間話5:生ける神話本人の目線
『……愚かなる『救世主』よ。『聖女』よ……お前た……ち……は……呪……わ……』
そう言って、かのエンシェント・オブ・デイズは沈んだ。
それを見た『救世主』と呼ばれた勇者は、同じく『聖女』と呼ばれた仲間の賢者に。
「……死んだのか?」
「どうだろうね? これほどの存在ならば、今すぐ元通りに復活しても不思議ではないとは思うが……とはいえ、わざわざやられた演技をする必要もないとも思う。結論としては、よくわからないな」
「ふむ。まあ、それはそうだな」
2人が警戒して暫く経つも、しかし何の反応もない。
そのため。
「2人とも、やったんだ! 遂にあのエンシェント・オブ・デイズを倒したんだ!!」
吟遊詩人は燥ぎ、偉業を成した2人を褒め称える。
同様に、世界中の人類は歓喜の渦に包まれた。
『勇者』……いや『救世主』様、万歳!
『賢者』……いや『聖女』様、万歳!
と。
しかし次の瞬間。
『……我はイヴリース。『救世主』よ。『聖女』よ。我が同胞、エンシェント・オブ・デイズを討滅したか』
人類は更なる絶望に包まれる事になった。
更なる存在の『声』が、やはり全人類の頭に直接響き渡ったが故に。
「……まだ居たのか? 似たような存在が」
「……そのようだね。まあ、可能性として考えてはいたが……正直言って勘弁して貰いたいところだ」
勇者と賢者ですら、そう漏らさずにはいられない、まさしく絶望の瞬間だった。
そして──
────
「とまあ、こんな感じで……エンシェント・オブ・デイズの最大の問題点は、奴は神ではなく、その前座に過ぎなかったという点だね」
それが、ミラが北部の英傑たちに語り聞かせる神話の中身だった。
ランバートは戦慄したような表情をして。
「……信じがたい話だ。大陸1つを消し飛ばし、4億5000万の人類を殺害した存在……人はそのような超越的存在こそを神と呼ぶのだろうに」
「ふっ……そうだね。とはいえまあ、奴の他に何らかの存在が居るであろう事自体は予想できる話だった」
「……そうなのですか?」
皆が感じた疑問を銀髪の美姫フォビアが代表して尋ねる。
「何故なら、奴はエンシェント・オブ・デイズという名を名乗ったからね」
「…………?」
納得の表情をする面子と、フォビアのように疑問の表情を浮かべる面子に別れている。
それを見たミラは満足げな表情を浮かべながらも、まさしく指導者のように指を一本上げて。
「名前とは個体を識別する為にある物であり、唯一絶対の存在ならば名前など必要ない。もっとわかりやすく言うならば……誰がそんな名前を付けた? という話だね」
「なるほど……そのように言われてみると、確かに最上位の神に名付けるというのはあり得ない話ですね。人が勝手に付けた名前でもないわけですし……」
納得の表情をするフォビアの言葉に天上の美女は頷き。
「ああ。だからこそ、事前に予想自体はしていたが……いざ実際にそうだとわかるとね。奴と戦ったわたしとしては尚更だったよ」
「……あたしとしてはミラさんにこそ『ミラさんって勇者パーティの一員だったんだ』とか色々言いたいところですけど……まあ、今更ですね」
肌色髪の美少女セルフィナが溜め息を吐きながら漏らす。
彼女はミラに向かって。
「要は、あたしたちは4億を殺したとんでもない奴……よりも更に強くて悪い奴とこれから戦うという話ですよね?」
「うーん。神が悪……ねえ。それには少しだけ疑問を呈さざるを得ないけれどもね。創造主が自分の創り出した物をどう扱おうが、本質的にそれは悪い事などでは全くないから」
ミラはそう言ってから。
「むしろその観点で語るならば、悪はわたしたち人類の方だと思うよ。だからといって黙って滅ぼされるつもりはないというだけの話だ」
「……ええっと……つまり、わたしたちは凄く強い神様を仮想敵にしてこれから活動する……で良いでしょうか?」
「そうだね。その表現ならば正しいよ」
「……はい」
『うわぁ、面倒くさ……』
と言いたげな顔をするセルフィナ。
そして。
『こいつ、勇気あるな』
それがセルフィナを見た他の英傑の総意だった。
とはいえ若い頃ならば別だったが、今となってはその程度で怒るミラではない。
