第14話:勿体振って焦らす事こそが本懐

 アリスが一撃で寝ている神獣を粉砕した後、ようやく正気を取り戻した族長とロリが討伐証明として持ち帰れる部位がないかと無惨な炭を物色する最中。

 

 不毛な作業に勤しむロリ兄妹を遠くから眺めていた僕は、ふと少し前に立つアルベルが背負っている武器を見て気になったので。

 

「アルベル。君は斧を使っているのだな」

 

「ん? ……ああ。あの街1番の武器屋と言われている店で最も優れた品がこれだったからな。魔斧ボレアスというらしい」

 

 随分とカッコいい名前だね。

 その辺の汚い棍棒や素手や鉄の剣とは大違いだ。

 

「店長曰く、これは売り物ではなく、誰も扱えないから死蔵していたという話だったが……俺ならば使えるという事で無料で譲られた」

 

 え。なんかめちゃくちゃ主人公っぽい事してるじゃん。

 そのイベント、もう少しだけ遅らせてくれたら僕も参加出来たのに……! 

 

「……そうか。私からすれば実に面白い話だ」

 

「……何かあるのか?」

 

 何やら怪訝な顔をしているアルベル。

 うん。意味深な男への反応としてなかなか悪くない。

 彼もまた、主人公候補の1人だからね。

 僕との相性を測らねばならないのだ。

 

「かつて君は『武芸百万般』という異名を持っていた。あらゆる武器を初見で使いこなす猛者という名声を。そんな君が最初に選んだのが斧というのもまた、私にとっては実に興味深い話でな」

 

「ほう……『武芸百万般』か。悪くないな」

 

 なんか少し嬉しそうにしているアルベル君。

 君、思っていたより遥かに気さくだよね。

 なのに旧世界では一体何故あんな事になったのか。

 

 なんてやり取りをしていたら、横からギャルが入ってきて。

 

「え〜!? それ、全然可愛くない! 『白髪理系』の方が可愛いからそっち!!」

 

「可愛い……のか?」

 

 困惑したように問いかける『白髪理系』。

 うん。ギャルのセンスは僕にもわからん。

 

「ぜ〜ったい!!」

 

「……俺は『白髪理系』のアルベルだ」

 

「そうそう! やっぱそれっしょ!!」

 

 ……本当に凄いな。

 今のところアルベルはダークネスと並んで

『君そんな性格だったの?』

 ランキング同率2位だ。

 1位は勿論ギャルだけど。

 

 とか思っていたら。

 

「……ねえ、フェルナンド」

 

「どうした? アリス」

 

 話しかけて来たのは我らが銀の蛮族皇女様ことアリス。

 彼女は旧世界の頃と比較してかなり優しくなったりなんか騒いだりするようになったくらいで、あまり変わっていない方である。

 結構変わってるような気がしてきたな。

 

「これから遺跡を探索するのでしょう? 人員はどうするの?」

 

「フッ……私に聞くのか?」

 

 王子やダークネスにチラリと目線をやって呟く。

 いつもの意味深なカッコいいムーブだ。

 

「……あなた、あの遺跡を見て一瞬目の色を変えたじゃない。そんな反応をするという事は、当然何かあるのでしょう?」

 

「流石、よく見ているな。……確かに君の言う通り、幾らか気になる点があってな」

 

 アリスってこう見えて視野がかなり広いんだよね。

 普通、神獣や遺跡を目の前にしているのにも関わらず僕のリアクションを眺めるなんてそうそうしないと思うけど。

 ……こう見えてというか、旧世界ではむしろ彼女の視野が広いのなんて当たり前で、考えられる限りあらゆる能力が最高の完璧超人という扱いだったんだけどね。

 

「まず第一に。理由を語ると長くなるから今は置くが……新世界計画において、計画実行前に旧世界の建造物は軒並み破壊する事になっていてな。あれほど巨大な遺跡を、よもや君たち三賢者が見逃す可能性は皆無……とまでは言わないが」

