間話1:最も恐ろしい相手とは…キャラ被りだ

「村長……この村は、我らは後どれくらいの命なのでしょうか?」

 

 村の若人が問いかけてくる。

 ……これまでは騙し騙しどうにかやってきた。

 しかしもう、誤魔化すにも限界が来たという事だろう。

 

 村長ミルネンが持つ秘宝である水晶。

 これに含まれる魔力を用いた結界で今までは耐え忍んできたが、如何な秘宝とはいえ永久に保つはずはなく。

 

「……正直に言うならば。もう1月は保たぬじゃろう……すまぬ……」

 

「……いいえ。村長……いえミルネン様がお救いにならなければ、我らはとうに命を落とした身。感謝こそすれど、恨みになど思うはずがありませぬ」

 

 戦う力を持たない弱い彼らを見捨てられず、皆を率いてこの南の地に来たのは果たして何年前だったか。

 

「……ミルネン様とお孫様のお2人だけならば、如何様にでも逃れる事は可能なはず。我らの事はどうか気にせず、北にお戻りください」

 

 ──この村は、村長のミルネン以外まともに魔法を扱う事の出来ない長耳族の落伍者が集まった村だ。

 ミルネンは追放された彼らを哀れに思い、そしてただ魔法が使えないというだけで彼らを放逐した兄の判断にどうしても納得がいかなくて、ここまで来た。

 

 ……ただ、奇しくも兄と同じく集団の長となった今となっては、兄の判断が理解出来るようになってしまった。

 確かに、異種族共から村を守り繁栄させるという観点から見るならば、彼らは追放されて仕方ない落伍者だと。

 

 魔力は、例外はあれど親から子に引き継がれやすい傾向にある。

 それ故にミルネン以外、小鬼共にも勝てぬ彼らはこの険しい世を生きるには適さない。彼らの死は正しく自然淘汰でしかないのだと、理解出来てしまった。

 

 1対1であれば、武器を持てば小鬼には勝てる。

 しかし、2体、3体と数を増やされた場合、魔法を使えぬ長耳族では負傷は避けられない。まして、小鬼共の数は数百を優に超えるのだ。

 最早、村の滅亡は避けられない。

 

 それでも。

 

「ワシは其方らと運命を共にすると決めた。ここがワシの墓場よ」

 

 ミルネンが兄の村を出た際に、覚悟ならば既に決めていた。

 むしろ、こうなる事は最初からわかっていたのだ。追放された彼らを1人で守り切るなど無理がある。そんなのは子供だってわかる、当たり前の一般常識でしかないのだから。

 逆に、いくら秘宝があるとはいえ、今まで生きながらえてきた事の方が奇跡の産物でしかないのだ。

 

 ミルネンがそうして、彼女が持ち出した一族に伝わる秘宝たる水晶から、なけなしの魔力を振り絞り再び村に結界を貼り直そうとしたところ。

 

「村長、エカテリーナ様が小鬼共を倒すと言って外に!」

 

「何じゃと!?」

 

 ミルネンの孫娘であるエカテリーナ。

 正確には、ミルネンと彼女の血は繋がっていない。

 ミルネンは腹を痛めて産んだ子供どころか、夫すら持たない。

 魔力の素養を強く持って生まれた長耳族は成長が遅いため、ミルネンは未だ子を産める肉体になっていないからだ。

 

 ──エカテリーナはミルネンの義理の息子の娘にあたる存在である。

 さりとて血の繋がりなど関係なく、異種族に殺された義息の代わりに彼女は愛を一身に注いでいた。

 

 この後ろ向きな村において、孫娘はとても真っ直ぐ純粋に育ってくれた。何より彼女は、両親が魔法を使えなかったのにも関わらず、奇跡的に魔法の素養を持っていた。

 未だ歳若く未熟故に大した魔法は使えないとはいえ、素直で誰にでも優しい彼女は、人数の減少により緩やかに滅びを迎えつつある村にとって、正しく光とすら言える存在になってくれていた。

 それなのに。

 

「何故エカテリーナはそんな事を!?」

 

「小鬼共です! 奴らが100を超える数で攻め入ろうとして来て!! エカテリーナ様はミルネン様が結界を貼り直すまで足止めしようとお1人で!!」

 

 ──目に入れても痛くない可愛い孫娘は、ミルネンの懊悩をわかっていたのだろう。村の状況を理解していたのだろう。

 故の、無謀なる蛮行。

 

「くっ……今ワシが離れるわけには……」

 

「行ってください、ミルネン様! お2人は我らが希望!!」

 

「エカテリーナ様を失ってまでむざむざ生きようとは思いませぬ!」

 

 口々に語る村人たち。

 いくら魔法が使えぬとはいえ、それでも彼らは誇り高き長耳族。

 その矜持を感じさせる事は嬉しいが。

 

「しかし……ここで村を放り出してはワシはエルランに顔向け出来ぬのだ……」

 

 ミルネンは悩む。

 彼女は、義理の息子エルランを全く同じ状況で失っていたから。

 かつて彼女が結界を貼るまでの間、小鬼共の足止めをして死んだ息子。

 仮にここでエカテリーナを助けて村人を見捨てた場合、何故自らは過去に息子の事は助けなかったのか。

 ……彼女は、息子が死んだあの日のことを忘れた事は1日としてなかった。

 

 また、繰り返すのか? 今度は孫娘の命まで失うのか? 

