第6話:1度いじられキャラが定着したら…ね

「おはよう、フェルナンド。早いのね」

 

「おはよう、アリス。君こそ、何かしていたのか?」

 

 エルフもとい長耳族の村で1夜明かしてから。

 僕が朝少し早めに起きたところ、アリスが既に起床している姿が目に入った。

 

「魔法の練習を少しね。なにせ、この先には私より強い人類が2人も居るのでしょう? 戦うかどうかはともかく、少しでも力を取り戻しておかないと」

 

「フッ……流石だな。それでこそアリスだ」

 

 いや、本当に凄いな。

 向上心の塊というか何というか。

 普通、あれだけ色々あった次の日の朝に早起きして鍛錬なんてする? 

 そもそもアリス視点からすると、たったの昨日に記憶失ったばかりだというのに……。

 知ってはいたけど、常人のメンタルじゃないぞ。

 

「そう。ありがとう。……あなたと私って、1000年前もこうして良く話をしていたのよね?」

 

「ああ。かつての私たちが何を話していたのか聞きたいか?」

 

 僕が頷いてからそう問いかけると、アリスは首を横に振って。

 

「いいえ。他はともかく、そういうのってあまり聞くべきじゃないと思うから」

 

「……君は本当に凄いな。素直にそう思うよ」

 

 1000年前もそうだったけど、ほんとアリスは普通じゃないよね。

 だからこそ、僕は旧世界において彼女を主人公候補筆頭だと考えていたし、この新世界でその印象は更に強まった気がする。

 

「ふふ。素直にそう受け取っておくわ。──あら?」

 

 アリスが冗談めかして微笑みながら頷いた後、ふと向こう側を見つめて疑問の声を上げる。

 彼女の視線を追ってみると。

 

「……村長か」

 

 ロリババアエルフもとい、長耳族の村長ミルネンがこっちにやって来る姿が見えた。

 

「『我が意を運べ』……はい、翻訳魔法をかけたわよ」

 

「感謝する。……もう改良まで加えたのか。流石だな」

 

 アリスは昨日の村長のクソ長かった詠唱をこの短時間でたったの一言に短縮していた。

 いくら何でも天才すぎるんだよなあ。

 あれ、昨日も言ったように人類にとっては完全に未知の魔法だったんだけど。記憶を失ったばかりの奴にそんな事出来る? 普通。

 いやまあアリスの天才っぷりに関しては今更何を言っているんだって話だけどね。

 

 そうこうしていると村長が僕たちの近くまで来て。

 

「ここに居るのはお主らだけか?」

 

「ええ。どうしたの?」

 

 翻訳自体も、昨日の村長のそれよりアリスの魔法の方が明確に滑らかに出来ているな……

 それはともかく、返答を聞いた村長は一瞬目を瞑り。

 

「そうか……いや、逆にそちらの方が良いかもしれぬな。お主らに、頼みがあって参ったのじゃ」

 

「頼みって?」

 

 あと、ダークネスとカルロスの2人が居ない方が良いというのはどういう事なのだろうか? 

 僕とアリスの2人って、村の入り口でやらかしちゃった以上はむしろ村長からは恐れられていても仕方ないと思うんだけど。

 

「お主らは、今日より北に向かって旅立つのじゃろう?」

 

「ええ、そうよ」

 

 ……まあ、村長からすればおかしな話なんだろうね。

 3人にはまだ話していなかったんだけど、ここはエデンの南端に近い位置にある。

 つまり、村長からすれば僕たちは北からやって来たのにも関わらず、新たに北へと旅立つ為の地図を求めたりする謎の異種族という事になるからね。

 あるいは僕たちは海の向こうから来たとか思っているのかな? 

