第15話:いきなり終盤のダンジョンに来たみたいな

 ようやくの出番という事で、アルベルを先頭にし、警戒のためアリスを最後尾という隊列で遺跡を少し歩いていると。

 

「敵が近いわね。……今回はアルベルが戦うの?」

 

「アリスには感知能力もあるのか? 流石だな。──ひとまず、俺に任せてもらうぞ」

 

「……アリスリーゼ殿は、逆に一体何が出来ぬというのだ……」

 

 いつものように敵を感知したらしきアリスの言葉に反応する各位。

 今回は特に周囲の小動物のざわめきみたいなのは無いから、僕には敵襲は察知し難いんだけど……さりとて彼女の魔力感知の精度は当然人類屈指だからね。

 旧世界の頃と比較して知識を失うことにより感知力も低下しているだろうとはいえ、神獣の惨状を考えるにそれで特に問題になるような敵がいるとは思わないし。

 

 ──そして、アリスに出来ない事か。

 多分そうそう無いと思うから慣れる事をお勧めする。

 知っての通り旧世界で僕はアリスに長々と付き纏っていたんだけど、欠点なんて物は全く見当たらなかったからね。

 世間では少しは抜けた部分がある方が可愛いとよく言われたりするけど、彼女はそんな事知らんと言わんばかりの完璧超人なのだ。

 

 さりとて、族長みたいな感じのリアクションを取ってくれる人は英雄物語のスパイスとして重要である。

 やっぱり彼には慣れずにこのまま驚き役でいて貰いたい所存。

 

 

 というわけで、少し歩いてから。

 

『ギャオオオォォ!』

 

「ふっ!」

 

 見敵必殺。

 現れた敵をアルベルが斧の一撃で両断し、出オチさせる。

 

 うん。実に正しい戦い方だ。

 前にも言ったけど、相手に何もさせずに1撃で殺す事こそが最高の戦だからね。流石はアルベル。

 ただ、今回現れた敵は少し気になる相手で。

 

「……これ、あの時の悪魔じゃない」

 

 アリスの言う通り『白髪理系』によってあっさり真っ二つにされて死んでいる奴は、僕たちが新世界で最初に遭遇した悪魔と似たような姿をした敵だったのだ。

 なんか微妙な違いはあるようには見受けられるけど、悪魔の顔の違いなんて僕にはわからないからね。

 

「けれど、あいつみたいな再生能力はないようね? 一撃で死んだみたいだし」

 

 彼女曰く、あの時の奴は身体が半分吹き飛ばされても再生したらしいからね。

 僕は奴が再生する姿自体は見ていないけど、流石にアリスがそんな嘘を吐く理由はないから実際にそういう能力持ちだったのだろう。

 で、目の前の悪魔はそれとは違って再生能力を持たないと。

 しかし。

 

「……どういう事だ……? 奴らは一様に、身体を両断された程度ならば再生する能力を持つ筈……」

 

 いつまで経っても再生せず、どう見ても既に死んでいる悪魔に対して困惑した様子を見せる族長。

 どうやら悪魔はみんな再生能力持ちらしい。

 とんでもない種族特性だな。

 

 毎度のことながら、もしそんな生物と神獣を遺跡の番人に出来る奴が居るならば、そいつにエデンは征服されていそうな気がするんだけど……今それはいいか。

 

 族長が今回おビビりになられているのは、現在その厄介な能力が全く発揮されていない事。

 僕にとってその理由はわかりきった話だ。

 

「簡単な答えだろう。アルベルならばそのような事は容易いというだけの話だ」

 

「……そうなの?」

 

 実はどころか普通に全く答えになっていない発言に対して誰も突っ込み入れないの、凄くありがたい。

 やはりアリスもアルベルもついでに族長も僕と相性が良いな。

 

 アリスに問われた『白髪理系』は。

 

「ふむ。俺としては何となく、こうすれば倒せると考えて斧を振るっているだけだが……それが俺の能力なのか?」

 

「フッ……私が知る限り正確には違うという話だったが、結果的には同じだ」

 

 アルベルの力の秘密はアルカディアで日夜研究される大課題だった。

 単純に『斬られた相手は死ぬ』と言うほど簡単な話ではないみたいなんだけど、さりとて結果としてそうなるならば戦士としてはその理解で問題はないという話だ。

 

