スンドゥブチゲの甘いアリバイpart.2 相談者

 ただ、何故怪我をしていたのか。考えても分からない事象に対し、心が晴れてはくれなかったのだ。

 食料を持って家庭科室に戻った時、秋風さんに変な誤解をさせてしまった。


「ん? あれ、お金足りなかった?」

「それ、どういう予測なのさ」


 自分はすぐ買ってきたものを見せて、彼女の推測を否定した。彼女は頼まれていたものだと確認し、それらを雪平さんに渡した後で疑問モードに入る。


「じゃ、どういうこと?」

「いや、クラスメイトが……ね」


 あったことを事細かに話していく。昨日はあまり話に本気になってもらえなかったものだから、今回もあまり期待はしていなかったのだが。

 後ろからひょいと現れた人も聞いていたようだ。


「取り敢えずは別に喧嘩とかの類じゃないと思うぞ……。他校の奴等が責めてくる、なんてのは見てないからなぁ」


 勝俣が眠そうな顔をして、背後に立っていたのだ。その首を取らんと、秋風さんは強い形相で睨みつけていた。


「屋上でやっぱ寝てたんでしょ!?」

「いや、ちょっと街の様子を観察してただけだって。こうして不良の侵入はないって分かったからいいだろ?」

「じゃあ、結局うちのクラスの鶴本って子が怪我してたところは見てたの?」

「いや……そこは全く……ただ喧嘩はなかったってだけだ」

「信用できないわよ! 見逃しただけなんじゃないの?」


 と言っても、結局はこうやって口論するだけ。菜月さんに「うるさいよー!」と指摘されて、この話は終わることとなったのだ。

 謎だけが残る状況。ただ菜月さんはこちらの顔も見ず、「だったら、明日聞けばいいじゃん。何きょどってんの?」と。言われる通り。明日、知ればいい話。今、別に真相を知らなくとも僕は生きていける。いや、一生問題はないと思うのだ。


「そ、そうだね……さっさと準備取り掛からないと、だね」

「ええ……ああ、復活したアカウントでもまたこいつ絡んできたじゃないの……! あー、ムカつく―!」

「また凍結させられないように、ね……?」


 僕達は料理の方に集中する。少しだけ手伝いをする。料理自体は少しは包丁を使って手伝える位ではある。雪平さんの綺麗で細やかな包丁裁きはできる気がしない。ニンジンの皮を剥がすのや一瞬。その後のニンジンを僕が切っていいものかと思うも、雪平さんや秋風さんの命によって輪切りをさせてもらうことにした。

 隣で勝俣はやる気がなさそうに、のほほんとエノキや肉を用意している。


「で、これ、何のスープを作ってるんだ?」


 普通の鳥ガラスープかと思うも、何だか思い立ってやるようなことでもない気がする。何かきっかけがあって、何かを作ろうとしているのではないだろうか、と。そう考えた訳だ。

 彼は欠伸を一回挟んだ後に言葉を紡いでいた。


「スンドゥブって料理を作って見たくてな」

「スンドゥブ?」

「韓国料理だそうだ。このスープにプラスして、まぁ、豆腐を入れるのが特徴的だな」


 そう言って、彼は手の上に乗せた豆腐を四等分にしてみせる。


「それだと何か、湯豆腐になるような気はするけれど」

「そこでまぁ、辛くするっていうのが韓国の湯豆腐の特徴かも、な。この後に鍋にキムチも入れる」

「キムチも入れるんだ。って、そうすると辛くなっちゃわない?」

「それをグツグツ煮込んでいるって感じだな。まぁ、普通の店だと熱々の鍋に入れてやるっていうところもあるけど……この学園食堂じゃコンロも少ないし、一回一回出せないから、スンドゥブ風湯豆腐みたいになるって感じだがな」


 秋風さんが今度は調味料を丁寧に入れていく。醤油やごま油を入れて、香りを辺りに漂わせていく。

 この感じがとてもたまらなくなり、お腹が空いていく。

 これとご飯を一緒に食べるのもたまらないかもしれない。ふと見ると、まだご飯の用意はされていなかった。


「……ねぇ、ご飯の用意をしてもいいか?」

「あっ、お願いー!」


 秋風さんの予想通り、ご飯は必要だったらしい。無洗米ではなかったので、懸命に米を研いでいく。家の手伝いで毎回やっていたものだから、問題なし。そう思いたかったものの、冷たい感触に染みていく。

 一応ゴム手袋はしていたものの、それでも変な感触が続いていく。

 それでも、それでもやってみせる。美味しいご飯と一緒に食べれるのか、という自分自身の勝手な考えを元に。

 結果できたご飯はかなり良質なものだった。

 部活終わりの生徒が何人かが入ってくる。それどころか中等部の生徒もやってくる。汗の臭いとこの部屋で充満している、匂いが合わさっていく。ただ先程入れたキムチやにんにくの香りはかなり強烈だ。そんな簡単に匂いが消されてたまるものか。

 そう思って、皆が食べていく。

 料金は前払い制のようで。秋風さんが最初に会計を行って、食券を配る形となっている。となると、ウェイター役は勝俣になり、僕は最初は鍋や器を洗う役となる。その中からやり方をじっと見つめて、次はしっかりウェイターをやれ、とのこと。

 但し「いらっしゃいやせー」と。

 何だかふざけた感じのせいで菜月さんに「お前クビ」と言い渡されていた。


「ええ?」

「ここはあたしがやるわよ! いらっしゃいませー!」


 菜月さんは先程までアンチと戦っていたとは思えない程の満面の笑顔、変わり身で挨拶を始めていた。これはそう簡単にまねはできないが、勉強にはなる気がした。ウェイター、と言うか、人生の。

 そこまで家庭科室が満帆になることはなく。大抵は一つか、二つのテーブルが埋まるか埋まらないかの客の量。

 この様子ならスープもだいぶ余ってしまうだろうと考えていた頃だった。

 僕は廊下から足を引きずって現れた、男の姿を見て息が止まっていた。


「あっ……」


 その男は僕に目が合うと、「あっ」と。


「桜木じゃねえか」


 僕が心配していた、鶴本だった。

 砂埃は振り払ったのか、もうない。

 その代わり、足に包帯を巻いている。動いていいのか、とは思うもののそんなのは関係なしに彼は近づいてきた。


「こんなことやってたのか……。いや、色々と相談を聞いてくれる場所って言うのは噂で聞いてたが、まさか桜木もいたとはな」


 その相談との言葉でつい数秒前まで落ち込んでいた勝俣の顔が上がる。そして彼の前で口にする。


「その相談って言うのは、秘密か……?」

「いや、秘密って程でもないんだが。ちょうど桜木もいるなら、お願いしたいことがあるって感じかな」

「お願い……? まぁ、探偵ではないけども」

「俺を階段から突き落とした人が誰かを聞いてほしいんだ……うちのクラスの鈴見っていう女子生徒に、な」

 

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