 どっちでもいいけど。

 

「……お主らには並々ならぬ事情があるのじゃろう。それら全てを問わぬ。また、結界魔法が知りたくば教えるし、他にも興味のある魔法があるならば伝授しよう。その代わり……」

 

 ロリは何やらめちゃくちゃ覚悟を決めたような感じを出して。

 

「ここから少し北にある長耳族最大の集落に着くまでの間、ワシと孫娘を共に連れて行ってはくれぬか」

 

 なんて提案してきた。

 

 ……へえ……

 随分と面白い事を言い出すじゃないか。

 

「ふうん……面白いわね。あの2人ではなくて私たちに相談してきた点も含めて。あなたは私たちを恐れていたような気がするのだけれど?」

 

「そうじゃな。お主ら2人は、あまりにも底が知れぬ故に。しかし……」

 

 ロリは再度、一瞬溜めてから。

 

「お主ら4人の中心は、ダークネス殿でも英雄殿でもなく、お主たち2人なのじゃろう?」

 

 うーん。あの短時間で良く見てるなあ。

 流石の年の功といったところか。

 まあ、アリスはともかく僕は仕方なくそうなっていたというだけで、今後は中心になるつもりは全くないけどね。

 ……というか、カルロスって英雄殿って呼ばれてるんだ。

 

「……そういうわけでもないのだけれどね。ただ……まあ、そう見えても仕方ないか」

 

「フッ……私はともかく、アリスが中心である事に違いはあるまい。事実として、行動方針を決めているのは君だ」

 

 僕がそう言うと彼女は苦笑を浮かべてから。

 

「……確かにそうかもしれないけれど……リーダーというのは柄じゃないのよね。まあ、いいわ。とりあえず、私は構わないわよ」

 

 アリスはそう言ってから僕を見てきて。

 

「あなたは……愚問か。どうせ『君たちが選ぶといい』とか言うのでしょう?」

 

「フッ……わかってきたじゃないか」

 

「……はあ。1000年前もきっとこんな感じだったのでしょうね……」

 

 うん。それはその通り。

 なんていう僕たちのやり取りを聞いていた村長が。

 

「そうか……引き受けてくれるか……誠、感謝申し上げる」

 

 僕たちに頭を下げてきた。

 うん。てっきり僕はこれから人類のみ、つまり100英傑のみで新世界を進むものと考えていたけれど、確かにこっちもそれはそれで面白いかもしれない。

 色々と物事が予想外に進むけど……新世界というのはやはりこうでなくてはね。

 

 

 

 

 というわけで、目を覚ましたダークネスとカルロスも、当たり前のように村長とエカテリーナって名前の少女型長耳族を連れて行く事に賛成したので。

 

「これより結界を構築する」

 

 村長が水晶を僕たちの目の前に持ってきて、これから一体何をするのかと思ったら、どうやら結界魔法を実演してくれるとの事。

 昨日は秘中の秘とか言ってたような気がするけど……まあ、村長たちの事情なんて別にどうでも良いか。

 

「この水晶……魔力が入っている? けれど、本来より減っている感じがするわね」

 

「アリスリーゼ殿、やはりお主には感じ取れるのか」

 

「ぼくもこの水晶に対してアリスさんが言うのと同じような印象を抱きます。……それに……」

 

 水晶をまじまじと眺めてから、何かを言いたげにした後ダークネスが考えに耽り始めた。

 どうしたんだい? 意味深なセリフを言うのは僕の役目だぞ。

 ……いやまあ、ダークネスが考え込んでいる理由は彼の能力を知っている僕には大体想像出来るけど。

 

 そんな中、カルロスは特に何も考えていないような感じで。

 

「はえー。俺にはなんもわかんねえな。フェルナンドはどうだ?」

 

「フッ……どうだと思う?」

 

「わかるんだな……まあそりゃそうか」

 

 ううん。全くわからない。

 しかしそれを直接口にしては意味深さがなくなる……とまでは言わないが間違いなく減ってしまう。

 さりとて、逆にわかるのだという嘘を吐く事も出来ない。

 意味深な男というのは、わざと誤解を招く言い回しはすれど、余程の事がない限りは嘘を吐かないのだ。

 

