交換告白が実るまでpart.3 青春を

 A先輩に関して。僕には身に覚えもないものだったから、一瞬困惑するものの。秋風さんも何か違和感に囚われたよう。


「言われてみれば……何か覚えているような気がするのよね」


 しかし、僕も礼太郎も菜月さんも記憶にない。どう言われても分からない状態で。礼太郎なんかかなりのアホ顔で口を開けている。


「あたしが覚えていないなんて、想定外ね」

「カレン、全く覚えてなさそうだけど」

「アンタみたいなアホ面に言われたくないわー」

「うげっ?」


 栗実さんはクスッと笑って喋り出す。


「素敵な雰囲気ですね。こういうのもいいですね……今までは三人でいたんですが。急に独り身の一人になってしまったので……何だか」


 その際、僕も言いたくなる。ならば、と。

 ただ今はぐっとその言葉を飲み込んだ。僕が今やるべきことは栗実さんの頭の中にある靄を取っ払うことだろう。

 一応、聞いてみる。


「で、一応その理由は内嶺先輩には聞いてるの?」

「いや、何か……先輩に聞いてもはぐらかされるばかりで……分かんない! たぶん本当のことなんて教えてくれないと思うから……聞き込みをするだけ無理だと思うけど」

「……無理?」

「うん……さっき言ってたA先輩の方に話を聞いてみるってのはありかも……」

「じゃあ、やっぱ今日も来るかもしれない先輩を待つってことで……いいのか」

「新しい事実が分かったら、教えてね」


 そう言って彼女は嬉しそうに立ち上がる。それを引き留めるのが一人、秋風さんだ。


「ねぇ、この後暇? 部活は?」

「は、入ってないけど……どうして?」

「どうせなら、もうちょっとここにいない?」

「えっ?」

「実際に聞いてみた方がいいかもね」


 秋風さんが純粋に誘っているが。すぐに茶々を入れてくる菜月さん。


「って、実際は手伝わせる気じゃないの?」

「い、いや、そ、そんなんじゃないよー! た、ただね。面白いからいいじゃん! ほらほら、この袋持って!」

「こ、これは……?」

「こっちの袋は焼き塩を入れて、こっちは抹茶塩、こっちはコンソメでそっちはコンポタ! いろんなフレーバーを入れてみたんだよ。だから思い切り振って、味見してみて! それが美味しいか!」

「は、はい!?」


 無理矢理ポテトチップスが入った袋を持たせられた彼女。両手で一生懸命ふりふりしている姿に見とれてしまいそうになる。


「こ、これで大丈夫かなぁ」


 自信なさげに紅く頬を染める彼女の魅力が僕には刺激が強かったようで。頭がぼんやりしそうになる。

 僕の耳にはこちらに来た秋風さんからの応援が。


「まぁ、さっきは残念だったけど、こういうことで接触回数増やせば何とかなるでしょ?」

「えっ?」

「カップ麺も最初はこんなの売られてるんだー、ふーんってなるんだけどさ、食べて研究しているうちに好きで好きでたまらなくなっちゃうこともあるんだよね。もう、これがないと落ち着かない。日常がままならないって」

「カップ麺中毒なのは秋風さんだけじゃ?」

「いやいや、みんなそうだって!」


 と言っても、一緒に楽しむのも悪くはないと思う。僕も協力させてもらう。僕は零れそうになる程、勢いよく振っていく。

 そこで本当に何枚か落ちそうになるところ。礼太郎が「もったいねぇ」と地に落ちる寸前で拾ってくれた。


「うん、うめぇな、これ。ちゃんと混ざってる」


 栗実さんの方は一旦出して、食べてみる。そして、こちらのも「いいかな」と言ってそっと。


「全然、味が違う。どうやって振ればいいの? あっ、もしかして手に塩でも塗ったの? 手汗の味!?」

「おにぎりじゃないんだから!」

「じゃ、な、何で……!?」


 理由は分からないのだが。結局は何度かやって、楽しんで。青春っぽいところを遅らせてもらう。

 みんなのおかげで、今もこうして。不思議な気分でいられた。

 だが、その緩和の時間もすぐに終わる。食べやすいメニューと言うのはやはり人気のようで。その上でフライドポテトやポテトチップスなんて、食べやすいものはテイクアウトできるものだから、廊下に長蛇の列が並ぶ。

 結構暑くなる季節だから、塩っぽいものの需要も爆上がり。欲しい欲しいと求める人が多く現れた。

 その中でずっと僕達はA先輩とやらを待っていた。

 現れたのは終わりごろになってから。


「……今日も大変だったなぁ」


 何だか、バテタ様子で現れる男。どうやら隣にはB先輩と呼ばれる人もいた。本時tはテニスウェアとのこと。

 秋風さんがまず、最初に痴話と言う感覚で話し始めた。


「いらっしゃい! あれ、今日はテニスウェアですか?」

「あっ、まぁ……」


 そんな彼が素っ気なく答えるもB先輩の方がちゃらちゃらした感じで説明する。


「そーなんだよ! こいつ顔に似合わず、結構スポーツ派でいろんな部活でヘルプを出してるんだよ! 今日はテニスって訳!」


 そこにふと他の女性生徒が何かをヒソヒソ話していた。その様子に近くまで行ったのは菜月さん。彼女は何かを聞いている。

 秋風さんが話をしている合間に栗実さんへ向けて、彼のことを少しでも知っているのかと聞いていく。


「結構行動派?」

「ええ。ここだけじゃなく、いろんな名店に顔を出してるって話ですよ?」

「名店?」

「この辺だと銀座女豹だとか、喫茶エルメスとか……? グルメ紀行をしているとか!」


 そこでふと思い出す。喫茶エルメス。人気店だ。以前、礼太郎もそこへの視察に行きたいと話していた。しかし、だ。「無理だ。あそこに行くのは……」と肩を落としていたのをよく覚えている。

 行きたくても行けない場所に通える理由とは。

 彼女は更に喋り出す。


「ええ。内嶺先輩も好きだったら、最初からこの方に告白すれば良かったのに。どうして違う人に告白してしまったんでしょうね?」

「さぁ……」

「見てください。告れば結構落ちそうな人じゃないですか? 何か、おどおどして女性慣れしてなさそうなので……ってか、結局矢継先輩の彼氏になったんですけどね」

「……そっか」


 一応、どういう人なのか。恋の観点から聞いてみたい。そう思った僕はポテトをテイクアウトしていく彼等に声を掛けることにした。

 暗闇の中歩いていく彼に。勇気を振り絞って。


「おーい……待って!」


 と言っている合間に足音が。何かと思って振り返ると、礼太郎や雪平も立っていた。


「あれ、二人も?」

「まぁ……ちょっと聞きたいことがあるだけだ……」


 雪平はこちらを直視せずにそう言った。礼太郎はふざけた笑いを見せることから好奇心でついてきたことが分かる。

 僕達三人の威圧に圧されたのか、振り返ったA先輩が委縮する。


「えっ、な、何?」


 普通にどうして交換告白をしているのか。なんて聞く訳にもいかない。本当は自分のことが好きではなかったのと知ってトラブルになる可能性もある。

 ならば、こんな言い方で。


「いや、ちょっとお話を……というか、恋愛相談をさせてほしいというか?」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る