第2話 小さなストーカーなのじゃ

 黒歴史をネットに刻まれ、それを俺しか知らない日常が始まった学校の一限目論国、いつもながら頭に入って来ないぜ。

 しかし俺のあの能力は一体なんだ?


 三種類の変身先があって、各々に能力が存在する。

 魔法少女姿で体が勝手に動き、止まれと変身を願ったら魔王になって⋯⋯敵をワンパン。

 ネットに拡散され世界的に広まった。

 魔法少女は動画に映ってないから、本当に幼女がいきなり現れた感じになってる。


 こうなっては隠す事も無い。

 俺の幼い頃の夢はヒーローだ。社会的に認められたヒーローだ。

 

 能力を使って犯罪をする者を怪人と呼び、能力を持った獣を怪獣と呼び、人間と怪獣以外の能力を持った存在を怪異と呼ぶ。それらをまとめて怪物と呼ぶ。

 怪物と戦うのがヒーローだ。


 だが俺はその夢を諦めていた。

 歳を重ねる程に後天的に能力に目覚めにくくなると統計が出ていたから。

 だが、昨日? 今日? の深夜に俺は能力を得た。

 夢に近づけたと思った⋯⋯そしたらアレだよ。

 天国から地獄に落とされた気分だ。


 まだ分からない事が多過ぎる。

 そもそも俺はなぜ市役所でちゃんと国に報告しなかった。

 後天的な能力は何が起こるか分からないからベテランなヒーローが傍にいて検証しないといけないのに。

 深夜テンションとは言えど冷静になっとけよ。

 能力に目覚めた事も深夜テンションに拍車をかけたのかな。全部言い訳だけど。


 はぁ。まじでどうしよう。

 能力は報告するのが義務だ。いずれ行こう。

 そうだな。魔王の名がネットから消えた辺りで。

 ごめん、お父さんお母さん。こんな息子で。


 さて、気を取り直してちゃんと何が出来るかを把握するために急いで家に帰りたい。

 七緒は部活でおらず、帰りは春夏と一緒だ。


 電車の中、春夏の隣に座ってスマホを眺める。


 「ねぇ。今日は本当に大丈夫? 今日ずっとスマホ見て難しい顔してたよ」


 「いつもこんな顔じゃない?」


 「⋯⋯そうかも」


 「冗談だよ」


 お願いだよ否定してよ。俺の味方君しかいないよ。

 だから深刻そうな顔で肯定しないで。


 ⋯⋯スマホか。

 チラッ。


 『魔王の次の活躍はいつか!』

 『リフェル様、僕のお尻を踏み踏みしながら罵って欲しいのじゃ』

 『強すぎる。ヒーローのバランス崩れる』

 『これは他国も黙っていない』


 『これどんな気持ちで言ってるんだろ』

 『はい。我らが愚民です』

 『愚民を導きたまえ魔王様』

 『税金下げて。保険金下げて』


 などなど⋯⋯思い出すだけでも気が遠くなる。

 しかも能力で体に変化がある事は良くあるので角に対してツッコミが無い。


 「ま、大丈夫だ。俺に異常は無い」


 能力は異常事態に入らないよ。多分ね。きっと。


 「そう? 何かあったらすぐに言ってね。助けになりたいから」


 「お弁当だけで凄く助かってるよ。いつも美味しいしね」


 「そう? それなら⋯⋯良いんだけどね」


 はにかむような笑みを浮かべて窓の外へ顔を向けた春夏。顔を見られたくないらしい。

 窓に反射した頬を赤らめた春夏の顔はお人形のように綺麗だった。

 春夏は照れ屋なので褒めるとすぐに頬を赤らめる。

 

 幼馴染特権でよく一緒に帰っているが、春夏と共に登下校をしたい野郎共は多い。

 はっきり言おう。俺と違って春夏はモテる。性別問わずな。

 だから俺もこの関係に甘んじて良いものかと悩んでいたり悩んでいなかったり、あるいは全く何も考えていなかったりする。


 俺達は途中で別れ、俺は自分の家へと帰った。

 すると、家の前でうろちょろする小学生がいた。

 とりあえず小学校に連絡か? それとも警察か?