「ふっ……やはり掴みどころの無い男だな。まあ良かろう。どの道この『新世界』とやらの冒険を続ければいずれわかる話だ」

 

「……やっぱりなんか意気投合してる……」

 

 僕と『白髪理系』を何故かジト目で軽く睨みながら呟く銀髪。

 いやあ、嬉しいな。

 まさかあのアルベルと僕がこんなに相性良いなんて。

 

 そして、探索を再開したけど。

 

『ガアアアア!』

 

「ふっ!」

 

『ゴオオオッ!』

 

「はっ!」

 

『グオオオオーッ!!』

 

 …………

 

「……ねえ、族長。多くないかしら?」

 

 アリスの言う通り、次から次へと悪魔が襲い掛かって来て、それをアルベルが1撃で討伐するという事が繰り返されていた。

 

 いつの間にか水晶宮は悪魔の宮殿にでもなったのだろうか? 

 そんな事になったら製作者たる理事長も泣き……はしないというか、あの知識欲の権化ならむしろ喜ぶか。

 あの人、アルカディアを擬似的な国みたいな組織にした理由の1つは犯罪者を合法的に人体実験に使うためとか言い放ったくらいにはマッドだったからなあ……

 

 まあそれはさておくにしても。

 これ、アルベルが強すぎるから緊張感がないだけで、物凄く難易度の高いダンジョンだね。

 というか長耳族じゃ攻略はまず無理だと思うんだけど。

 

「……馬鹿な。こんな筈は……」

 

 思いっきり冷や汗をかいている族長。

 意味深に勿体ぶるのは僕の役目だぞ。早く内容を言いたまえ。

 という事で。

 

「フッ……何か想定外の事態でも発生したか?」

 

 僕がキャラ奪いを防ぐ為に即座に族長を問い詰めたところ。

 

「……この大陸……島には、内装に差異は存在するとの事だが、同様に神玉を祀る遺跡が幾つか存在している。……その中で龍帝によりただ1つ攻略された遺跡では、魔はかように活発に動いてなどいなかったと聞く」

 

「ねえ。族長にもフェルナンドが染ったの?」

 

「酷い言い様だな。流石の私も物申したい所だ」

 

 僕は病原菌か何かなの? 

 まあ、族長がいきなり気になるワードを連発したのには僕もびっくりしたし、まさか本気でキャラを奪いに掛かってきたのかと疑ったけど。

 

 そんなやり取りをする僕たちの姿を見たアルベルが。

 

「ふっ……楽しいやり取りではあるが、今は族長の話を聞かなくてはな、アリス」

 

「えっ……? 『白髪理系』に嗜められたのだけれど……しかも何故か私だけ……?」

 

 やれやれ顔をするアルベルに嗜められてショックを受けた様子の銀髪。

 うん。君が変に突っ込んだのが100%悪いぞ。

 

 ……どっちもどっち? そんなわけはない。

 だってアルベルもアリスだけ嗜めたからね。

 流石は我らが『白髪理系』だ。よくわかってる。

 

「……貴殿らはやはり、超越者よ。この状況をまるで意に介さぬとは。……今更か」

 

 僕にとってはともかく、アルベルとアリスにとっては悪魔なんて雑魚だからね。

 100英傑の最上位がどういう存在かについては、族長からしても神獣戦ではっきりした筈だけど。

 

 そんな彼は一瞬目を閉じてから。

 

「これらの情報は遺跡を踏破し神玉を持ち帰りし龍帝の逸話に記されているのだ。仔細を知りたくばティル・ナ・ノーグに帰還せし時に見るがいい」

 

「ふうん。後で調べればわかる事が確定しているのであれば、まあいいか」

 

 言いながら何故か僕とアルベルをジト目で軽く睨んで来る銀髪皇女様。

 やれやれ……さっき嗜められたというのに。

 それでこそアリスではあるんだけどね。

 

 僕とアルベルは密かにアイコンタクトを交わし、やれやれ感を共有する。

 

 銀髪の何某に思いっきり睨まれた。バレたか。

 

「龍帝は戦を避けて進んだとされる。仮に魔が今のように自発的に索敵をし襲撃するならば、かの龍帝であろうと攻略は叶わぬ話であった筈だ……」

 

「ほう。ならばこいつらがこうして積極的に俺たちへ襲い掛かって来る事には何らかの原因があると?」

 

「……遺跡毎の差異の可能性はあるが……」

 

