炎蒸と過冷却W密室事件part.4 灼熱の部室

「暑いでしょ……探偵部の部室もっと、エアコンのある場所貰えなかったの……」


 そうボヤくは秋風コノハ。コノハは狭くて小さな机の向かいに座って、項垂れている。今にも溶けてしまいそうだ。

 かくいう俺、勝俣礼太郎も死に掛けている。コノハの言葉に返すのが面倒だ。ただ無視をして相手をイライラさせれば、更に湯気が湧き出ること間違いなし。


「うう……探偵部はこの狭い使っていない資料室で十分だって……まぁ、二人の部活というか同好会でここまで貰えるんだから、ありがたいだろうって言われたな」

「何も言い返さなかったのー?」

「言い返したら、今頃鶏小屋が部室になってたぞ……?」


 校舎の角にある小さな教室だから校庭もよく見える。そんな窓越しに映っている鶏小屋を指差そうとしたが、動く気力すらなかった。

 顔を突っ伏している机までもが熱くなってくる。今の俺は鉄板の上に置かれたステーキだ。

 内臓は蒸し焼きになっていくだろう最中、彼女が違う話題を口に出す。


「そういえば……そういえば何か拷問器具ってあったよね。ファラリスの雌牛だったかな。中に入れて蒸すんでしょ?」

「今、暑い話題を考えるのはやめろ……せめて冷凍庫に閉じ込められた妄想でもしようぜ……」

「それも嫌なんだけど……で、帰れないの?」

「無理だ。それを許してくれない人がいるんでな」


 コノハは顔を歪めようとしていたらしいが、動かなかった。もう顔の筋肉も自由に動かせない位に参っている。

 一体、誰が俺達に殺意を持っているのか。と思われるだろうが、違う。今日はこの探偵部に依頼人が来るとのことだった。

 俺はクラスの中で部室で来るまで待っているように言われたのだ。コノハはその人物に一つの疑いを掛けていく。


「もしかして、その依頼人が来ないって可能性もあり?」

「探偵部を潰そうという奴の企みかな……」

「よし、業火に落とそう」

「お、珍しくコノハと気が合ったな」


 頭の中には暑さへの苦しみと依頼人への殺意しか籠っていない状態。俺が何とか顔を上げて顔を歪めた瞬間、その依頼人は扉を開けた。


「遅くなってごめんね! ちょっと先生に呼ばれてて! 許しなさいよね! あはっ!」


 コノハも俺もそいつを襲うつもりでしかなかった。当然、その熱意は彼女にも伝わったのだろう。こう呟いていた。


「ええと、探偵部じゃなくって魑魅魍魎ちみもうりょう部だった? 失敬失敬、お邪魔しまし」

「逃がすかっ!」


 コノハが近くにあった鉛筆を放り投げる。逃げようとした依頼人の足元にある床へと刺さっていた。

 カメラを首からぶら下げている彼女は、金髪に青いセーラー服に短髪でとても涼しそうな恰好をしていた。そして俺達のクラスメイトでよく知っている人物。

 菜月カレン、だ。

 コノハは彼女を近くにあった椅子に座らせ、話を聞き始める。


「依頼って何? まさか、今の茶番をやるためにって訳じゃあ」

「それは冗談に決まってるでしょ。って、先にこれ」


 カレンは俺達の前に買ってきたアイスキャンディーの箱を置いていく。こちらに献上されたと言うことで見ていいのだろうか。それとも、こちらの前で自分だけむしゃぶりつき始めるのだろうか。

 彼女の選択次第で俺達は狼にでも獅子にでもなれた。早速、コノハが確認してみせる。


「いいの?」

「いいわよ! 珍しく買ってきてあげたんだから、食べなさいな!」


 と言われたので俺達は野獣になった。グレープ、パイナップルやマスカット味のアイスキャンディーを何本か一気食いして、体力回復を試みる。

 コノハは棒の中に染みた水分まで吸おうとしていたが、俺に見られてすぐにやめていた。「見ないでよ。恥ずかしいでしょ」と顔を真っ赤にしていたのだが。見せられそうになった俺の身にもなってほしい。

 気持ちが落ち着いたところで俺は依頼人であるカレンの目的を聞いていく。


「で、何の用だ? 放課後、探偵部で話があるって」

「恋愛よ」


 胸に手を当てた彼女を見ると、何となく分かる。その恋愛ごとがどういうことか。

 コノハは勝手に予測して告げる。


「まだカレンちゃんには恋愛って子供じゃない? どう見ても憧れのお兄さんにただただ大好きって言うような幼女にしか見えないよ?」

「うるさいわね! って、違う違う! 別にあたしのは今はどうでもいいの!」

「じゃあ、誰の?」


 すると、彼女は立ったまま涼しい顔である人物の名前を口にした。


氷室ひむろちゃんって知ってる? 陸上部のエース、黒髪ロングの氷室実花の噂って」


 コノハは首を傾げている。しかし、俺はその名に心当たりがあった。というか、何回か相談に来た人がいる。


「その子に振られたから立ち直りたいって話を持ってきた同級生や後輩、いや高等部の先輩もいたな……。確か男子からのラブレターは全てシュレッダーにかけたとか」

「少し脚色もあるけど、間違いはないわね。で、その人よ。その人、女の子が好きだっていう噂があるのよ!」


 彼女の平然とした発言に「えっ」となる。下手にこの依頼受けても良いものか。


「そういうの面白おかしくやるのは俺は賛成しねぇぞ?」

「何言ってんの?」

「えっ?」

「応援したいって言ってんのよ! 女の子が好きな女の子でも。その心をハッキリと表現できなくて! 一応、昔のクラスメイトのよしみでもあるし、応援したいなって思ってるのよ!」


 本当だろうか。何だかカレンの話が嘘くさくも見えてくる。クラスメイトのよしみを大事にするタイプの女だっただろうか。からかうような子供だったような気がするのだが。


「本音は?」

「ま、まぁ、ちょっと! ちょっとそういうのを知ったら、情報通として有名になれるじゃない? そしてその話をフィクションとして出せば……みんなが尊いって言って、あたしはいいねを大量にゲットよ!」


 コノハは勢いよく机に頭をぶつけていた。どうやらだいぶ呆れているようで。


「……残念だけど、その話には答えられないわ」


 俺も同意だ。


「ああ……その依頼は断らせてもらう。そんなことをやってもお前以外の得にならないと思うんだが?」


 俺達はさっさと鞄を持って、帰ろうとする。鍵を職員室に返して早く涼しい家の中でゲームでもしよう。

 探偵部は夏季休暇で九月位までは休業してもいいかもしれない。いや、部活は引退の時期だから。来年の春になるまでの長いお休みだ。

 こんな幕切れも悲しいような、しかし仕方がないような。

 感傷に浸っていると、カレンはポツリ。


「これは……ちょっと遠くまで買いに行ったアイスなのよね。ちょこっと値が張るというか……まぁ、勝俣じゃ、手が届かないと言うか?」

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