巷を騒がせるのじゃ系自称魔王のロリヒーローが俺だと誰も知らない〜夢の能力なのにTS前提能力のせいでネットのおもちゃにされて黒歴史製造機な件について〜

ネリムZ

第1話 史上最強の魔王が降臨なのじゃ!

 「うわあああああ!」


 熱い!

 ⋯⋯数秒死ぬほど熱かったが収まった。

 全身が光に包まれたこの現象⋯⋯これは病気では無い。


 「能力に⋯⋯覚醒したっ!」


 生まれながらにして持つ者、後天的に覚醒する者がいる能力。

 俺も能力者になったのだ。

 能力は自然に完璧に使えるモノじゃない。徐々に訓練したり使ったりして理解を深めて行くのだ。


 「今は深夜だが俺の両親は出張先で仲良く寝泊まり! よって俺は今この家で一人! 騒いでも近所迷惑になるだけだ!」


 深夜テンションで俺は鏡の前にやって来て、どんな能力なのか確かめる事にした。

 火とか出す能力だったら室内で使うのはぶっちゃけ危険だ。

 と言うか後天的に能力覚醒した人が独断で能力行使は本来褒められた行為じゃない。


 だが今の俺は深夜テンションかつ寝惚けている。

 超危険な状態で能力行使を試そうとしていた。

 許せとは言わない。だが反省もしない。

 後悔は⋯⋯したくないけど。


 「さて、一体どんな能力なのか。まずはどうやって使うかだ」


 例えば念じてみる。

 能力よ、出ろ出ろ〜。


 「おお! 目線が下がって⋯⋯」


 鏡に映る幼女がいる。

 黒いフリフリのゴスロリに長い銀色の髪に真っ赤な瞳。

 しかも頭から2本のご立派な角が生えている。


 「なんなのじゃこの姿は。それに声も⋯⋯ん? 妾の口調おかしくないかの?」


 妾?

 俺の一人称はいつからそうなったんだ。


 「おかしかろう。違和感しかないのじゃ! キモイのじゃ! のじゃのじゃやめろなのじゃ!」


 ダメだ。

 俺の体なのに全く制御が利かん。

 どう言う事だってばよ。


 「他にはないのじゃ?」


 角の生えた幼女になるだけの能力ってクソ嫌なんだけど。

 能力者になったら幼い頃の夢が叶うと思ったのに⋯⋯これじゃダメだろ。

 他に⋯⋯他には!


 「おお、身長が!」


 伸びた。俺よりも少し低いが女子高生並にはなったぞ。


 「⋯⋯なにこの姿!」


 肩とボディ丸見えのフリフリ衣装⋯⋯魔法少女のようだ。

 ツインテールの紅色の髪と瞳。熱血系魔法少女だ。


 「私が一体何したって言うのよ。あ、また一人称変わってる! と言うか衣装がどうして変わるの!」


 ほ、他には!

 お、今度は俺よりも身長が高い。


 「あら」


 容姿端麗、スタイル抜群。

 中々にエロ⋯⋯じゃなくてセクシーな衣装を纏った黒く長い髪と瞳。

 胸のサイズも今までの中でダントツにでかい⋯⋯グラドルも指を噛んで妬む程だ。

 何より特徴的なのは翼と先端がハートの尻尾だろうか?


 「あら。ちゃんと飛べるのね」


 妖艶な雰囲気を纏うサキュバス⋯⋯と言ったところか。

 ふむふむ。


 「いえいえ。どうして3種の変身形態を持ちながら全員女性なのかしら」


 小中大って感じだし。

 先程の説明と矛盾するようだが⋯⋯なぜ俺は平然とこの体で飛べているんだ。

 飛べる?


 「もしかして体毎に能力があるのかしら⋯⋯なら調べてみる必要があるわね」


 まずはこのサキュバス。

 サキュバスと言えば魅了だが⋯⋯これは試すに試せんな。


 「ん〜サキュバスって考えたら何をすれば良いのかしら?」


 胸を揉むか?

 こんなに大きく形も綺麗なのに揉まない選択肢が男子高生にあるのか? いや無い。ある訳無い!


 「⋯⋯冷静になりなさい私。これに触れてしまえば私は私である事を認めてしまうのよ⋯⋯あぁややこしいわね。一人称程度なら好きに変えさせてくれても良いじゃないの」


 あと口調も!

 なのに中身は男だ。

 俺はさっきから鏡に映る綺麗な谷間へと視線が動いてしまう。

 制服とか⋯⋯もっと露出の少ない服装にならんかね?


 「なりましたわ」


 チャイナ服。メイド服。ナース。スーツ、ビキニ、裸体。


 「ひやああああ!」


 俺は魔法少女スタイルへとなった。


 「あ、あれは目に保養⋯⋯じゃなくて毒だね」


 魔法少女衣装の他には⋯⋯あれ?