彼女は話を再開する。
「あの大戦において、どうしてもわからない事は非常に沢山あったが……わたしとしてはとある事に最も興味を持っていた」
「……とある事、とは?」
当然の疑問の声を上げるランバートに対して、ミラはまたしてもまるで指導教員かのように指を上げてから。
「何故、神は人を滅ぼそうとしたのか? だよ」
「……言われてみるとそうだな」
確かに、当然のように今まで神が人類の敵とか戦ったとか言っているが、そもそも何故神はいきなり人類を攻撃し始めたのか。
新世界で目覚めてからというもの、身近で起こる事態はいちいち衝撃的過ぎて、その辺りに考えが至っていなかった。
「最終的に人類を滅ぼしたのは、神の放った世界全土に渡る超遅効性の呪いだ」
「……そうなのか……いや、そんなところだろうとは思っていたが……」
ランバートは先のセルフィナに同意したくて仕方なかった。
ふと彼女の方を見てみると、何やらうんうん頷いていた。
「しかし、呪いというのは基本的に術者が死ねば効力を失う。とはいえまあ、それをデメリットとして認識する者は少なかった」
「……何故だ?」
「だってそうだろう? 自分が死んだ後に何がどうなろうがどうでも良いからだ」
「そうですね。わたくしもそれには同意します」
フォビアは頷く。
まあ『銀の暗黒女帝』はそうだろうな……とランバートは思ったが、勿論口に出す勇気はなかった。
「故に、それを変えようとした者は居ないことはなかったけれど、少数派の域を出なかった」
ミラは懐かしむような表情をしながら。
「既存の……既にある程度完成された魔法体系を変えようとするならば、それは余程の天凛を持つか、或いは大規模な人数による研究が必要になる」
まあ、それはランバートにもセルフィナにも、他英傑の全員にもわかる当然の話だった。
「天凛を持つ者は基本的にそんな事には興味を示さないし、先程言ったように主流派はそんな事をわざわざ研究するより他のもっとわかりやすく役に立つ事を研究する」
確かに、天才ならば自分の死後にはあまり興味を示さず、生きている間にどれだけの偉業を成すかに執心するだろうとランバートは考える。
実際、フォビアといいミラといい、彼の知る際立って優秀な人物はそういう考えだろうから。
「話は逸れてしまったが、つまり神はわざわざ自分の死を予期していたとしか思えない呪いを放ったという事だよ」
死後も持続する呪いという事はつまり、自らの死を前提に……とまでは言い過ぎだろうが、とはいえ可能性を考慮しなければそんな効果は入れないという事だと皆理解した。
「神は、文字通り死んでも人類の滅亡を敢行しようとしたという事だ」
ミラは皆を見渡して。
「では、何故? という話に戻る。何故、神はそこまでして人類を滅ぼそうとした?」
そうして、彼女は自身の予測を語る。
「それはつまり……人類の死体を基に優れた新種族を生み出すためだったのだろうね。新世界のあらゆる状況がそれを示している」
「……まあ、そういう事なのだろうな……」
「……やっぱりそうなのか……」
「……そうなんですね……」
「……予想はしていたけど……」
全員、予測していた事ではあった。
新種族は文明レベルや人にやたら近い姿、空想のダークエルフやらに近い姿をしていて…つまり、明らかに自然発生した生き物ではない。
流石にそれは誰でもわかる。
という事は、新種族たちはどう見ても何らかの存在──例えば神のような──が生み出した種であり。
まあ、その方法も人類が滅亡している事などを考慮すると……という話である。
確かに、予想はしていた。
人類を滅ぼしに掛かった筈の天使たちがわざわざ新種族たちを庇護していたり、育成のための遺跡を建設したり。
状況的に、そうとしか思えなかった。
しかし、やはりこうしてミラという人類屈指の能力を持った偉大な聖女からそう突き付けられると、流石の100英傑とはいえ動揺は避けられない。
「まあこれはあくまでわたしが状況から見た推測でしかないよ。故に、もしかしたら違う可能性もあるけれどね」
「「……」」
全員、無言になる。
何故なら先程も言ったように状況から考えたら、どう見てもミラの予測は極めて妥当な物にしか思えなかったから。
