あの子と、私と、ビー玉と。

ひらはる

プロローグ

 涼しい風がひゅるひゅる、どこか渦をまくように私のそばを通っていく。


(なんだか今日は冷えるなぁ)


 高校から家へと続く道を歩いて、数十分。小学校の前を通り過ぎたところの田んぼのあぜ道に差し掛かる。


 リーン リーン リーン リーン


 鈴虫の声が聞こえてきた。

 もうそんな時期かと、ぼんやりとする頭で考える。


(そういえば、もこの道で鈴虫の声が聞こえていたっけ)


 スカートのポケットにいれていた小さな巾着袋を取り出す。

 小さな巾着袋には、あの時、にもらった『透明なビー玉』が入っている。あの子と再び出会えるよう、願掛けも兼ねて肌身離さず持ち歩いているが、再会どころかあの子と再び出会える気配さえない。


(来年からは一人暮らし。この道を通ることも滅多になくなる。……それまでに一度でも、再びあの子に出会えたら……)


 リーン リーン リーン リーン


 さっきよりも側で鈴虫の声が聞こえた。すぐに辺りを見渡したが誰もいない。

 肩を落として空を見上げる。日が傾き始めていた。

 『透明なビー玉』を入れた小さな巾着袋をそっと撫でてからポケットに戻す。

 暗くなる前に帰らなければならない。足早にあぜ道を歩く。


 リーン リーン リーン リーン


 私の後ろから鈴虫の声が聞こえた。振り向いてみるが、やはり誰もいない。


(あぁ、私はずっと忘れられないでいるんだ……)


 十年ほど前ののことを、そこで出会ったのことを——

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