第2話 異能ルーレット
「禁欲して、手から炎が出るなんて聞いたことないわ!」
真司は腹を抱えて笑っていた。もう、げらげら、ほんとに声出して。
俺はその横で、膝を抱えてへたり込んだ。
「笑い事じゃないぜ…」
炎を出してしまった右手をじっと見つめながら、俺は小さく呟いた。
ここは、町外れの橋の下。
夕方で人通りもなく、セミの声がどこか遠くに響いていた。
誰にも見られたくなかったし、家族には言えなかった。
だって、「禁欲してたら手から火が出ました」なんて、どう説明すればいい?
そんな恥ずかしい話、唯一できるのは——この親友、真司しかいなかった。
なのに。
「なぁ、蓮。マシュマロ買ってきたぞ」
と、真司は袋からふわふわのマシュマロを取り出した。
「蓮、炎出してくれよ。これ炙って食おうぜ!」
「……あほか、いやだわ」
「ケチ〜!」
最悪だ、この男。人の深刻な相談をキャンプ気分で楽しみやがって。
でも、結局、俺は根負けして、ちょっとだけ手のひらを集中させた。
ボッ……
オレンジ色の炎がふわりと立ち上った。
真司は「おぉぉ〜〜!!」と少年のような声を上げて、マシュマロを串に刺し始めた。
……そして、俺たちは、二人きりで、炎でマシュマロを炙って食べた。
思ったより、うまかった。
でも、数分後——
突然、炎がふっと消えた。
「あれ……?」
「もうエネルギー切れなんじゃね? あーあ、残念」
「……そんな軽く言うなよ……」
なんとなく不安が消えて、俺は少し安心した。
真司と別れて、自転車を漕いで家に帰った。
だが——翌朝。
「うわっ!?」
目が覚めた瞬間、手を伸ばした俺の手のひらから、水が噴き出した。
シュワァァッと、まるで蛇口のように勢いよく。
ベッドが、布団が、びっしょびしょになった。
「ちょ、ちょっと待て!なんだこれっ!?」
右手を抑え、立ち上がって、俺はパニックになった。
手はもう濡れて冷たくなっていて、目の前には水たまりができていた。
その時、下の階から母さんの声がした。
「蓮!朝ごはんできてるわよ!」
無理だ。もう無理だ。何が起きてるかわからない。
でも、考えてる暇もない。俺はそのまま制服に着替えて、バレないようにハンカチを強く握って手のひらを隠し、朝ご飯をかき込んで、学校へ行った。
学校について、教室で、真司に全部話した。
今朝の水のことも、ベッドがびしょ濡れになったことも。
この話を聞いて、さすがの真司も顔を曇らせた。
「おい、それやばいって。病院行こうぜ。絶対なんかの病気だって」
「そうしようかな……」
でもその時、真司の目がギラッと光った。
「というか、一回抜いてみようぜ。それで手から何も出なくなるか確かめよう」
「は!?なに言って……」
「だってお前、前は毎日やってただろ?一回でいいじゃん、一回」
「いや……それは嫌だな」
「なんでだよ!?」
俺は目を伏せて、小さく言った。
「いま、4日目なんだよ。ここまでくるの、結構大変だったんだよ。今抜いたら……もう、戻ってこれん」
「こいつ、あほかよ。自分の身体がやばいことになってるかもしれないってのに……」
「いま、禁欲して睡眠の質もすごい上がっていて、肌艶もいいんだよ!俺は禁欲を続けて、絶対に先輩に告白するんだ!」
真司は呆れた顔をしていたけど、俺の気持ち、少しは理解してくれた……と思いたい。
しかし、翌日、禁欲5日目、そうも言ってられない事態になった。
目が覚めて、俺が伸びをしたとき、ピカっと部屋中の窓が光に包まれたと思ったら、ドドドドド!という音がして、視界が真っ暗になった。
そう、俺の手に、雷が落ちてきたのだった。
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