そして、それが意味するのは。
「……そうか……つまり新種族たちは、俺たちの敵か……」
人類の敵である神によって、人類の死体から生み出された存在。
それはつまり、新種族たちは人類の敵である事を意味しているとしかランバートには、そして英傑たちには、考えられなかった。
「それはそうとも限らないかもしれないけれど。さりとて、楽観的に構えるのは愚者の所業だろうね」
そんなミラの言葉に対し、英傑たちは皆各々の考えに耽っている。
彼女はその様子を見て満足気にしながら。
「ちなみに、次は何故そこまでして新種族たちを創り出した? それは一体誰の意思だ? という話にもなるのだけれど……まあ、次回の話だね」
なんて、言い放った。
〜100英傑の書〜
特記事項
この章においては、旧世界において特に優れた存在や物品などについて記載する。
『聖剣ティルフィング』
使用者:アルベル
総評:
その功績から『神殺しの剣』とも呼称される聖剣。
能力は『人々の希望を力に変える』との触れ込みだが、それはあまりに曖昧な表現であり、少しばかりわたし好みの表現にするならば……要はアルベルに屈服した人類から魔力を回収する能力を持つ剣である。
しかし『屈服』あるいは『希望を託す』とは一体何なのか?
効果範囲が世界全土とあまりに広すぎるが一体どうなっているのか?
魔力の回収量は一定ではなく個人の魔力量によるようだが、どうやってそれを判別している?
それほど大きな魔力を回収しているのに、何故壊れない?
材質は何だ?
そもそもどうやってそのような摩訶不思議な能力を持たせている?
などの不可解な点があまりにも多すぎる剣であり、神との戦いで失われたのが非常に惜しい……と言いたいところだが、実はあの戦いの終わりにわたしが折れたこれを密かに回収しているため、この新世界でゆっくりと原理を解明しようと考えている。
それは、わたしの野望には欠かせない物でもあるが故に。
『神剣エターナル』
使用者:アルベル
総評:
当然の話だが、物の良し悪しは基本的に素材によって決まる。
どんなに腕の良い職人であろうと、鉄の剣をアダマンタイトの剣より優れた物には出来ないのだ。
ならば、世界最高の素材を使えば世界最強の剣が出来る。
至極当然の話だ。
では、世界最高の素材とは?
──エターナルは、神の腕を素材に作られた有史における最強の剣である。
神の死体は消え去ったが、戦いの最中で『神殺し』によって切り落とされた腕のみが残り、そしてそれは名工セレナの手によってアルベルの剣へと生まれ変わり、折れたティルフィングの代わり……いや、それ以上の存在へと至った。
惜しむらくは、やはりこの剣の真なる実力を知る機会が終ぞ訪れなかった事だろう。
それは、使用者のアルベルや製作者のセレナ自身であっても。
『魔杖バルギース』
使用者:ミラ、アリスリーゼ
総評:
世界樹の枝をベースに作成した名も無き杖に、歴代最強の魔王と称されていた魔王バアルが死に際に自らの魔力と魂を込めて作られたと言われる杖。
そうしてその後の魔王が代々引き継いだ世界最強の杖だったわけだが、アルベルが聖剣を持つのに、自分がその辺の杖では不公平だと考えたわたしが当代の魔王をボコボコにした挙句封印し、奪うに至った。
その際に、バアルの魂が『遂に最高の肉体が現れた!』などと騒いで鬱陶しかったため、わたしは奴の魂を消滅させて無害化した。
今になって考えると、あの場で消滅させるのではなく適当な人形にでも宿らせて実験材料にした方が良かったなと思うのだが、当時のわたしは若かった。
……とまあ、これが『偉大なる賢者による魔の討滅物語』などとグランが面白可笑しく語ってくれた逸話の真相なのだが、伝説なんて所詮はこんな物である。
わたしもアルベルも、別に他者のために何かをした訳ではなく、自分の思い付くまま若さの赴くがままに好き勝手にしていただけであり、勇者伝説とは、要は若気の至りに過ぎないのだ。
そんな黒歴史が……話が逸れてしまったな。
とりあえず、便利な杖ではあった。
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