第3話 禁欲リセット

「うわぁぁっ!?」

 バチバチと火花を散らす机。コンセントが黒焦げに焼け、壁にはひびが走る。

煙が立ち上り、臭いが鼻を突いた。

 けれどもちろん、起きた時に、自分の手に雷が落ちたなんて考えもしなかった。


 その数秒後——


「なに!?今の音!!」

「蓮!蓮ーっ!!」


 1階から、母さんと父さんの叫び声が聞こえてきた。階段を駆け上がってくる足音がして、扉が勢いよく開いた。


「うわっ……なんなの、これ……雷?」

「うちに……雷が落ちたのか!?」


 両親は部屋の惨状を見て呆然としていた。

 その両親の言葉を聞いて、あぁ、この惨状は雷か、と思った。

 そして、自分の右手を見て、まさか…と思った。

 当然だが、両親はまさか俺が原因とは、夢にも思っていないらしいかったが。


「ちょっと、電気がつかないわ!」

 母さんの声に、父さんが慌ててブレーカーのある玄関横へ向かった。


「ブレーカーが……焦げてる……」

と、しばらくして戻ってきた父さんは顔面蒼白だった。


 それから、俺と両親は一緒に外へ出た。

 ふと見上げると、テレビのアンテナが屋根から落ち、地面に突き刺さっていた。

外壁の一部が焦げ、黒ずみ、そしてヒビが入っていた。


「雷が直撃したのか……こんなことあるのか……?」

 父さんは完全に自然災害だと思っている。


 一方で、俺は手をポケットに突っ込み、内心で青ざめていた。

——完全に、俺のせいだ。


 家に戻ると、母さんが妙に落ち着いた声で言った。


「……とにかく、蓮。あんたは学校、行ってきなさい」


「えぇ……!?家こんなことになってて学校なんて無理だよ!」


「なに言ってんの、あんたがいたってどうにもならないでしょうが。

お父さんといろいろ連絡してなんとかするから。さ、着替えて!」


と、有無を言わせぬ母の圧。俺は制服に着替え、手にハンカチを握って登校した。



 学校に着くと、やたら視線を感じた。教室に入ると、ざわざわと人が集まってきた。


「真中んち、やばかったらしいよ!雷落ちたんだって」

「えっ、あのへん晴れてたんじゃ……?」

「隣のやつが見たって!壁焦げててさー、アンテナ落ちてたってさ!」


 俺は苦笑いしながら言った。


「まぁ……なんとか大丈夫だった!」


 みんなは「無事でよかったよ!」と去っていったが、その中でひとりだけ、真司が真っ青な顔で近づいてきた。


「お前……まさか、あの雷……」

「たぶん……」

俺は頭をかきながら答えた。


「お前、禁欲日数が増えるごとに能力、強くなってないか?」

「確かに。3日目は炎がちょっと出るくらいだったのにな……」


 真司は顔をしかめて言った。


「……悪いことは言わない。いますぐ抜こう。家族とかに何かあったらヤバいぞ、マジで」


 俺は、その言葉にうなずくしかなかった。

「確かにな……」


 正直、冗談を言う気力もなかった。だから、俺はトイレに向かって、禁欲生活を終えた。


 ちなみに、最高に気持ちよかった。毎日してた頃とは比べ物にならないくらい。


 その後、俺は真司のもとへ戻った。


「ちょっと、能力消えたか、試してみるわ」

 手をかざそうとしたその時


「待て待て待て!!」

と真司が止めた。


「お前、ここで試して雷落ちてきたらどうすんねん!!」

「逆に、これぐらい広い建物の中じゃないと安全だろ!?」


 そう言って、俺は手を伸ばして、力を入れた。


 しかし、なにも起きなかった。

 沈黙が流れたあと、真司が叫んだ。


「おお!能力、なくなってるな!!」


 俺たちは顔を見合わせて、バンザイした。

 正直、心の底からホッとした。


 もう、これで終わりだ。日常に戻れる。そう思っていた。


 だが、家に帰ると、玄関の前に、警察官が二人、立っていた。


 そして、俺の顔を見るなり、

「真中蓮くんですね?」

と駆け寄ってきた。


 俺の背筋が、凍りついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る