 あと、カルロスは昨日だいぶ参っていたけど、既にいつもの調子を取り戻したらしい。いつもと言う程カルロスの事知らないけど。

 とにかく、メンタル弱いんだか強いんだかわからないな。

 

「では、詠唱を始めるかの」

 

 ロリババ……村長は杖を地面に突き刺してから。

 

「……大いなる水晶よ、大地よ、空よ……」

 

 ふむ。

 

「……我らを守護する守り、堅牢なる……」

 

 うんうん。

 

 

 ──10分後。

 

 

「……悪意を通さず、聖なる加護を……」

 

 ……ええと。

 

「長いわね……」

 

「なんかもう眠くなってきたな……」

 

「……あはは……」

 

 昨日の翻訳魔法を遥かに超えるクソ長い詠唱だったため、3人はボロクソに言っていた。

 まあ、僕たちは昨日からアリスの無詠唱魔法ばっかり見てるからね。

 

 でも、旧世界最高の魔法使いであるアリスが基準になってしまうのは良くな……いや、新世界には100英傑しかいないから気にする必要ないな。全員、何かしら凄い所があるからね。

 

 そうして、しばらく経ってようやく。

 

「『聖域よ展開せよ』……ふう。終わったぞ」

 

 村を囲む形で結界が構築された。

 楕円形で、中にいる者も外に出られないように見えるけど、入り口部分においては長耳族と僕たちは通れるように設定したとの事。

 

「ようやくね。でもこれ……」

 

 アリスが結界を見てから何やらブツブツ呟き出した。

 うーん。自分ならもっと早くに硬い結界を展開出来るとか思ってそう。

 少なくとも旧世界だと出来てたし、村長のこれは実戦に耐えうる物ではないからね。

 研究対象としては実に興味深いんだろうけれど。特にあの『天理の賢者』辺りは大喜びしそうだ。

 

 そしてそんなアリスを横目に。

 

「ほーん。これが小鬼たちから大体1ヶ月守ってくれる結界、ねえ」

 

 カルロスが結界をまじまじと眺めながら何やら呟いている。

 うーん。パンチしたら割れるかなとか思ってそう。

 深い考えなんてきっとないだろう。

 

「……カルロスさん、ダメですからね」

 

「!? そ、そんな事しねえって!!」

 

「まったく……何をしようとしていたのよ」

 

 うん。やっぱりパンチするつもりだったなコイツは。

 

「……お主ら……まあ、良いのじゃが。これでワシが不在でも暫くは保つじゃろう」

 

 村長が呆れ顔をして好き勝手言いまくる3人を見る。

 このロリ、なんか色々苦労してそうだね。

 

「アリスリーゼ殿。こうして見せた以上、お主ならば後は自力で習得出来るのじゃろう。……既に秘宝の魔力も尽きた。どこでどう結界魔法を使おうと好きにするといい」

 

 そう言った後、何やら哀しげに顔を伏せてから。

 

「それに、ワシはもう……」

 

 何かを言いたげにして止める村長。

 ダークネスもそうだけど、まさかこいつら、僕の立ち位置を奪おうとしている……!? 

 

「……あの、ミルネンさん。秘宝の魔力が尽きたのなら、触れてみてもいいですか?」

 

「……? まあ、構わぬが……最早単なる少し綺麗なだけの石ころじゃぞ?」

 

 というわけで、ダークネスが水晶に触れると。

 

「……な、何じゃと……!? 秘宝が、再び光を……!?」

 

 うん。どうでもいいけどこのロリ、即堕ち2コマが定着して来たな。

 

「……さっきより魔力に満ちているわね。ダークネスにはそんな能力もあったの?」

 

「ぼく自身、何となく出来そうだなと思ったくらいなので……実証も初めてですし」

 

「フッ……流石はダークネスといった所か」

 

 物に自分の魔力を込めるのは旧世界におけるダークネスの十八番だったからね。

 村長には悪いけど、村の周囲を囲む結界を定期的に張る程・度・の物ならば、彼からすればあまりにも容易な代物だろう。

 