 アルベルの言葉に対してめちゃくちゃ深刻そうな顔をする族長。

 しかし、アリスはなんて事ないような顔をしながら。

 

「ふうん。確かに興味深い話だけれど……特にそれで問題があるわけでもないのだし。帰ってからダークネスや長耳族の学者に話をして調べて貰うのが丸いかしらね」

 

「そうだな。この程度の輩、いくら来ようが問題にならん」

 

「フッ……流石はアリスにアルベル。君たちならばそうだと考えていた」

 

 いやあ、ほんと。

 この2人って初期の味方にしていい戦力じゃないよね。

 片方だけでも無双出来るのに2人も居たら、高難易度ダンジョンも型無しだ。

 

「……それはつまり、貴殿らはかの龍帝を遥か超越した実力者という事を意味するのだが……我も、眼前の事実は受容せねばならぬ……か」

 

 

 そうして、何やら覚悟を決めたような表情をする族長を横目に、引き続きアルベルが悪魔を1撃で斬り捨てながら進んでいると。

 

「あからさまに仕掛けがありそうな扉が出て来たな」

 

「そうね。扉に描かれた絵といい、横にある4つの丸い水晶といい……あからさまに謎解きをして開けって感じ」

 

 2人が言うように、僕たちの目の前には所謂ギミックによって閉じられた扉があった。

 

 扉には炎を身に纏った鳥を始めとした4つの生物が描かれており、それぞれの絵の直下に窪みがある。

 そして、その窪みに入れろと言わんばかりの4つの水晶。

 うん。僕にとっては物凄く見覚えのあるギミックだった。

 

「族長……は遺跡内部の事は知らんのか。ならば、フェルナンドは知っているか?」

 

「ああ。実に見覚えのある扉だ。面白い」

 

 いやあ、門や内装に加え、まさか遺跡内部のギミック扉までアルカディアのそれが再現されているとはね。

 本当に一体誰が何でこんな事を? 

 

「何故これがこのような場所にあるのか実に気になる所だが……」

 

 そう言いながらアリスとアルベルの顔を見てみると。

 

「フッ……君たちはせっかちだな。まあ、良かろう。私が知る知識と差異がある可能性は考慮すべきとだけ言っておくがな」

 

 かっこよく言いながら僕は水晶に近付いて。

 

「──これら水晶には、それぞれある処理をする事により数値が浮かび上がる。その数値に従った順序で適した箇所に水晶を嵌める事で扉が開くというのが私の知る仕掛けだ。故に──」

 

 僕は水晶の1つを手に取る。

 そして。

 

「……『ファイア』……やはり現れたか」

 

「ほう……」

 

「ふうん……こういう感じね。なかなか面白い仕掛けじゃない」

 

 アルベルとアリスに見せつけるように炎で水晶の1つを照らすと、そこには1という数字が浮かび上がってきていた。

 

 うん。2人とも、随分と楽しそうな顔をしてるね。

 

 そんな僕たちのやり取りを見ていた族長は。

 

「何故それを知っているのかという疑問も我は受容せざるを得んか……貴殿らと数日過ごし慣れを得た妹の事を見直さねばならぬな……」

 

「フッ……むしろ私からすれば、何故私が知るアルカディアの水晶宮にある仕組みと全く同じ物がこの場所に再現されているのかの方が不思議でならんがな。まあ、良かろう」

 

 そうなんだよね。

 何度も繰り返しになるけど、本当に何故? 

 

 アルベルが扉に近づいて。

 

「ヒントはこの絵か。今の場合、炎の鳥が描かれているから薄紅色の水晶を炎で照らしたという理解でいいか?」

 

「その通り。流石はアルベルだな」

 

 まあ答えから逆算してしまえば誰にだってわかる話ではあるけどね。

 とはいえ、確認作業は大事だ。

 

「……これくらいなら私にだってわかるし……じゃあ、この水晶は、こうやって水の中に入れたら……出来たわね」

 

 なんかアリスがアルベルに対抗心を燃やしてるんだけど。

 凄いな。旧世界では絶対に見られなかった姿だ。

 

 それはともかく。

 水中を泳ぐ亀を参考にしてアリスが手に取った緑色の水晶は、魔法で出来た水球の中に入れられる事により3の数字を示していた。

 

「見事だな。流石はアリスだ。その魔法の制御技術といい、素晴らしいの一言に尽きる」

 