 

 ならば村人を見殺しにするのか? 全てを捨ててまで守ると誓った弱き者たちを? それはあの兄と全く同じ行動ではないのか? 

 

 ミルネンには選べない。

 最悪の選択肢から片方を選び、片方を捨て去る事など出来ない。

 それが可能な長耳族であったならば、そもそも兄に反抗して愚かな逃避行などしていないのだ。

 

 結局。

 彼女は現状維持……つまり結界魔法の構築を続ける。

 それは逃避に他ならない。

 何かをしていれば、自分は役目を果たしているのだから。

 それに集中すべきなのだと誤魔化せるから。

 それは村人を選び孫娘を切り捨てる選択肢に他ならないが、ミルネン自身が選んでいるのではなく、先程までやろうとしていた仕事を続けているだけ……

 

「……では、良くなかろうな」

 

 村長は既に、それら全てを理解していたのだ。

 故に、彼女は結界魔法の構築を放棄して。

 

「すまぬ、皆の衆。ワシはエカテリーナを助けに行く」

 

 遂に。ミルネンは決断した。

 自らの過去。守るべき村の弱者たち。村のために死んだ義理の息子。

 それらを全て、孫娘のために捨て去る決意を。

 彼女は一瞬目を瞑り。

 

「ワシと孫娘のために、死んでくれ」

 

 愛すべき民に向かって、死刑宣告をした。

 

 

 ──そうして、孫娘の元へと向かわんと準備をしていたところ。

 

「村長! エカテリーナ様が、エカテリーナ様がご帰還なされました……!!」

 

「な、何じゃとっ!?」

 

 先程以上の驚愕情報が知らされ、ミルネンは思わず手を止めてしまう。

 

「どういう事じゃ……? 逃げて来てくれたのか……? だとすれば嬉しいが、あの子がそんな事をするはずが……」

 

「いえ、それが……」

 

 言い淀む若人。

 疑問に思うミルネンだったが、それは次の言葉で氷解するどころか、更に強まる事になる。

 

「エカテリーナ様によると、他国から小鬼を素手や棍棒にて撲殺する英雄と、強大なる魔法を用いる水の賢者が現れたとか……」

 

「……あの子は幻覚を見ておるのか? 小鬼にそのような幻術使いが居るとは思えんが……何にせよ、生きて帰って来たならばワシが解呪すれば良い。あの子は村の入り口に居るんじゃな?」

 

「は、はい……」

 

 困惑したように頷く若人。

 そんな彼の煮え切らない態度に、彼女は先程までの決意に水を差された気分だった。

 さりとてこれからミルネンは村人たちを捨て、孫娘を連れて北に去るのだ。

 そんな自分は最早村長でも何でもなく、彼に何も言う資格はないと考えて建物を出る。

 

 すると。

 

「お婆様! このお方たちが小鬼を全員討ち滅ぼしてくださったのです!!」

 

 ミルネンの姿を見るや否や嬉しそうな顔をして叫ぶ孫娘の姿と。

 

『◯※×#%>€¥』

『€$¥>=°%?』

『^\|〒÷☆→』

『%¥$÷○×?』

 

 4人ほど、ミルネンの生涯の中でも見た事のない姿をした異国の民が村の入り口で未知なる言語を使って会話しながら立ち往生している様子が見えた。

 そのうち1人は全身がびしょ濡れの上、その水でも取りきれなかったのか未だ小鬼共の返り血に塗れた姿をしている。

 ──他3人はともかく、彼が激戦を経てここにいるというのは誰が見ても明らかだった。

 

 ……まさか、先程の話は孫娘が見た幻覚ではなく本当の話だったというのか。

 そういった英雄が居ないからこそ、この村は滅びようとしていたというのに。

 これは夢なのだろうか? とミルネンは考えるくらいには非現実的な話だった。

 

 そうして、彼女は出会う。

 彼女と孫娘の運命どころか、この島……いや世界を変える英傑たちと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜エデン 北の果て〜

 

 

「やあ、目覚めたようだね。ランバート」

 

 意識を覚醒させた男は、自分に対して目の前で語り掛けてくる女を見る。

 

 ──美しい女だった。通常ではあり得ないくらいに。

 

 その長い黒髪はまるで絹のように滑らかであり、甘い香りを運んでくる。顔の造形はまるで人形の如く整っており、彼女が人間ではないナニカのような存在なのではないかと感じさせる程。

 細身の身体に長い脚。豊かな胸を持つ肉体美も完成され過ぎており、つまりは。

 

(そうか。天使か)

 

