推しえて恋路
清水叶縁
推しができたり、好きな人だったり
推しができました。
Vtuberです。しかも、事務所に所属していない個人の。
面倒だから、Vtuberの説明が省く。ネットで調べてくれ。
いやもうさ……なんで、こんなにハマっているんだろうか。
だって、配信者なんだから一般人で大学生の俺が結ばれるわけないじゃん。わかりきっていることだろ。ああ、こういうのって、ガチ恋勢とかリア恋勢とかって言うんだっけ? この二つの単語もわからないなら調べてくれな。
うーん、たぶんあれだ。個人の女性配信者だからだ。事務所に所属している方々よりも距離が近いんだよなぁ。本当に近いんすよ。だってさ、ネット上で通話できたぐらいだぜ? マジでネットとはいえ、お話しできるのってかなりうれしいからね? おそらく、推しの配信者はそこまで意識できていないんだろうけど、ガチで恋するレベルだぞ? ちくしょう……あの人、魔性の女だよ……。自覚あんのかな? あるんだろうなぁ、わかんないけども。
もうさ、片思いに発展しそうで嫌だ。いや、もう片思い状態か……ちくしょう! 嫌すぎるよ! だって結ばれないのわかっていての片思いだぞ? そんなの嫌に決まっている!
もしも、俺のイラストが商業に発展して、推しと関われるようになれたとする。だとしても、ただのビジネス関係なんだろうなぁ。俺と仲良くなろうとか思わないんだろうなぁ……こういうこと考えている自分が心底気持ち悪いなぁ……。
二次元とか三次元とか関係なく、女性の推しができたのは初めてかもしれない。
今までは、女性を見ても可愛いなぁとか思うだけだった。推しができても、かっこいい主人公だったりした。そもそも、俺の推しは物語の男性主人公ばかりだ。その中でも特に推しているキャラがいたりするけど、結局は男である。同姓である。
俺の抱く推しへの感情は、純粋な憧れによるものばかりだ。
今回に関しては違う。推しの個人Vtuberさんに対して、異性としての魅力を感じている。まあ、こういうタイプの推し活をしている人が多いことは知っているけども、まさか自分がそれになるとは思わなかった。
「いやさぁ……配信者として言うことではないんだろうけども、いつかは結婚したいんだよね」
配信で、推しがドキッとする言葉を放つ。
俺以外にもいるんだろうなと思うと、なんか嫌だった。自分以外の人も同じことを思ってほしくない、とかではない。なんというか、有象無象の一人になってしまったことが嫌なのだ。この時点で、推しと俺が結ばれることがないことを勝手に予想してしまう。うん、本当に気持ちが悪いな……俺。
「でも、私って性格がきついところあるから、誰もお嫁さんとしてもらってくれない気がする!」
そんなことはない。どんな性格だって、笑って受け止める……とか思っている自分に嫌気がさす。まだ、そんな夢を見ているのか。落ち着いて自分の感情を分析したときに、あまりに恋への盲目が過ぎているなと感じてしまう。盲目になっていることに気がついた時点でブレーキがかかればどれだけ良いことか。生憎と、俺はとことん盲目になってしまうタイプらしい。
推しの配信に夢中になっていたら、電話がかかってきた。
最近、ネットで仲良くしていた女友達からだった。どこかのタイミングで連絡先を交換していたんだっけな。週に一回は通話をしているぐらいには仲がいい。でもまさか、今いきなり電話を掛けてくるとは思わなかったけど。
「もしもし、どうしたの?」
とりあえず、電話に出る。
お互いに顔を知らない。そんな状況下で、よく連絡先など交換したものだ。本当に、いつ交換したんだっけなぁ。まあ、どうでもいいか。
「もしもし! ありがと、電話に出てくれて!」
「うん、まあ……それで、何か用事でも?」
「いやあ……ちょっとお話しできればうれしいなぁ……なんて」
配信を切る。いくら推しの配信だからって、通話中に見るのはダメな気がした。失礼な気がしたのだ。
「いいよ、俺で良かったらいつまでも」
「本当に!? やた!」
なんとなく、もうわかっている。
彼女はきっと、俺のことが好きなのだ。
さすがにここまでされると、どんなに鈍感な自分でもわかる。基本的には、人からの好意には鈍い。しかし、この子はすごく素直に感情を表現してくれる。だからこそ、わかりやすい。
「それでね! それでね!」
この子に告白されたら、断らないだろうな。ていうか、俺から告白していることもあり得るのか。
推しへの好意は、実ることはない。
それがわかるからこそ、もっと身近な相手と結ばれることを望む。そのはずだ。でも、なんだろう。すごくモヤモヤする。彼女と結ばれた方が、幸せなはずだ。それなのに、女性配信者の方が気になってしまう。結ばれるはずがないのに。
「そしたらさ……」
「なあ」
「ん、どうしたの? ていうか、私ばっかりしゃべり過ぎだよね! ごめんね!」
「ああいや、それは別にいいんだ。ただ、なんとなく聞きたいことがあって」
「ふむふむ、言ってみなさい」
ちょっとお茶らけた態度でいてくれるのはありがたい。
遠慮なく、聞いてみることにした。
「推しを好きになったことってある?」
「え? 好きだから推しなんじゃないの?」
「聞き方が悪かった。推しを異性として好きになるって意味」
「ほう……」
「な、なんだよ」
「なるほどねぇ」
何かを察したかのような感じを醸し出してくる。
なんか、嫌な感じだ。
「かけるくん、推しに恋しちゃってるんだぁ」
バクンッ! と心臓が跳ね上がる感じがした。
「な、ななな」
「え、わっかりやす」
「ち、ちげえから! 推しに恋しても意味ないからしないに決まってるだろ」
「なんで?」
「え?」
「どうして、意味がないって言いきれるの?」
なんか、すごく意味のある問いを出されている気がする。
とりあえず、自分なりの答えを言ってみる。
「だって、結ばれることはないじゃんか」
「でも、心臓はドキドキするでしょ?」
「恥ずかしながら、します」
「今も、その人のことを考えるだけで、ドキドキするでしょ」
「するなぁ」
「それでいいんじゃない?」
どういうことだろう? ドキドキするのは、すごく苦しいじゃないか。それだったら、苦しくない方がいいに決まっている。
「というと?」
「だって、恋でドキドキするのって楽しいじゃん」
「楽しい? こんなに苦しいこれが?」
「その苦しみって、人生でなかなか味わえない人もいるんだよ?」
言われてみればそうか。
自分だって、ドキドキを味わっているのは片手で数えられるほどしかない。
「もう少し、自分のことを受け入れてあげたら?」
その言葉は、今の自分にピッタリな気がした。
推しえて恋路 清水叶縁 @haruharu_432
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