「……無言で触れずに水球を宙に浮かせ、維持するか……それが叶う術者など中央でもそう居らぬ。貴殿の実力には驚嘆の言しかあるまい」

 

「そう。ありがとう」

 

 クールに振る舞おうとしているみたいだけど、僕と族長から褒められた喜びが隠せていないぞ。

 旧世界と比較してアリスは感情表現が本当に豊かになったよね。

 

 あの時は強気クール系美人って感じだったのに、今ではその面影も感じられない。

 いや、強気美人なのは変わらないか。要素の2個も残ってるな。

 

 という感じで、僕たちは残る2つ──水晶を空中に浮かせるギミックと、重力をかけるギミック──も解きながら。

 

「それにしても、これ……色々と別解がありそうね」

 

「フッ……流石はアリス。君の言う通りだ」

 

 いや、何度も繰り返しになるけど、本当凄いなこの人。

 こんな早くにそれに気付くなんて。

 

「別解? どういう事だ?」

 

 アルベルに問われたアリスが、前にダークネスがやっていたみたいに指を1本上げてから。

 

「例えば、フェルナンドは紅の水晶を炎に照らしたけれど、似た色の光に照らせば同じ結果が得られそうな気がするでしょう?」

 

「……なるほど。確かにそうだな」

 

「それに、今回私たちは魔法を使って謎を解いたけれど、これ全部魔法無しでも出来るようになっているわね?」

 

 凄すぎて変な笑いが出てきそうなんだけど。

 普通、謎解きしながらそんな事に思考が至る? 

 これ僕が鈍いわけじゃないよね? みんなわからないよね? 

 

「炎と水は理解できる。だが、浮かせるのと重力はどうする? 魔法無しで可能なのか?」

 

「多分だけど……ほら、見て。浮力を与えたいなら水の中に入れたらいいし、重力だって同じ。水で3つ攻略出来るというのには少し物申したい気もするけれどね」

 

「凄いな、アリスは。流石はフェルナンドに賢者と言われるだけの事はある」

 

 感心したように漏らすアルベル。

 いつ見てもびっくりする賢さだよね。

 後になって落ち着いて考えたら気付くというならばわかるけど、初見の遺跡における謎解きと並行してそれに思い至るのは絶対に普通じゃない。

 

「さっきも言ったけど、これってわざとこうなっているわよね?」

 

「ああ。全て、君の言う通りだ。アルカディアは学術組織であるが故に、学生の学びを生み出す試みを多くしていた。複数解を模索させたり、全て魔法に頼るだけでは思考が凝り固まると考えたり……な」

 

「ほう……良い試みだな。製作者とは美味い酒が飲めそうだ」

 

 興味深いみたいな顔をする『白髪理系』。

 このギミックは誰か1人が考えたのではなく、当時の世界最高の職人たちが議論して決めたらしいから、誰と飲むかと言われたら難しいだろうけど。

 

「しかし、これには重大な欠陥があってな」

 

「……ああ、確かにそうね。学術組織なら……そうなるか」

 

「どういう事だ? 今のところ特にそのような物は見当たらないが……」

 

 一見すると、確かにそうなんだけどね。

 けれど。

 

「学術組織という事は、これは学生たちや研究者たちが何度も通る扉だという事なのでしょう? そうすると……ね」

 

「ああ……そういう事か」

 

 2人の言う通り。

 例えば、本を取りに行くために毎回毎回これをやるのか? という重大なる欠陥が発覚したのだ。

 

 だからといってギミックを破棄するのは、せっかく高いコストを支払って作ったのに……となったらしく。

 結局、扉にはつっかえ棒を当てて常時開きっぱなしにする事になってしまったのだ。

 

 理事長には最初からそうなる未来が見えていたらしいけど、あの人そういうのを止めない人だからなあ……

 むしろ喜んで煽る迷惑すぎる人だったな。

 

 

 ──そんな感じで、僕たちは雑談をしながらギミックを解いて次に進む事に成功した。

 

 いやあ……本当に楽しいな。

 だってこの一連のやり取り、どこからどう見ても僕が望んでいた英雄譚そのものだ。

 アルベルたちと比較して敵が弱い問題は未だあるにせよ、遺跡探索はかなり良いな。脳内メモにきっちり書いておかなくては。




◾️お願い◾️


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