交換告白が実るまでpart.2 不思議な交際関係

 落ち着け、と自分に言い聞かせる。何しに来たのかと聞きたかったのだが、がっついてはいけない。もし良い結果でも急かしてしまうと、変なことになる。

 まずは冷静になって、胸に手を当てて。


「おい、胸に包丁付けて何やってんだ!?」

「えっ!? あれ!?」


 礼太郎に言われなければ、自分は包丁を自分の胸に当てようとしていたらしい。

 非常に恐ろしくなって、一回包丁を手元に置くことにした。深呼吸をして、彼女を見ようとした。

 その際、秋風さんが目に映って「頑張れ」との声までもが聞こえてきた。どうやら、僕へのコールか。

 自信を持とうとしたところ、だ。

 彼女が喋り始めていく。


「あの……あの……」

「何々? どうしたの?」


 秋風さんがワクワクしているところで彼女は言い放つ。


「あの、学園喫茶部ってここですよね?」

「えっ?」

「ずっと気になってたんです。そこには名探偵の方もいると聞いて……でもお恥ずかしい話、信じられなくてずっと桜木くんの様子を見てたんです。そしたら、何か謎を解いたとかって話も聞こえてきて……それで……」


 ここで僕の心が一気に落ち着いてきた。

 どうやら彼女が僕の様子を窺っていたのは、恋でも何でもなくただただ礼太郎を頼りたかったからであったようで。僕がたまたま、繋がるキーになっていた。


「……ううんううん」


 秋風さんが項垂れていく僕の肩にポンと手を当てた。


「そーいうこともあるんだよ」


 その後、「私も結構衝撃的だよ。まさか目的が礼太郎くんだったなんて……」と。何の慰めにもなっていないような気もする。

 礼太郎の方は依頼となったのか、自身の服の皺を直して席に座っていく。


「依頼なのか? 話を聞こう」

「お願いします」


 僕の恋は妄想に終わる。残念だと落ち込んでいる合間にも彼との話は進んでいた。


「で、どんな問題なんだ? 学校の怪談系統か? 最近そういうのが多いんだが」

「それも気になってはいますが、それとは違って……身内の問題なんです」

「身内? 家族のことか?」

「いえ。仲が良かった先輩達のことなんです。内嶺うちみね先輩と矢継やつぎ先輩ですね。こちらです」


 彼女はスマートフォンで画像を見せつけてきた。

 僕も気付けば、それを覗き見していたのである。じっと見て、左に茶髪が肩まで伸びたギャル風の女の子、右に黒髪短髪の女の子がいることが分かった。その二人に挟まれて、両手でピースしているのは栗木さんのようだ。

 礼太郎は問うていく。


「左が?」

「内嶺ありさ先輩です。右が矢継みな先輩です。どっちも幼馴染の先輩なんですが……最近三人で遊びに行くこともめっきり減ってしまって……」

「ああ……その理由を知りたいんだな」


 ふと礼太郎の手が震えたのが見えた。

 この事件、彼のトラウマになった事件によく似ているのだ。女性の愛憎に巻き込まれ、礼太郎は心の傷を負ってしまった。

 また今回、下手に手を突っ込んで何かを言われるかもしれない。

 真実を知る位ならば、何もしないでいてもらった方が良かったと文句を言われるかもしれない。

 ただ、栗実さんがそんな女の子だとも思えない。彼女ならば真相を知っても、いいように使えると思うのだ。僕の単なる願望も入っているのだけれども。

 彼女の話は続いていく。


「……理由って言うか、それは分かってるんです?」

「えっ?」

「理由はお二人共交際を始めたから、なんです」

「じゃあ、そこまで謎はないじゃないか。交際を始めりゃあ、そりゃあ友達との時間も減るっていうのはよくあることだ。まっ、いずれ落ち着いてくると思うぞ」

「そうじゃないんです……!」

「えっ?」


 彼女が力強く声を発した。どうやら大事なキーワードが今の話にはなかったらしい。


「二人共おかしいんです。お互いの交際相手をA、Bとしましょう。内嶺先輩はA先輩のことが好きだったんです。それなのに、今、B先輩に告白したんです」

「は、はぁ……?」


 僕も訳が分からず、だった。好きな人に告白するものではなかろう、か。自分に興味のない相手に告白したとしても、それはストレスでしかないと思うのだが。

 更に彼女は謎を持ち出した。


「で、B先輩が好きだったのが矢継先輩だったんです」

「すげぇ、怒ってるんじゃないのか? 好きな人を奪われたんだから」

「いえ、矢継先輩はA先輩と付き合ってるんです」

「何じゃ、そりゃ」


 菜月さんも混乱して、目が回っているよう。


「えっ、何その謎理論。えっ? 内嶺って人は矢継のことが嫌いで奪っちゃって……? で、矢継は復讐として……? えっ、でもそれって復讐になるの? 内嶺悔しいってなるの? なってるの?」

「なってる様子はないんです。二人共、ちゃんと楽しんでると思うんです。色々帰りはカラオケに行ったり、ファミレスに行ったり。まぁ、その前まではわたしも含めて三人で行ってたんですがね」


 何だか寂しそうで、それでいてただただ純粋に謎を追い求めているよう。

 普通の人ならば「気にする必要はない」、「諦めなさい」とでも言うのだろうか。しかし、僕は違うと思う。

 友達や大切な人が変ならば、その理由を知りたい。問題がない、そう分かるまでは聞いてみたいのだ。


「その謎、僕が請け負ってもいいかな?」


 僕はつい、しゃしゃりでてしまった。彼女の想いについ、反応したくなって。


「えっ? 君が? この名探偵さんじゃなくて……?」


 僕は頼りないとでも言われるかのような不安な眼差し。一気に自信が消えていくものの。


「あっ、いや……まぁ、いやだなぁ……そうだなぁ……まっ、そうだね」


 何とか、少しずつでも自信を取り戻そうと意識する。なんたって、やってみなければ分からない。この先何が起きるか分からない。

 失敗するかもしれない。ただ、成功しない未来がないとも限らない。

 この学園喫茶で何とか働けているように。

 少しずつ動き出す。


「ちなみにさ、その謎を解くために彼氏の方の写真も欲しいんだけど、見れる?」

「ええ。それはちゃんと見せてくれました。恥ずかしいからSNSには乗せるな、と矢継先輩は言われてるみたいですけどね」


 A先輩は前髪の無い落ち着いた、まさに陰キャっぽい男だ。僕よりも闇が深そうな。その後に見せてもらった内嶺先輩の彼氏のBはちゃらちゃらした印象を受ける。

 それを見て、僕達は何も思わなかったが。

 雪平だけは違った。


「この人、Aの方はよく来てるな……髪型は変わっているが、間違いない……」

「よく、ですか?」

「ああ、いや、ほとんどいつも、だな。今日も来るんじゃないか?」

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