 警察だと小学生を不審者として扱ってくれないかもしれない。


 どうするか、と考えながら家の中へと向かう。


 「あ、あの!」


 おいおいマジか。

 お兄さんがいくらイケメンだと言えど小学生にモテる日が来るとは。

 俺氏人生初のモテ期か?

 全く困っちゃうな。やれやれだぜ。


 俺は爽やかな全力の笑顔を浮かべて返事をする。


 「何かな。迷子?」


 俺はしゃがんで目線を合わせながら口を開く。

 さぁ。爽やかお兄さんだよ。ほれほれ。

 ちょっと、どうして数歩後ろに下がりながら戦闘の構えを取るのかな?


 「えっと。妹さんでしょうか。今日のニュースに取り上げられていた。史上最強の魔王リフェル様にお会いしたくて来ました!」


 「ゴフッ」


 おっと危ない。

 あやゆく黒歴史を思い出して悶絶した力で吐血するところだった。


 「そんな子ウチには居ないよ。そもそもそんな子この世に居ないよ」


 「⋯⋯いるもん!」


 あ、泣いちゃった。

 でも実際、この世に居ないんだけど。


 「リフェル様はこの家にいるもん。帰ったんだもん。私の能力でちゃんと追っかけたもん。⋯⋯途中で消えたけど」


 コイツ能力でストーキング出来るのかよ。

 絶対警察とかに重宝される有能な能力に違いない。良かったね将来安泰だ。

 無能力者は昔のように努力しないといけないが能力者は最悪遊んでいても能力次第では職業にありつけるよやったね。


 って現実逃避している場合では無い。

 この子の能力は多分相当に凄い。

 だって実際に住所特定されたもん。


 「一体どんな能力なのかな? お兄さん気になるな」


 ほんと気になる。

 少女は震えながら答える。


 「知らない人に能力を言っちゃダメだってママが言ってたもん」


 「一人で勝手に他人の家に凸するのも良くないって教わらなかったんだね」


 「おじさんって性格悪いね」


 「ごめんね!」


 俺は家に帰った。

 制服着てるのに⋯⋯おじさんって。


 「仕方ないの。ほとぼりが冷めるまでと思ったのじゃがな」


 あんな子にうろつかれたら春夏が黙っちゃいない。あの子正義感強いから。

 ここはいっそ羞恥心を殺して魔王ムーブと行こうか。

 体が勝手に動いてくれても良いが、そうはならなかった。


 「くのじゃ」


 俺は窓から出て少女にバレないように遠くからゆっくりと接近する。


 「リフェル様!」


 ぱぁあっと明るい笑顔を浮かべてトコトコと寄って来る小学生。

 おいおい目線が同じじゃないか。俺も小学生だな。


 「リフェル様! どうかお話を聞いていただけないでしょうか」


 さぁ言え。言ってしまえ。

 だが断る⋯⋯と!


 「妾は面倒事は嫌いなのじゃ」


 ん〜もっと直球で良くない?

 そのまま考えた事を口にできないって不便だな。

 

 「学校の怪奇現象についてです」


 ちょっと気になるな。


 「良い。話すのじゃ」


 あ、勝手に口が動いた。

 結局小学生の話を聞く事になってしまった。このポンコツ魔王め。

 はぁ。こんな見た目だからまだセーフだが⋯⋯赤の他人の少女と話す男子高校生ってぶっちゃけヤバイよな。


 「私、田中利冴たなかりさえって言います。利冴とお呼びください!」


 「よかろう。して、怪奇現象とはなんじゃ?」


 やめて。

 小学生相手に偉そうな態度しないで!

 シンプルに恥ずかしいっ!