 

「思っていたより沢山気になる情報が増えたわね……まあ、いいわ。確かに今このタイミングでいちいち聞いていたらキリがないし……」

 

 呆れたように額を手で押さえながら言うアリス。

 うん。聞きたいけど今はそれどころじゃないみたいな感じを作るのは、意味深なキャラの常套ムーブだからね。

 そうして結局教えずはぐらかすというのがお決まりのパターンだ。

 

「とりあえず、あなたが言いたいのは『この規模の遺跡をいつ誰がどうやって建てたのか?』という事か。遺跡という事はここ数十年とかの話ではないのでしょうし……確かに気になるわね」

 

 そう言って彼女は思考に耽る様子を見せる。

 

 前にも少し言ったけど、新世界計画において旧世界の足跡は可能な限り消す事に決定した。

 理由は幾つかあるんだけど、まずその一つは植物を始めとした自然の物質によって神様の呪いが微量ながら分解されていると判明した事だ。

 

 いやまあ、本当に長くなるから詳細は控えるとして……

 民家などは放置しても1000年どころか数十年も経過すれば自然と潰れるだろうからという事で放って置かれたりしたんだけど、いくらなんでもあんな大きな遺跡なんて物を見逃すなんてのはほぼ有り得ないと踏んでいる。

 

 そしてアリスが言うように、仮に新世界で誰かが建てたとして。

 ──人類滅亡から数百年くらいでここまで巨大な施設を建て、神玉とかいう宝物を祀り、神獣という巨大な獣にそれを守らせる……全てにおいて、どうやって? と疑問が出る話だからね。

 実に探索しがいがある話だ。

 

「ねえねえ、ダークネスっち。あの2人っていつもこんな感じなん?」

「あはは……まあ、大体は……」

「そっか〜面白っ!」

 

 なんかギャルがコソコソ話しているみたいだけど、別にいいか。

 

「それで、もう一つは?」

 

「あの巨大な門……私はあれに見覚えがあってな。まさかとは思うが……いや、入ってからの話だな」

 

 隙あらば意味深ポイントを稼ぐスタイル。

 ここ数日は『さあ、どうだろうな?』や『それは今語るべき事ではない』といった必殺技を我慢しているせいで、鬱憤が溜まっているからね。

 こうして発散しなければならないのだ。

 まあ近い事は言ってるんだけど、さりとてその微妙な違いこそが大事なのである。

 

 僕の言葉を聞いたアリスは何故か自らのこめかみをぐりぐりしながら。

 

「……まあ、いいわ。つまり私が言いたい事としては……探索組にあなたは確定という事になるでしょう? この状況下であなたを外すなんてするわけがないのだから」

 

「ふむ、それは皆に聞く必要が……ないようだな」

 

 僕が周囲を見渡しながら言ってみたら、みんな特に反対してなさそうな感じだったからね。

 それを確認したアリスが。

 

「遺跡探索に全員で行くわけはないわよね?」

 

「3〜4人といった所だろうな」

 

「ミルネンか族長の片方は着いてくるわよね?」

 

「そうだろうな」

 

「つまり、残りは1〜2枠になるわよね?」

 

「論理的に考えたらそうなるな」

 

「……未知なる冒険に行く以上! やっぱり強くて汎用性があって便利な魔法を使えたりする人が必要よねっ!!」

 

「そうだな。君の言う通りだ」

 

 アリスの言う通り、未知の遺跡探索となれば、強くて対応力の高い英傑が必須といえる。

 ならば、答えは1つ。

 

「では、アルベル。共に行こうか」

 

「ふっ……ようやく俺の出番か。腕がなるな」

 

 僕の呼び掛けに嬉しそうに頷き、腕を回しながら応えるアルベル。

 やっぱり1番に選ぶのは彼だよね。

 アルベルからの好感度が高まった気がする。嬉しい。

 

