目 カスタード比率会議、大炎上
あれは、すべてが終わったと思われた直後のことだった。
プリンの硬さを巡る激しい抗争――通称「第一次魔界プリン大戦」。魔王ディオクレスと北部の硬派プリン党エルゼナイト卿の間で繰り広げられたこの戦争は、両陣営がプリンを食い過ぎて飽きた結果、なんとなく終戦を迎えた。
「プリン……当分見たくないですね……」
「言うなサトウ。胃がまだ揺れておる……」
そう、終わった……はずだったのだ。
が、戦火は再び、よりどうでもいい論点で火を噴くことになる。
*
「魔王様、たいへんです!」
「ん? 誰だ、そんなに騒がしいのは……胃が回復するまでは静養を……」
「カスタードとカラメル、どちらを多めにするべきかで、民が分裂しております!」
「……なんだと……?」
ディオクレスが顔を上げた瞬間、サトウは手で顔を覆った。
「またかよ!! 今度は何だ、量の問題!?」
「その通りだ。プリンの本体はカスタードか、はたまたカラメルか。それを巡って魔界南西の甘味自治区が分裂した」
「どんな自治区だよ!」
サトウの叫びを無視して、ディオクレスはゆっくりと立ち上がる。
その目に宿るのは、かつてプリンに人生を狂わされた男の、それでもなお信じてしまう輝きだった。
「我らは、真のプリンバランスを見つけ出さねばならん。世界を一つにする、その比率を!」
「やめろ、プリンで世界を統一するな!」
だがディオクレスは止まらない。むしろ今、火が点いた。
「カスタード十割こそ至高!」
「いやいや、カラメルがないとただの甘卵液だろ!」
こうして、ディオクレスの脳内会議室にすら賛否両論が湧き上がる中――
第二次魔界プリン対戦は、静かに幕を開けた。
*
「我が“とろとろ比率研究所”では、カスタード七・カラメル三を提唱しておる!」
「“底濃度派”は逆を主張してますけど!? あっちじゃ“カラメル五・カスタード五”の暴動起きてるぞ!」
「バカな、そんな比率でプリンと名乗れるのか……!」
「いやバカはお前らだよ!」
魔王城では、すでに各地のプリン派閥からの抗議と提案が毎日のように届いていた。
・「プリンは上から食べるか下から食べるか」
・「途中で混ぜる派」と「層を保て派」
・「蒸し派」vs「焼き派」vs「冷却魔法凝固派」
「なぁサトウ、こんなにもプリンで争える魔界……誇らしくないか?」
「恥ずかしいよ!! 世界に謝ろうよ!」
しかし事態は悪化の一途をたどる。
中央甘味局は“カスタード比率決定会議”の開催を決定。
国内のすべてのプリン派代表が招集され、歴史に残る――そして胃にも残る――会議が始まった。
*
「議題:理想のプリン比率を定義する件について」
「まず、“一口目でカラメルが感じられないのは不完全!”」
「違う! カラメルは最後のご褒美だ!」
「うるさい、混ぜて一体にすべきなんだよ!」
壇上はもはやプリン討論会という名の怒鳴り合い。
言葉はどんどん過激になり、やがて……実物をぶつけ合い始めた。
「ならば貴様に、この“完璧比率プリン”を食らわせてやる!」
「上等だ! こっちは“カラメル集中型”だ!」
「おい! プリン投げるな! 会議室が甘ったるい匂いで地獄になるだろ!」
混乱に乗じて、**第三勢力「飲むプリン派」**が乱入し、会場にシェイカーをぶちまける。
「これが進化系プリンだァ!!」
「 それは飲み物だ!!」
混沌。混乱。カラメルの海。
こうして比率会議は崩壊し、各派閥は再び武装化する。
*
後日――
「なあサトウ、プリンって何だったんだろうな……」
「知りませんよ……もう名前聞くだけで胃が痛いんですよ……」
魔王城の天井を見上げながら、ディオクレスはつぶやいた。
「プリンに、世界は救えなかった……」
「そりゃそうだよ!」
だが彼の手には、なおも握られていた――
“比率最終案”と書かれた一枚の紙
『カスタード六五%、カラメル三五%、混合不可』
「これが……理想比率……!」
「やめとけ、その紙がまた戦争の火種になるって……!」
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