 「はい。実は最近、私の学校で女子の体操着やリコーダーから異臭がするんです。きっと怪異⋯⋯お化けの仕業です! どうか魔王様のお力で何とかしてくれませんか!」


 小学生らしくお化けって言い直したな。

 今の社会ならお化けとか普通にいるだろうな。


 「怪異と戦うのはヒーローの役目じゃ。昔と違うんじゃよ。ヒーローは単語でも称号でも、ましてや架空の仕事でも無いのじゃ。立派な現実の仕事じゃ。頼るのならこの魔王では無く相応の場所があるのじゃよ。分かったらとっとと帰るが良い。妾は寛大ゆえ今日の無礼は見逃してやるのじゃ」


 無礼ってなんだよ。寛大ってなんだよ。

 ただ面倒だから断りたい、そもそも怪異ならヒーロー頼れって内容を説教っぽく言ってるだけやろ!

 俺の喋りたい内容をリフェル式の言葉に変えるなよ!

 変わるのは口調と語尾と一人称だけで良いだろ!

 

 何してるんだ俺は!

 自分の体(?)が勝手に動いて喋って心の中でセルフツッコミ! 疲れるわ!


 ああ!

 心中漫才してると余計に恥ずかしい。

 かと言ってどこかに発散出来るところも無い。もどかしいっ!


 何よりもめっちゃ真剣な利冴の顔が俺の良心にグサグサ刺さる。


 「ヒーローは⋯⋯怪獣退治で忙しいって相手にしてくれない」


 利冴は悲しそうに俯く。


 「幼子の戯言として門前払いじゃな」


 「だから、あんなに強くてヒーローじゃないリフェルなら何とかしてくれるかもって⋯⋯」


 ああ、また泣いちゃった。

 でも今回泣かせたのは俺じゃないからな。

 あれ? この子⋯⋯いつの間にかメッキが剥がれたな。


 「嘘じゃないもん。本当に変な臭いがするんだもん。皆困ってるんだもん」


 それを俺に言われても困るよ。

 こっちは能力に目覚めたばかりでろくな制御が出来ないんだから。

 それに大人でも無いし。見た目も中身も。


 「妾は魔王じゃ。逐一愚民の言葉に耳を傾ける必要など皆無じゃ。身の程を知ると良いのじゃ」


 キッツ。言い方キッツ。


 「私には魔王に願いを申す事すら許されないんですか」


 「冴えておるの。妾は今宵も妾の成すべき事があるのじゃ。子供の戯れに興じてやる時間など⋯⋯この世のどこにも存在せぬのじゃよ」


 ねぇ。なんか性格悪くない?

 俺そこまで思ってないよ?

 そりゃあ体操着なんて使って洗濯しないなら汗で臭くなるだろうとか、リコーダーも唾とか息とかで臭くなるんじゃね? とか思ってるけどさ。

 そんなバッサリ切る言い方しないよ?


 「⋯⋯そう。分かった。ならもう頼らない! 何が魔王だ! 結局力をぶら下げて権威を振り撒く社会の怪物と一緒じゃないか!」


 おいおい。リフェルも悪いと思うが、いきなり来て自分の思う通りにならなかったらそれか。

 ⋯⋯まぁ、小学生ってそんなもんか。

 許すのが大人だ。俺はおじさんらしいから許すとしよう。


 利冴は泣きながら走って行った。

 利冴はヒーローがあまり好きでは無いらしい。

 俺は変身を解いた。

 

 ⋯⋯社会の怪物か。


 「確かに。ヒーローは能力を使っている。その点をいえば怪物と何も変わりないな」


 過程は同じでも行いが違えば意味や役職が変わる。

 それがこの世界だ。


 「はぁ。胸糞悪いな。子供を泣かせるとか、男のやる事じゃねぇよ」


 だが俺にもやるべき事がある。

 部屋に戻って変身先の名前と性格、能力の把握に勤しむとしよう。

 魔王ムーブは様々な方面で俺の心を傷つけるのでもうしたくない。





◆あとがき◆


一話に対して沢山の♡や‪☆ありがとうございます! とっても嬉しいです!

魔法少女ちゃんとサキュバスさんの出番はもう少し先です!



追加(2025/05/19)

田中理恵を田中利冴(りさえ)に変更致します

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