 「イメージしても服が変わらない。あれはサキュバス形態の能力なのね」


 つまり俺の理想の黒髪美女に変身し放題って事だな!

 なんか虚しいと言うか悲しいと言うか。


 ――助けて――


 「ん? 何、今の声」


 遠くから聞こえた助けを求める声。

 気のせいか。


 「行かないと」


 え?

 今俺、なんて言った?


 俺は窓をガバッと開けて、そこから飛び出す。

 魔法少女衣装、ちゃんとヒールを履いている。


 いや待て。

 冷静になるな。なんで勝手に体が動いているんだ!


 「どうなってんのよおおおお!」


 しかもこの体⋯⋯凄く⋯⋯軽い!

 屋根の上をぴょんぴょん動いて進む。

 漫画の忍者のようなスピードだ。速い。

 家の漏れ出る光が高速で動いている。


 「何⋯⋯あれ」


 巨大な岩の龍のような怪獣が数多くのヒーローに囲まれて戦っていた。

 怪獣は能力を使う獣の怪物を表す言葉⋯⋯。

 龍だから怪獣と言うよりも怪異か。

 怪異は怪獣以外の能力を使う怪物だ。


 炎を龍に放っているヒーロー、彼は俺が憧れる日本で有名なヒーローだ。

 強く優しい戦士⋯⋯その人が苦戦するレベルの怪異。災害じゃないか。


 「私が戦わないと。助けを求めている人がいるなら助ける。それが魔法少女の責務だ!」


 そんな責務は知らん!

 それは怪物と戦うヒーローの役目だ!

 変身しろ変身しろ。

 制御の出来ないままじゃ本当に危険だ。


 何とかなれー!


 「なったのじゃ!」


 って違う!

 のじゃ系ロリっ子じゃない!


 ゴロゴロと転がって気づいたら違う奴に変身していた。

 急いでこの場を離れて逃げなくては。

 あんなでっかい怪異なんて危険すぎる。


 「何してるそこの娘!」


 誰かの声が響いた。


 「ん?」


 俺の目の前に巨大な龍の頭があった。

 うん。敵の目の前にいた。

 オワタ。死んだ。ごめんお父さん、お母さん。


 「ぐるあああああ!」


 「危ない!」


 龍の炎のブレスが俺を包み込んだ。

 完全に死んだ。


 ⋯⋯あれ?

 熱くないぞ?


 「いった⋯⋯この程度妾の敵にすらならんのじゃ」


 おい待て俺。いや俺?

 何を言っているんだ。

 なんでまた体が勝手に動いている。

 どうして殺意を向けて来た相手に殺意を持って戦おうとしている!


 「ぶ、無事なのか」


 「トカゲよ。妾に敵意を向けたな」


 ヒーローの言葉をガン無視?!

 俺は龍に向かって指を向けた。


 「妾を誰だと心得る!」


 知らねぇよ!

 龍がブレスをもう一度放ち、また包まれた。

 視界が真っ赤だ。怖ぇ。


 「ぎゃああああ! イタイ気な少女がまたブレスに呑めれたあああ!」


 ヒーローさえもこの状況に冷静になれず子供を助けると言うヒーローとして当たり前の行動が取れていなかった。

 だが安心して良い。俺も分からん。なぜ俺は無事なんだ?

 そしてどうしてこうも自然に立っていられるんだ?

 ビビり散らかして逃げている自信しか無いのに。


 「くだらんのじゃ。妾は今世紀最強の魔王リフェル! 世界よ、震撼するのじゃ!」


 バッと手を広げて恥ずかしい自己紹介をする。

 うん。本当に恥ずかしい。死にたい。

 周知を通り越して無になって来た。


 龍は再び攻撃しようとして来る。


 俺は理解した。あいつの攻撃は通用しない。

 なら俺の攻撃はどうだ?

 だが何が出来るか分からん。


 能力に目覚めた喜びと制御出来ない混乱で頭の中ぐちゃぐちゃだ。


 まずは近づくか。

 俺は『一歩』進んだ。


 「のじゃ?」


 たったの一歩だ。

 なのにどうして⋯⋯どうして目の前に龍さんがいるのでしょうか。

 幼女の一歩って数メートルを埋める程にでかいっけ?

 ブレスを間近で受けるのは嫌だ!


 俺は否定の意味を込めて拳を前に出した。

 ジュドン、まるで何かが破裂したかのような空気を揺るがす音がした。


 「⋯⋯ふっ」


 えええええええええええ!!


 『ええええええええええ!!』


 俺とヒーロー達の感想が一致した。

 俺が突き出した拳が⋯⋯龍を粉砕して吹き飛ばしたのだ。

 置き去りにされた足から大量の血が垂れ流れている。骨も見えている。


 「⋯⋯くくく」


 もう。分からん。何も分からん。

 きっとこれは夢だ。夢なんだ。

 夢だったら⋯⋯何しても良いよな?

