恋愛アバター

Nanatu772


 満天の星空が広がる原っぱの上に、木のベンチが置かれている。そこに、俺とミーナは座っていた。さっきまで、別のワールドで皆と話していたが、ミーナが星を見たいというので、二人でこのワールドに移動してきた。

 隣に座るミーナの手と俺の手は重なっている。伝わるはずのない体温を感じて、自分が緊張していることがわかる。女の子と二人きりになることが初めてなわけではない。それなのに、心臓が痛いくらいに跳ねている。

ちらりとミーナを見ると、セミロングの青い髪の上についた猫耳がピコピコと動いている。切れ長の大きな目は、星空に向けられていて、なんだか憂いを帯びているようだ。

「ねぇ、ニッシー」

 声をかけられ、盗み見るようにしていたのがバレたのかと思い、慌てて視線を空に向けた。ミーナはそんなことを気にした様子もなく続ける。

「ニッシーはさ、私のこと、どう思ってる?」

「どうって?」急な質問に戸惑った。「急にどうしたの?」

 ミーナは顔をこちらに向けて、俺の顔を、目を、見つめてきた。

「そのままの意味。私のこと、どう思ってるか訊かせて」

 綺麗なライトブルーの瞳には、俺は映らない。ミーナをどう思っているか、一瞬、頭によぎった考えを振り払うように頭を振る。現実で頭からずれたゴーグルを戻して、ミーナに向き合う。男なら、ここが覚悟を決める時、そう思った。

「ミーナのことは、好き、だと思う」

「え?」ミーナが驚いたような声を上げる。すぐに、顔も驚いた、という表情に変わった。

「え、あ、そっか。そうだったんだ」ミーナは俯いて呟くように言う。

 てっきり、そういう意味で訊かれたのかと思ったが、間違えたかもしれない。

「ごめん、そういう意味じゃなかった?」

「ううん、私も同じことが言いたかった」ミーナは首を振った。

 ミーナは嬉しそうな表情になる。その顔を見て、俺はホッとする。

「ミーナも俺の事を?」

「うん」

 ミーナと目を合わせる。二人の間に微妙な沈黙が流れる。なにか言おうと、口を開きかけた時、ミーナが顔を近づけてくるのがわかった。反射で目を閉じたが、閉じるのはこっちではないと、アバターの目を閉じさせた。ミーナの顔が全面に映し出されて、唇を合わせようとするが、距離感が難しい。俺が困っていると、

「動かないで」

 ミーナはそう言って、ミーナから角度を調整してくれた。ワールドの穏やかなBGMが二人の間に流れる。感触も息遣いも匂いすら感じないが、自分がキスをしているという感覚があった。

 いつのまにかミーナは、俺から離れている。顔を赤らめていて、いつものミーナよりもずっと可愛らしい。なにか気の利いたことを言おうとしたが、言葉が浮かばない。

「ごめん。なんか、気分が盛り上がっちゃって」

 ミーナが気まずそうに謝る。俺がなにも言わないので、嫌だったと思われたらしい。

「いや、違くて。嬉しかった。ただ、ちょっと困惑して」

「ここじゃ、初めて?」

 キスのことを言われているのだろう。

「うん。なんか不思議な感じだった」

「慣れるとね、リアルな感触がするようになるんだよ」

 慣れる、と聞いて少しだけ心がモヤついた。

「ミーナはこういうこと慣れてるの?」

「ううん。ニッシーが初めて。慣れるって言ったのは、手が触れたり、身体を近づけた時、ってこと。そんな誰かれ構わずしてないよ」

 ミーナが怒ったように言うので、俺はホッとした。

「あのさ、ミーナ。良かったら、俺とさ」

 その、と続く言葉が出てこない。付き合って、恋人に、いや違う。ここではそう言わない、確か、そうだ。

「俺とお砂糖になろうよ」

 俺が言うと、ミーナは驚いたように口に両手を当てている。そしてうつむいてしまう。言葉を間違えただろうか、慌てて訂正しようとすると、

「いいよ」ミーナがボソッと聞こえるように言った。 

「え?」

「だから、いいよって言ってるの。なん度も言わせないで、恥ずかしいんだから」

 ミーナは上目遣いで俺を見ている。恥ずかしいのを表すかのように、顔が赤くなっていた。かわいいなと、一瞬見とれてから、言葉の意味を理解した。

「本当に!?やった!」

 素直に喜びが漏れる。恋人とは言わない、でも他の人より特別な存在。ミーナの傍にいることを俺は認められたのだ。

「そんなに喜んでくれると、私も嬉しい」

 ミーナも満面の笑みを見せてくれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る