第4話 だいだら法師
私の住む町の割と近くに狭山丘陵はあります。
東京と埼玉を東西に区切るようにして細長く延び、里山の風景を今に残します。
ジブリ映画「トトロ」の舞台となった場所としてご存知の方もいらっしゃるかと。
今でこそ自然公園として保全されるようになりましたが、
私が幼い頃は割と自由に丘陵内を探索する事ができました。
そうして遊びまわった記憶の中にだいだら法師の足跡とされる井戸があります。
簡易な囲いに立て看板程度のひっそりと佇む不思議な水たまり。
看板を読むと様々な伝承が伝わる巨人の足跡だと言う。
やれどこそこの山を作ったとか、どの山に腰かけたとか
数えきれないほどの逸話が残る伝説の巨人なのです。
面白かったのはそのだいだら法師の足跡が一か所ではなかった事。
夢中になって遊んでいるうちにいつしか見知らぬ場所に迷い込んでしまう。
でもだいだら法師の足跡を見つけて、
なんだ知っている場所だったのかと勘違いをし、
周辺をうろつくうちに違う場所だと気付く。
その時の失望感よ。
夕暮れが迫り、徐々に心細くなってきて、
泣き出したくなった事を覚えております。
今はかつてほど自由にどこでも入れるわけではありません。
森林保護のため立ち入り禁止となっている場所がそこかしこにあるからです。
少し前懐かしく思って井戸を探しに出かけた時は入る事ができなかった。
あれから時間も経ったことだし近いうちに行ってみよう。
できれば夕暮れ時がいいだろう。
誰一人いない自然の中で神秘を感じるにはやはりあの時間が打ってつけだからだ。
ひょっとすると心細くなり泣きたくなったあの時の気持ちも思い出すかもしれない。
たまにはそんな郷愁に似た気分に浸るのも乙なものだろう。
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