 夢なら、なんでも出来るもんな!


 「くっはははは! 見よ世界! 今宵妾はこの世へ降り立った! 史上最強の魔王、リフェル! 平伏せよ愚民共! 頭を垂れろ怪物共! 妾がこの世の頂点じゃ!」


 ワーハッハッハ!

 と夢の中なので笑ってみた。


 後は飛んで帰るだけだな。

 お、飛べた。

 重力を全く感じない。なんか浮力を感じるぜ。


 「さらばじゃ!」


 俺は家に帰り、元の俺に戻って寝た。

 夢から覚める時だ。


 おはようございます!


 「昨日は面白い夢を見たな」


 深夜だから今日か? ま、良いか。

 鏡の前に立つ。


 「ふっ。妾の名はリフェルっ!」


 ふっ。単なるノリだよ。⋯⋯学校行くか。

 ん?

 

 適当にポーズしてセリフを零したら⋯⋯なんかリフェルに変身していた。

 そっか。夢じゃなかったんだな。

 つまり⋯⋯あんな愚民共とか⋯⋯口にしちゃった訳ね。


 「はは。死にたいのじゃ」


 俺は俺に戻り学校へ向かう。

 近くの家に住む幼馴染と合流する。


 「リン、おはよう」


 「おはようハル」


 青髪ツーサイドアップの似合う上条春夏かみじょうはるかだ。

 ちなみに俺の名前は 神谷琳寧かみやりんねである。


 「はい。今日の弁当」


 「いつもありがとう。すげー助かってる」


 「うん。私もいつも綺麗に食べて貰って嬉しい」


 俺の両親はいつも仕事で忙しく、コンビニ弁当ばかりを食べていた。

 そんな不健康な生活が見てられなかったのか、春夏はお節介を焼いてくれている。

 俺はそれに甘えて学校の度に弁当を作って貰っている。

 春夏は幼馴染の贔屓目無しで美人だ。学校の連中に知られたら俺は殺される自信がある。


 電車に揺られ数十分、学校の最寄り駅で降りて数分歩くと高校からの親友と合流する。

 肩まで伸びているウルフヘアーの桃色の髪が特徴の 七瀬七緒ななせななおだ。


 「おはよう二人とも! 親愛なるボクがやって来たよ〜」


 「おはようナナ」


 「おはよう」


 「ねね。二人ともこのニュース見た?」


 七緒がスマホのネットニュースを俺達に見せて来る。


 『ヒーローが大苦戦した災害級の怪異をワンパン! 突如として現れ颯爽と消えた自称魔王の少女は一体!』


 オロロロロロロ。


 「昨日の深夜にそんな事があったんだ」


 「うん。ハルのとこから近くないここ?」


 「車で数十分はかかるから。私は全然寝てたなぁ」


 まて。それを真っ直ぐすぐに着いた魔法少女ちゃんのスピードヤバない?

 飛んで帰ったその子もヤバない?

 そんでそれ全部俺なの頭おかしなるで。


 「ん? どうしたのリン。さっきから死んだ目をしているけど」


 「いつもこんなんじゃない?」


 「そうかな? そうかも」


 「おい幼馴染」


 せめてフォローして。


 ⋯⋯ちなみに、念の為、念の為にエゴサしてみた。き、気になったとかじゃないんだからね!


 『ヒーロー志望かな?』

 『魔王を名乗って可愛いね』

 『どんな能力だよ』

 『ブレスノーダメージ。巨大な怪異をワンパン。さすが魔王』

 『今日から魔王ファンクラブを作ろうと思う』

 『国にちゃんと報告してるのかよ』

 『まじで誰?』

 『ロリのじゃ魔王だ』

 『共感性羞恥が⋯⋯』


 「うわあああああああ!」


 ネットに⋯⋯晒されてやがるっ!

 プライベートも何も無い。

 何だこの黒歴史の塊のような状態!

 あばばばばばば。


 「ど、どうしたのリン!」


 「腹でも痛めたか?」


 「心を、痛めた」


 慰めてくれる幼馴染、バカ笑いする親友。コイツ親友で良いんか?


 ――この日、実力者揃いの有名ヒーローが苦戦した怪異をワンパンした自称魔王の幼女が現れた――









★あとがき☆

お読み頂きありがとうございます。

一週間更新を目安に頑張って行きます!


設定まとめ

怪物→怪獣、怪異、怪人の総称


怪獣→能力を持った動物


怪異→怪獣や人以外の能力を持った生命体


怪人→能力を悪用する人間


ヒーロー→怪物(主に怪獣や怪異)と戦う仕事

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