 そんな僕たちは次なる冒険へと思いを馳せて……

 

 ん? 何やら視界の端というか、あからさまに僕の目の前でぷるぷる震えている銀髪が居る気がするけど……きっと気の所為だろう。

 

「わざとよね!? 絶対にわざとやっているわよねっ!? 2人ともっ!」

 

 僕とアルベルは顔を見合わせて。

 

「「ふむ……まあ、仕方ないか」」

 

 はあ……まったく。どうしてもと言うならねえ。

 本当に仕方ないなあ。

 

「こいつら……っ!!」

 

 ほんと面白いな。

 アリスもすっかりいじられキャラが定着したようだ。

 

 

「……そりゃ、ここで選ばれるのはオレじゃねえよなあ」

「……実際、ぼくたちの中から上位3名を選ぶならば、普通に考えてあの3人になるでしょうからね……」

「街に戻ったらすぐ修行だな、オレは。ラナリア、ちょっと付き合ってくれねえか?」

「いいよ〜! ウチも頑張らなきゃね〜!!」

「僕も自分に出来る事を探さないと……強さは無理だろうから、とりあえず知識を学ぶか……」

「ぼくも書庫を使わせて貰って勉強します。魔法も磨いていかなければ……」

 

 

 というわけで。

 

 僕たちの目の前に聳え立つ巨大な門。

 どう見ても強固みたいな雰囲気を全面に醸し出す、重圧感に溢れた『良い感じ』のやつだ。

 来る者を拒むべく閉じられたそれは、やはり僕にとっては物凄く見覚えがあるもので。

 

「フェルナンド、この門はどうする? 力技で切り開くか?」

 

 そう言って斧に手を掛ける脳筋アルベル君。

 彼も多分頭は良い方だとは思うんだけど……さりとてやっぱり力押しできるならそっちが楽だろうからね。

 とはいえ、横にいる族長がアルベルの言葉を聞いた途端に何やら冷や汗を流し出した事だし。

 

「それも良い手段ではある。しかし……そうだな。アリス、この部分に手を当てて欲しい」

 

 僕はちょうど人間の胴体くらいの高さにある円形の印を指差して指示する。意匠が凝らされた門の中ではあまり目立たない感じのそれは、僕の記憶だと門を開閉するための核となる部分だ。

 

「はあ……また勿体ぶって……別に構わないけれど」

 

 凄く構っていそうなアリスだったけど、印に触れた瞬間に。

 

「! なるほどね。これはつまり……こうかしら?」

 

 突然1人で門に向かってぶつぶつと呟き始めるという、実に怖い姿を晒し出した。

 うん。どこからどう見ても不審者だ。

 

「……アリスは何を?」

 

「魔力によって閉ざされた門を開こうとしている。破壊するよりは見栄えが良い手段だと思わないか?」

 

「ふっ……そうだな」

 

 頷くアルベル。なんか表情から見るにかなり楽しそうにしてるね。

 彼が旧世界において冒険狂いという話は有名だったから、さもありなん。

 そして。

 

「……フェルナンド殿は何故それを知って……いや、皆まで問うまい」

 

 戦慄したような姿を見せる族長。

 うん。この長耳族、思ってたより良い感じだよね。

 この感じだと、結構これからも関わる事になりそうな予感がする。

 

 というか……こういう時にロリじゃなくて族長が着いてくるんだ。

 別に良いんだけど。

 

 あの不毛な炭掘りの結果はどうなったんだろう? 