 男は自分の記憶がない事。

 現在自分が何やらふわふわした心持ちである事。

 最後に目の前の女の非現実的な美しさを勘案し、その結論を弾き出す。

 そして出た言葉が。

 

「ここは……あの世か?」

 

「うん? その反応は予想外だったけれど……確かに、キミからすればそうとも言えるのかもしれないね」

 

 目の前の天使はその整った顔を愉快げにしながら、そのように語り掛けてきた。

 

「あの世では……ないのか?」

 

「敢えて呼称するならば『新世界』が良いだろうね」

 

 美しき天使は続ける。

 

「滅亡する人類の中からキミやわたしを含めた100人の英傑を選び、記憶を消して1000年後の未来に送り込む新世界計画により、今キミはこうして右も左もわからない状況に立っているというわけだ」

 

「……待って欲しい。情報量が余りにも多すぎる」

 

 男は混乱した。

 幾らなんでも、記憶がない状況で、意識を得たのがついさっきという状況で、自分の名前すら目の前の存在が伝えてくれなければわからないという状況下において、すんなりと受け入れられるような話では到底なかったから。

 それに、目の前の美しい女はどこをどう見ても記憶など失っていないではないか。

 

「キミには悪いけれど、今は時間があまりなくてね。まずはわたしの言いたい事を言わせてもらう。それが終わって、状況が落ち着いてから考えるといい。……とりあえず、これからは歩きながら話そうか」

 

「君は……確かに天使ではないようだ。傍若無人……だが、君にそれをされて俺は悪いとは思わないのは何故なのか……」

 

 歩きながら考える。

 客観的に見て、男は理不尽な目に遭っていると思う。

 けれど未だ夢見心地の男は、それに憤りを感じる事はなく、むしろ彼女と自分はこうである事が正しいとすら考えていた。

 

「天使? ふっ……色々と面白い話ではあるが、まあいい。キミには、わたしの手足になって欲しいんだ。わたしは先ほどのようにキミに対しては色々な情報を開示するが、それ以外の英傑には基本的には最低限の情報しか教えるつもりはない」

 

 そして天使ではない彼女は歩みを止めぬままに、またもやその綺麗すぎる顔で楽しげに笑って。

 

「つまり、わたしたちは一緒に悪巧みをする間柄というわけだよ」

 

「……悪巧みをするのは君だけだろう……この状況、俺が拒否するはずがないと理解した上でするその策士ぶりも……君は実に悪い女だな」

 

 男には、記憶がない。

 情報が全くない以上、真偽はともかくそれを与える目の前の彼女に従う他はない。特に彼女の言葉を信じるならば、同胞たる人類は既に100名しか残っていない以上、共に歩まない道はない。

 

 ──仮に男が彼女を力で従えようとするような蛮族の如き思考をするならば話は別だが、男はそのような人物ではない。

 加えて言えば。

 

(彼女……俺より遥かに強いな。正直言って底が知れん……)

 

 男には、目の前の女と自分が戦って勝つ未来が全く見えなかった。

 つまり知識でも力でも負けている。

 これで彼女からの提案を拒否する奴は最早単なる馬鹿を超えて狂っているだろう。

 

「ふっ……つまり許容と受け取って構わないね? 良かったよ。意識を取り戻したばかりのキミの記憶を再度消したくはなかったからね」

 

「……やはり、君はその手段を持っているのか」

 

「予想していたかい? まあ、そうだろうね。キミからすれば、自分の記憶を消した新世界計画の首謀者はわたしにしか見えないだろうし、そしてそれは実際に正しいのだから」

 

 しゃあしゃあと次から次へと衝撃的な事実を口にする、目の前の天使ではないが極めて美しい女。

 

「……そうか。確かに、それは他の98名には聞かせられない情報かもな」

 

「ちなみに、この交渉は新世界では初めて行う物だ。何度もキミの記憶を消して交渉し続けているわけではないから、安心して欲しい。……まあ、キミに真偽を判断する術はないわけだけれどね」

 

 男が、彼女が記憶操作が出来ると聞いてまず最初に考えていた事をそのまま言ってくる。

 

「……君は、本当に恐ろしい人だな。言われずとも、君を敵に回すような者は極めて救えない愚か者しかいないだろう」

 

 彼は一瞬目を瞑ってから。

 

「……俺はランバートという名前だと理解した。君の名前を聞いてもいいだろうか?」

 

「これは失礼。──わたしはミラ。よろしく頼むよ、我が共犯者ランバート」

 

 こうして新世界における契機とも言える、100英傑の中でも最上位の一角に立つ2人の間での契約が交わされる。

 

 そして。

 

「──さて、そろそろ彼女と会える頃かな」

 

「……彼女?」

 

「ああ。わたしがこの新世界における最注目対象の1人と考えている人物の……来たようだ」

 

 ミラは本当に楽しそうに笑い。

 

「やあ、フォビア。久しぶり……いや、初めましてが適切かな?」

 

 話しかけたのは、銀・の・髪・をした、これまた非現実的な程に美しい女性で……

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