 そしてアリスが僕の方を何故かジト目で軽く睨んで来たけど……なんでだろうね(すっとぼけ)。

 

「こ、これならば話が変わ……い、いや! ワシは既に決意したのじゃっ!!」

 

 ロリが何やら1人で葛藤している。

 まあ、別に知った事ではないけれども……

 

「村長、すまないが武器庫へと案内してはくれないだろうか? 詳しい者を紹介してくれる方向でも構わないが……」

 

 武器。

 うん。僕としては何より先に武器が欲しいからね。

 というか僕以上に、カルロスに武器を与えないとまたあの地獄が作り出されてしまう。

 

「そ、そうじゃな。すまぬ。案内するから、着いてきて欲しい」

 

「よっしゃ! ようやくオレのターンだな!!」

 

 カルロス君は魔法だの魔力だのの話に着いていけなくて、ちょっと居心地悪そうにしてたもんね。

 気持ちがわかってしまうのが悲しいけど。

 

 

 

 

 

「ふっ! らあっ!」

 

 カルロスが様々な武器をブンブン振り回しているのを眺める僕たち3人。

 ロリが言っていたように武器の質はあまり良くなさそうだけど、さりとて素手や汚い棍棒よりは流石にマシな物が揃っていた。

 

 遠目にあのエカテリーナとかいう孫娘エルフもとい長耳族もカルロスを見ているのが見えるね。

 僕はあの娘には全く興味がないからどうでもいいけど。

 

「ねえ、フェルナンド」

 

「どうした?」

 

 椅子に座って頬杖突きながら眺めるアリスが話を振ってくる。

 

「カルロスは1000年前はどんな武器を使っていたの?」

 

「ふむ……」

 

 僕は意味深さを醸し出す為に少し考えるフリをしてから。

 

「私は100英傑の全員と関わりがあった訳ではないからな。勿論、英傑たちの数々の逸話は耳にしていたが……愛用する武器まで全て把握はしていない」

 

 うん。

 例えばあの生ける神話であり、全盛期であれば他の英傑99人を同時に相手しても勝てると言われている伝説の存在『神殺し』が剣使いだというのは、彼と直接話す経験がなかったとしても旧世界に生きる者であれば誰でも知ってる話だけども。

 

 他全員についてそんなに詳細に知ってる訳ではないんだよね。

 魔法陣に入れるのをアリスの横で眺めていたから、顔と名前くらいは流石にわかるけれども。

 

「ふうん……つまり、カルロスはそこまで有名じゃなかったと」

 

「つまりはまあ、そういう話になりますよね」

 

「……なんかオレ、ボロクソに言われてねえか……?」

 

 あ、カルロスも聞いてたんだね。

 

「フッ……冗談だ。カルロスが使っていた武器は勿論把握している。私にとって、君は印象的な英傑の1人だったからしっかりと記憶しているさ」

 

「い、いくらなんでも趣味が悪りぃぞ!!」

 

 激昂するカルロス君。

 すまないが君がいじられ役なのは僕の中で定着してしまったんだ。

 すまない。

 

「フッ……すまない。ただ、1000年前に縛られる必要もないと思ってな」

 

「……確かにそうね。魔法もそうだけれど、武器も新しいのを使って全然構わないわけだし」

 

 僕のその場の思い付きによる適当な中身のない発言に対してアリスがいい感じにサポートしてくれる。

 流石は我が相棒といった所。

 

「ああ。固定観念に囚われるのは、君たち100英傑には相応しくなかろう」

 

「……いや、それならそうと前もって言ってくれねえか……?」

 

「この人にそれを今更言っても仕方ないわよ。まだまだ聞き足りない事も沢山あるし……」

 

「あはは……それはそうですね」

 

 うん。意味深ポイントをしっかり貯められたようで満足だ。

 結局僕はカルロスが何を使っていたのか言ってないからね。

 いつも通り、なんかそれっぽい事を言って誤魔化しただけなのである。

 

 僕は自分用のナイフを手に取りながら悦に浸っていた。





◾️お願い◾️


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