 ロリは炭を集落に持ち帰ったのかな。

 他のメンバーと一緒に戻って行った所までは見ていたけど、炭を持っていたかどうかまでは気にしていなかったからね。

 

 個人的にはカルロスを連れてくるか迷ったけど……アルベルとアリスがいる以上、活躍は期待できないからね。

 やはり2人とは切り離さなければ(再確信)。

 

 そんな感じの事を考えながら少し待つと。

 

「これで……終わりね。結構面白かったわよ」

 

 アリスのドヤ言葉と共に、ゴゴゴ……という音がして門が開かれていく。

 

 そして、僕たちの眼前に遺跡内部の光景が広がっていき……

 うん。やっぱりこう来るか。

 

 まず最初に、内部を見たアルベルが驚いたような顔をしながら。

 

「これは……凄い光景だな。辺り一面全て水晶なのか?」

 

 彼が言う通り、遺跡内部は壁から天井まで全て水晶で出来ていた。

 遺跡の外観は普通の壁で覆われていたのだが、内部は全て美しい水晶によって幻想的な雰囲気が創り出されている。

 中から外や外壁が見えないようになっているのは、間違いなく何らかの魔法的な施術によるもので。

 

「幻想的というか、むしろ非現実的な光景ね……純粋に、凄いという一言の他にないわ」

 

「そうだな。来て良かった。これを見逃すわけにはいかないからな」

 

 予想以上だ、みたいな感じを出すアリスとアルベル。

 2人とも、冒険心溢れる英傑だからね。

 こんな光景を見れたのは2人からすれば非常に心躍る話なのだろう。

 

 ただ、僕としては。

 

「フッ……やはりか。実に面白い事になったな」

 

「フェルナンド殿はこの尋常ならざる光景すらも知っていたのか? 我とて、遺跡内部の事は知らなかったのだが……いや、すまない。不用意に聞くべきではないか」

 

 初めて会った時からそうだけど、族長は僕たちに対して相当おビビりになられているよね。

 賢いが故に弁えすぎているというかなんというか。

 とはいえ。

 

「いいや、構わない。アリスやアルベルも気になっているだろう?」

 

「……ふうん。今回は珍しく素直に教えてくれるのかしら?」

 

 何故かジト目で軽く睨みながら聞いてくるアリス。

 うん。やっぱりいいリアクション。これからもよろしく頼む。

 

「普段もそう隠しているつもりはないのだがな?」

 

「………………いえ、いいわよ。この状況でその話をしても仕方ないのだし」

 

 いやあ、本当にアリスは良い相棒だよね。

 新世界における現状の主人公候補ランキングとしては彼女は3位なんだけど、僕との相性という観点ならあの2人より上だろうし。

 いやまあ2人も結構僕とは相性良さそうな感じするけど。

 

 それはともかく。

 

「フッ……良かろう。この遺跡は、私や君が所属していた学術組織アルカディアにあった水晶宮に酷似していてな。当然、水晶宮は君たちが破壊した上に、そもそも場所が大きく異なる以上は別物ではあるのだが」

 

「それ、後でちゃんと聞かせてくれるのよね? 少し不安になってきたのだけれど」

 

 思わずといった感じで額に手をやるアリス。

 そんな彼女を見ながら、ここぞとばかりに僕は意味深ポイントを稼ぎに掛かる。

 

「ひとまず、続きは探索しながら話そう。未だ確かめたい事は多くある上に、君たちも冒険は望むところだろう?」

 

 そう言うとアルベルが頷いて。

 

「ふっ……そうだな。俺にとっても色々と気になる話ではあるが……探検しながらでも話は可能だろうからな。アリス、族長。それで構わないか?」

 

「……なんか意気投合してるし……もう。わかったわよ。後で色々教えてもらうから」

 

「我は貴殿らに付き従うのみ。気にせず進むがいい」

 

 やっぱりアルベルってナチュラルにリーダーって感じだよね。

 渾名組3人を率いていたのも当然と言える。

 

 嬉しい悲鳴とはいえ、王子といいアリスといいリーダー候補が多すぎるな。100英傑なんだから当たり前かもしれないけど。

 

 

 こうして、僕たちはアルカディアの水晶宮に酷似した遺跡の探索を開始した。

 

 いやあ……本当に謎が多すぎて面白いな。

 やっぱり英雄譚とはこうでなくちゃね。





◾️お願い◾️


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